第十四話 交渉
サンダルフォン。テロ組織『退屈な天使たち』の幹部の一人。昨年の十一月東日本で活動を開始したがこれまで一度も愛澤たちと顔を合わせたことがない。犯罪計画と立てるのが彼女の役割である。
教祖は頬を緩め愛澤に訊き返す。
「素晴らしいですね。どこで私がサンダルフォンだと分かったのですか」
「きっかけは今年の二月に発生したケイシンランド人質籠城事件。あの事件に関する掲示板のコメントのこの新興宗教団体の言葉が書き込まれていました。それはあなたがあの事件の黒幕だということを示している。このように仮定して捜査を進めると去年の十一月に新興宗教団体が立ち上がったことが分かったということです。それが分かったのは三月のこと。それからこの組織に探りを入れようとしたのですが、どうにも根城を特定できない。だから御礼を述べます。お招きありがとうございます」
「それは良かった。私は人知れず活動する団体のボス。あなたにも根城が特定できないのなら公安も根城を特定できていないことになるね」
「そのようですね。やっぱりあなたは賢いということでしょうか。それでは本題です。なぜ僕をここの招いたのか。それを教えてください」
サンダルフォンはラグエルに一枚の写真を見せる。そこには真紅に染まった宝石の指輪が映っていた。
「フォーチュンルビーリング。今夜の怪盗リアス式海岸の獲物です。この宝石を私たちに返却してください」
「どういうことでしょう」
「この宝石は元々我々の物だったのですが、一か月前村から抜け出した逃走者が盗みそれを鮎川源一郎という男の元に渡した。逃走者は見つけ次第射殺したけどね」
「悪いですね。鮎川源一郎という男は我々の依頼人なんですよ。宝石を死守すれば活動資金を融資する契約になっています。だからあなたの指示に従えば契約違反になって今後の活動に影響が出ます」
「やっぱり。そうくると思った」
サンダルフォンは机に宝石箱を置く。その箱の中には写真に映っていた宝石が入っていた。
「フォーチュンルビーリングの模造品です。これを渡せばよいでしょう」
その模造品は精巧に作られていた。確かにこれと本物は区別がつかないのではないかと愛澤は思った。
「分かりました。それで段取りはどうしましょうか」
「戸川を運搬役にするから宝石を戸川に渡せばいい」
「運搬役のポイントはこちらから連絡します。それとこの仕事が終わったら姿を見せてください」
「分かっています」
二人は言葉を交わす。そして愛澤が教会を出ていく。教会の前には戸川が立っていて愛澤は戸川と共に来た道を戻った。
正午が過ぎる頃戸川が運転する自動車が高崎探偵事務所の前に停車した。助手席に座った愛澤が自動車から降りると戸川が運転する自動車が走り去る。
遠ざかる自動車を見ながら愛澤はスマートフォンを取り出し電話する。その相手は板利明ことサマエルだった。
「サマエル」
『ラグエルか。どこに行っていた。中々連絡が付かなかったから心配していたところだ』
「ごめんなさい。少し野暮用がありまして。サマエル。少し調べてほしいことがあります。怪盗リアス式海岸が盗んだ宝石が出土したのはどこなのか。それを調べてください」
『分かった。調べてみよう』
「お願いします」
愛澤は電話を切り駅に向かい歩き始める。




