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手の届く距離で



「ミーティアァアアア!!!!!!」


 青い髪を視界の端に捉えた瞬間、星一は力の限り叫んだ。

 響き渡る大声に、ミーティアと警官が驚いて振り返る。


 星一は急いで走り寄ると、息を整えるのもそこそこに言い放った。


「はあはあ………その子は、海外から、昨日こっちに、来た……はあ……僕の従妹です」


 えっ、と驚愕に目を見開くミーティアに、星一は彼女に素早く目配せをして話を合わせるように言外に告げる。

 ミーティアはその目線の意味を素早く理解し、星一のそばに寄って制服の裾を素早く掴んだ。そして俯きがちに警官を見て言った。


「そ、そうです。私はお兄さんの従妹です……」


 だが警官は、ミーティアと星一の顔を交互に見比べて怪訝そうな顔になる。


「従妹?それにしてはあまり似ていないみたいだけど」

「まあ、彼女はハーフですし、僕も叔母とはあまり似ていないのでそう言われてもしょうがないですね」


 星一はまるでその質問を予期していたかのように淀みなく答えた。我ながら詐欺師の才能があるんじゃないかと内心で苦笑した。


 警官はジッと星一の目を見ていたが、どうにか信じてくれたようで小さく頷いた。


「ふむ……それにしてもこの子の髪の色は何かな?青い髪っていうのは例え外国の人間であっても聞いたことがないなぁ」


 まだ引っかかる、といった警官の態度。

 だが星一は表情を崩す事なくそれに答えた。


「んー本人が話したがらないのでそこら辺は突つかないでおいていただけると助かります」


 星一がそう言うと、さすがにデリケートな部分にまで踏み込む事ような真似はしないようで、警官はそれ以上追求しなかった。

 それから警官は、星一の影に半身を隠しているミーティアの方を向いて謝罪を口にした。


「分かった。事情を知らなかったとはいえ、こちらも少々強引だった。すまなかったねお嬢さん」

「……分かってくれればいいわ」


 ミーティアは既に目深に被り直したフードにその双眸を隠したまま言葉少なく返答した。

 その素っ気ない態度を見て警官の顔に罪悪感が浮かぶが、これ以上彼女を刺激してはならないと思ったのか、彼は制帽を被り直してから別れを告げた。


「では失礼するよ」

「ご迷惑をおかけしました」


 ぺこりと星一が頭を下げると、警官もそれに応えて軽い会釈を返した。


「いや、こちらこそすまなかった。では」


 だがそれで終わりではなかった。


「ねえ、おじさん」


 立ち去る警官をミーティアが呼び止める。

 その声に背を向けて歩き出していた警官は立ち止まった。そして彼がミーティアの方へと振り返った瞬間、一足で距離を詰めたミーティアが手に持った丸い小さな何かを相手の目へ向けて上部に付いたボタンを押した。


「ん?どうしたのッッッ!!?」


 閃光。


 太陽の光を何倍も圧縮したような眩い光が辺りを覆い尽くした。


「うわっまぶしっ!!」


 ミーティアの体が遮ってくれたおかげで大分軽減されたものの、そのあまりの明るさに星一は腕で顔を覆った。


 光が収まると、平然とした顔で佇むミーティアの横に警官が口をだらんと開けたまま固まっていた。

 放心しているわけでも気絶している訳でもなく、ただ"固まっている"。まるで彼だけ時が止まってしまったかのようだった。


「何をしたの?!」


 突然弾けた閃光と直後に出来上がった異常な光景に星一は声を裏返した。


「記憶消去。私に会ってからの記憶を消させて貰ったわ。この星では青い髪は目立つようだから、見られたせいで今後の活動に支障をきたすのは困るもの」


 ミーティアは冷めた目で警官の方を見遣りながら平坦な口調で答えた。


「なっ……」


 絶句した星一にミーティアは宥めるような声音で説明する。


「安心して。これは脳に障害が残ったりはしないから」

「………そうじゃなくて」

「この数十分の記憶がなくなる他に害は無いわとってもクリーンなものだから」

「そうじゃない!!」


 声を荒げた星一に困惑顔になるミーティア。

 自分の行動はM4のエージェントとして当然のことだったとミーティアは思っている。それでもきちんと説明したのは、地球(アース星)人の星一には異常なものと映ったかもしれないと考えたからだ。

