第二十話 抗争
午後九時三十分。東京湾第六コンビナートの前に一台の自動車が停車した。その自動車の運転席からアフロ頭の男戸川が降りる。
戸川は夜空を見上げながらスマートフォンを取り出す。その直後白ずくめの怪盗が運転するバイクが戸川の前に停車した。
「怪盗リアス式海岸」
怪盗は聞き覚えのない声に首を傾げる。
「誰ですか。あなたは」
「お前の依頼人だよ。海外で活躍するお前にエヌビアン共和国から出土した四種類の宝石を盗めと依頼したのは俺だ」
「最後の仕事で依頼人がサプライズ登場とは。粋な計らいですね」
怪盗がボイスチェンジャー越しに声を出すとコンビナートの周りを水色の衣服で身を包んだ集団が囲んだ。その集団は全員拳銃を構えている。
「こいつらは俺の部下たちだ。お前は必要なくなった。だからこの場で処分する」
戸川が冷酷に拳銃を取り出す。緊迫した空気が流れる中、白いヤンボルギーニ・ガヤンドがコンビナートの近くに停車した。
その自動車から愛澤が降りてきて両手を挙げながら戸川に近づく。
「そろそろ謎解きを始めましょうか」
「謎解きか。何が謎なのかは理解できない」
戸川が聞き返すと愛澤は不敵な笑みを浮かべる。
「新興宗教団体『神の右腕』の目的ですよ。教祖さんは鮎川源一郎の手に渡った宝石を取り返してほしいと言っていましたが、それは嘘ですね。宝石を本拠地から持ち出した信者を処刑したというのも嘘。この日本国内で発生した怪盗リアス式海岸の犯行は新興宗教団体『神の右腕』による自作自演だったということです」
戸川は唇を噛み愛澤の推理に耳を傾ける。愛澤は淡々と推理を続ける。
「新興宗教団体『神の右腕』が経営する施設に展示されている宝石を世間が注目する怪盗が盗むと言えば施設が注目の的になる。それを利用して新興宗教団体『神の右腕』は新規の信者を獲得した。盗んだ宝石が密に依頼人であるあなたたちに渡れば被害はゼロ。宝石が出土した遺跡を管理する鮎川源一郎に大金を渡し共犯者にすれば、宝石の本来の持ち主は騒がないから、未知の新興宗教団体による自作自演という事実を隠蔽できる。これが一連の事件の真実ですが間違いはありませんか」
愛澤の推理に戸川は拍手する。
「素晴らしい推理だ。やはりお前もここで消すべきだな。真実に気が付かないフリをしていれば殺されずに済んだが、もったいないことをしたな」
戸川は愛澤に銃口を向ける。だが愛澤の表情は変わらず余裕のあるようだった。
「全く。あなたは馬鹿ですね。何の対策もせずに怪盗をこのコンビナートの前におびき出す作戦であることを伝えると思いますか」
愛澤が白い歯を見せると一発の銃弾が戸川の左手を撃ち抜いた。
戸川は痛みに耐えながら周囲を見渡す。
「狙撃か。どこから狙っている」
「どこでしょうか。レミエルは喜んでいましたよ。本来は狙撃を禁止されていたけど、武力抗争ならということなら狙撃を許可されたから」




