第十五話 作戦
午後一時のことだった。アユカワビルの最上階にあるオーナー室の前に一人の警察官が立つ。
その黒いスーツを着た髪を肩の長さまで伸ばした一重瞼の女は警視庁捜査二課の刑事、神谷サツキ。
神谷はオーナー室をノックして入室する。部屋の中では白髪で髪型をオールバックにした男が室内でゴルフを楽しんでいた。
神谷はゴルフボールを打っている男に話しかける。
「鮎川源一郎さんですね。警視庁捜査二課の神谷サツキです。今晩の警護は私たち警察に任せてくれませんか」
神谷の申し出に鮎川は失笑する。
「聞いていないのか。宝石の警護はプロに任せる。警察なんて邪魔なだけだ。だから帰ってくれないか」
「お断りします。怪盗を捕まえるのが我々警察官の仕事ですから。強引に警護をさせていただきます」
「勝手にしろ。宝石は三十階に展示してある。防弾ガラスのケースに入っているから簡単に盗まれないと思うが」
鮎川がぶっきらぼうに答えると神谷は頭を下げた。
「ありがとうございます」
神谷はオーナーに挨拶すると部屋から退室する。
警察の警護の準備は予告時間の六時間前から始まっている。宝石警護の指示を行う神谷サツキは無線で多くの刑事たちに呼びかけた。
「一班は展示場で宝石を警護してください。二班は周辺の道路上で張り込み。怪盗は現実的な方法で盗みに入ります。だから逃走用にパトカーを数十台待機させます。もちろんヘリも飛ばします。三班はアユカワビル内に不審物が仕掛けられていないのかを捜索。それでは解散」
だが神谷サツキは知らなかった。現在アユカワビルに警察官に変装した怪盗が侵入していることに。
一方その頃アユカワビルの近くの路上でハニエルが運転する自動車が停車した。カーステレオからは先ほどの神谷サツキの指示が流れている。
ハニエルの隣に座ったサラフィエルは運転席に座るハニエルの顔を見る。
「やっぱり追跡班もおるちゅうことか。ラグエルの読みが当たったな」
「そのようですね」
ハニエルはスマートフォンでサマエルに電話しようとする。だがその電話は繋がることがなかった。
その頃サマエルはイタリアンレストランディーノでラグエルに電話をしていた。
「面白いことが分かった。これまでこの国で怪盗リアス式海岸によって盗まれた宝石は全てエヌビアン共和国の遺跡から発掘された物であることが分かった。しかもその遺跡を管理するのは鮎川源一郎。彼の手引きで日本国内に宝石が持ち込まれ、その宝石を怪盗が盗んだ。四か所ある怪盗リアス式海岸が宝石を盗んだ場所は全て新興宗教団体『神の右腕』の信者が経営している。さらに怪盗リアス式海岸が盗みに入った翌日から一週間は新興宗教団体『神の右腕』の信者数が急増していることも分かった」
『なるほど。これで大方の謎が解けました。ありがとうございます』
自動車の運転席に座っている愛澤が電話を切る。その後でラグエルは再び誰かに電話する。
「ラグエルです。頼みがあります」
その電話の後で愛澤は戸川にメールを打つ。
『怪盗は東京湾第六コンビナートに追い詰めます』