 だが、星一が問題にしているのは違う事のようだった。


「心配したんだよ。その……もしかしたら迷っているかもしれないとか、面倒事に巻き込まれてるんじゃないかとか……」


 上手く自分の思いを言葉にできずに拳を握る星一。

 対照的にミーティアは淡々とした口調で言葉を返した。


「でも結果的に問題は無かったでしょう?」

「結果だけ見ればね。でも今こうして警官に不審に思われて危ないところだったかないか」


 そんな星一の懸念をミーティアはあっさりと否定する。


「私は訓練を受けたエージェントよ。いかようにも切り抜けられるわ」

「じゃあこれが2人に増えたら?」

「余裕ね」

「5人」

「軽くあしらえるわ」


 ミーティアは表情を変えない。


「10人なら?」

「………少し時間はかかるけど余裕かしら」


 次の問いかけに少し言い淀んだところで星一は質問を変えた。


「ミーティアなら可能なんだろうね。でも今は万全とは言えないでしょう?」


 口端を少し上げた星一に怪訝そうな表情を浮かべるミーティア。


「それが何か?」

「いくらここが平和な国だろうと、日本には治安を維持する組織とそれなりの防衛設備がある。ミーティアが暴れて危険人物とみなされればそれを抑えるために動くのは当然のことでしょう?」


 遠回しな星一の警告をミーティアは一笑に付した。


「どんな武力持ち出してこようと、それに抵抗する術はあるわ。殆どの装備を失ってるけれどそれくらいは出来るわね」

「ふふ……それじゃあ本末転倒じゃないか」


 だが、そのの反論を薄ら笑いで返されてミーティアは眉根を寄せた。


「どういうこと?」

「ミーティアの目的はコメット星人の調査でしょう?白昼堂々と騒ぎを起こせばそれを見た通行人から情報は拡散されるよ。当然それはあのコメット星人にも知れ渡ることになるだろうね」

「む……」

「そうしたら活動しづらくなるんじゃないの?」

「むう………」


 星一のもっともな意見にぐうの音も出ないミーティア。

 論破されて不満そうに口を尖らせるミーティアを見て、星一はその顔を真剣な表情に戻した。


「1度乗りかかった船だし、協力は惜しまない。だけど力を貸す以上無茶はしないでもらいたい。行動を起こすなら僕が近くにいる時にして欲しい」


 星一は自分がお人好しである事を自覚している。

 だから目の前に困っている人がいたら、例え自分の用事を投げ出してでも手を差し伸べてしまうだろう。

 しかしそれはあくまで自分の目の届く範囲内だけだ。

 星一は勇者ではない。

 物語の主人公のように面倒事を全て引き受けて、なんだかんだで全て解決する様な離れ業は出来ないし、側にいない相手を策を弄して未然に救う事など不可能だ。

 だが自分がその場にいれば、困ってる人の隣にいるのならば、自分の力を余すとこなく貸し出して状況を良い方向に変える自信が星一にはある。

 だからこそ今回のようにミーティアが自分が力を貸せる範囲から出て行った事に焦ったのだ。


 それをなんとなく理解したミーティアは星一の説得に応じた。


「…………分かったわ。今回は私が悪かった。ごめんなさい。次からは気をつけるわ」

「よろしく頼むよ。話は終わったし、もう帰ろうか」

「うん。あ、コロッケは?」

「いっぱい買ってきたよ」


 その答えに目を輝かせるミーティア。


「!!すぐ帰りましょう」

「はいはい。ところでこの人はどうなるの?」


 早く早くと急かすミーティアに、星一は放置されっぱなしの警官に目を向けた。


「あと10分もしたら気がつくわ。だから早めにここを立ち去りましょう。家で最優先事項(コロッケ)が待ってるわ」


 星一をおいてどんどん先に行くミーティア。


「おーいそっちじゃないよ!」


 見当違いの方向へと歩き出すミーティアを呼び止めながら、涎を垂らしそうなほど緩んだミーティアの口元を見て星一は、もしかしたらコロッケが世界を救うのかもしれない、という考えが頭をよぎった。


「コロッケか……………いや、まさかね」

「セーイチ〜早く〜」

「はいはい」


 だけどすぐに馬鹿馬鹿しい事だと、その考えを頭の隅に追いやった。




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