ただ空を見上げるだけで
突き抜けるように空は高い。
どこまでも染め上げられたように空は青く、どこまでも続くかのように空は広い。
冬の空。遥か高みでは凍てつく風が雲の領分を犯し、日の光を地上へとまっすぐに降り注がせる。青以外の色を映さない空が光が通ることを容認し、地上の虜囚に暖気と冷気を与え続ける。
見上げているのは届きたいから。どこにもないのに確かにそこにあると分かる、自由な空の高みへと登ってみたいから
見上げていたのは辛くなったから。目を細めて眺めていても、遠すぎるその道程に歩けないと心が挫けるから
見上げようと思うのは自由になりたいから。小さなものが寄り集まってできた地上では、矮小な身を縛るしがらみが多すぎるから
伸ばしても、未だ手は届かない。伸ばしたそこは虚空だけども蒼天では無い。
憧れる、しかし触れない虚像。
包み込む、されど気付けない形。
空が高ければ高いほど、遠ければ遠いほど、広ければ広いほど、それは地上もまた空の一部であることを忘れさせるのだ。
いつか青の頂に至った時、空は下界を総べる青の海となる。
その絶景は、今はまだ閉じた瞼に映る光景としてしか存在しない。
幽玄のように捉えられない、探せば探すほど見失い、されどどこかしらには存在する。
いずれ、空は夢幻だと気づくだろう。
どんなに否定したくて縋っても、どこかにはあると探し続けて願っても、実体が無い砂上の楼閣と知る日は決して遠くない。
確信にも近いその想像は、空を見上げるたびに泥のように纏わりつく。
ただ、
今はまだ、空に憧れていられればそれでいい。
冷たい蒼が映る、冬の空。