第九話 書類
「早速本題に入りましょうか。調査報告をお願いします」
中学生の声質で愛澤は高崎に話しかけると彼はソファーの上に置かれた鞄から茶色い縦長の封筒に入れられた書類を取り出し机の上に置いた。
「この書類に真実が記されている。二人の内一人が生き残って一人が死んだ。これが真実だ」
高崎が簡潔に真実を語ると少女は書類に目を通す。
「なるほど。やっぱり彼女は亡霊ですか。都合がいいから殺したと言ったところですね」
「それはどういうことだ」
高崎一が首を傾げると少女は頬を緩める。
「知らない方がいいですよ。あなたはこちら側の人間ではないから。それに教えなくてもいずれあなたは生き残った方の幼馴染と再会します。もしかしたら彼女はこのカラオケボックスの中にいるかもしれません」
少女が笑みをこぼすと高崎は目を点にする。
「冗談だろう。あいつが生きていることは分かったが、どこで生きているのかまでは分からなかった。そんなことがあったら奇跡だろう」
「やっぱりあなたは真実を知らないようですね。次は生き残った方の幼馴染と一緒に会いに行きます」
「その口ぶりだとあいつの居場所を知っているということか」
「どうでしょうかね」
少女がはぐらかすと高崎は再び少女に問う。
「ところでなぜ俺に依頼した。確かお前には知り合いの探偵がいるだろう。そいつに依頼すれば良かったのではないか」
「その知り合いの探偵に真実を知らせないためです。どこで僕の導き出した真実が流出するのかが分かりません。本音はあなたに真実を導き出す手がかりを与えたかったというものです。まあ僕はあなたを変装させることができる。その変装で探偵業務が迅速に片付いているのも事実。だから恩返しのつもりだと思ってください」
高崎は右腕に付けた腕時計を見ながら少女に話しかける。
「一通りの話は終わったな。一応三十分で予約したがこれからどうする。残り時間は二十五分だが」
「あなたは暇ということですね。久しぶりにカラオケを楽しみましょう」
「愛澤。ところでまだその女子中学生の声で喋るのか。そろそろ元の声に戻してもいいだろう」
「カラオケボックスって室内の会話は外に漏れることはないけど、歌声は外に漏れることが多いでしょう。女子中学生に似つかないアラフォー男子の歌声が十三号室から聞こえたら店員に疑われる。だからカラオケボックスではこの声で歌います。歌唱曲も女子中学生が歌いそうな曲を選択します」
「相変わらず慎重な野郎だ」
高崎が呟くと愛澤はカラオケの端末を操作する。少女が端末の送信ボタンを押すとモニターに『ハピネス・クライアント』という文字が表示される。
その選曲に高崎は目を点にする。
「それは女子中学生の間で流行しているのか」
イントロが流れる中で高崎が突っ込むと愛澤は右眼を閉じる。
「女子中学生は大体アイドル大好き。みんな。いくよ。ハピネス・クライアント」
二十五秒に及ぶイントロの後愛澤は女子中学生のような声で歌う。