第十七話 対峙
停電で暗闇に包まれているビルの内部を人影が走る。その人影は白い仮面や白いローブで身体的特徴を隠している。
仮面の人物の右手の人差し指にはルビーの指輪が填められている。
怪盗リアス式海岸と呼ばれる盗賊の視線の先には階段がある。あの階段を降りれば非常口まで一直線。怪盗といえば天空を舞うハングライダーや熱気球などスマートな方法で逃走するのが普通だが、怪盗リアス式海岸は違う。怪盗リアス式海岸は予め非常口に駐車していたバイクに乗って逃走する。
現実的な逃走手段ではあるが、怪盗のドライブテクは凄い。
そんな中怪盗の耳に階段を昇る足音が聞こえる。僅かな殺気。ただの警察官ではないと怪盗は身震いする。
「やっぱり降りましたか」
月の光がガラス窓から差し込み黒いスーツに身を包んだポニーテールの女が怪盗と対峙する。
「警察ではないな。名前は」
怪盗は胸元の仕込んだボイスチェンジャーで声を変えて女に話しかけ、女に歩み寄る。
「ウリエルです。先程あなたが遭遇した日本刀の使い手の仲間だと思ってください。その指輪を返してください。それと私に近づかないでください。あなたをスナイパーが狙っています」
「スナイパーか。只者ではないことは分かった。私の座右の銘は有言実行。予告状を出した以上ただで帰るわけにはいかない。必ず宝石を盗み生きて帰る」
「残念ながら我々を敵にすれば生きて帰るのは困難ですよ。我々が関わればどんなビルでも難攻不落な迷宮になる」
「差し詰め最強の警備員といったところか」
怪盗は拳銃を見せる。それより早くウリエルはスタンガンを取り出した。
「お嬢ちゃん。スタンガンで拳銃に勝てるわけがなかろう」
ウリエルは怪盗にスタンガンを向け、怪盗との距離を詰める。その瞬間怪盗は拳銃を発砲する。発砲音はサイレンサーで掻き消され周囲の住人たちには聞こえない。
ウリエルは銃弾の気道を電流で変える。その隙を突き怪盗はウリエルの真横を通り過ぎていく。
怪盗はウリエルの耳元で囁く。
「銃弾の気道を変えるとは。さすがだな。急所を外したんだが、怪我がなくて何よりだった」
そのまま怪盗リアス式海岸は階段を降りていく。ウリエルは怪盗の後を追わず、スマホを取り出し仲間に電話する。
「ウリエルです。怪盗リアス式海岸をとり逃がしました。お願いします」
『了解』
「態々すみませんね。帰国早々つまらないことに巻き込んで。鴉さん」
間もなくしてアユカワビルの裏口に停車した駐車場から怪盗リアス式海岸が運転するバイクが走り去る。その直後怪盗と同じ服装を着た四人組がバイクで走り去った。
一分後一台のパトカーがバイクに跨る怪盗を捉える。パトカーに乗っている警察官は無線で神谷サツキに連絡しようとしたが、何の反応もない。
このままでは怪盗の姿を見失うと判断した警察官はパトカーを走らせ怪盗の行方を追う。
だがその道路上では奇妙な光景が展開されていた。怪盗の姿をした五台のバイクが赤信号で停車している。
警察官は怪盗の作戦に怯まない。助手席に座っているもう一人の警察官が無線を取り警察官たちに呼びかけた。
「捜査員に告ぐ。怪盗リアス式海岸と思われるバイクを五台発見。どれが本物か分からない。五台のバイクを残らず追え。繰り返す。五台のバイクを追え」
間もなくバイクはそれぞれ分かれ別の道を走る。
その頃ウリエルは窓から夜景を見下ろす。
「スナイパーという言葉を出せば動揺すると思っていたに効果がなかったとは。嘘を見抜かれたのかもしれませんが、中々やりますよ。怪盗リアス式海岸」
ウリエルは怪盗リアス式海岸を称賛すると、自身も階段を降り、駐車場に停車したバイクに跨る。彼女はそのままアユカワビルから逃走する。
一方ハニエルはアユカワビルの屋上に離陸したヘリコプターに乗り込み、逃走した。




