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001 1年生1学期 期末試験まで

 男性向け恋愛ゲーム(ギャルゲ)の冒頭で出現するあからさまなネタ選択肢を選んでももう少し何かあるだろうと言いたくなるくらいに何の盛り上がりもなく、俺の高校デビューはあっさりと失敗に終わった。

 終わったと言うか、始まらなかった。

 クラスに合流してから初めて知ったのだが、開発学科のクラスに中学時代の同級生が居るらしいので入学前から失敗は確定していたとも言える。


 ギャルゲであればタイトルに戻って「最初から始める」を選択する状況だが、残念ながら現実なのでバッドエンドルートのその後を生き抜いていかなければならない。



 友達が居ないのは別に良い。

 いや、良くないのだが中学時代で慣れているし、過去に厨二病だった事は幸いながらまだ暴露されていないみたいだからマイナスからではなくゼロからスタートできているし、卒業までに5年もあるのだからその内仲良くしてくれる人も見つかるかも知れない。

 大問題なのは、実習のパートナーが居ないことだ。


 <竜騎兵(ドラグーン)>というものは複雑極まりない機械であり、高度に自動化されてはいるが戦闘時の状況判断などはどうしても人工知能(AI)ではまだまだ人間に劣っている。

 ソフトウェア技術も進化しているのだが、どうしてもハードウェアの進化には追い付いていない。大規模化・複雑化してしまったせいで人間の手に余るようになって来ているからだろう。

 だから、荷物を運んだり生身の人間では危険な場所に立ち入ったりするための産業用のパワードスーツの場合は内部に乗り込んだパイロットが単独で操縦するが、戦闘という激しい行動を行う用途の場合はパイロット以外にも1人ないし2人の補助者(サブ・オペレータ)が付くのが普通だ。

 <竜騎兵(ドラグーン)>養成学校の操縦科でもそれに倣ってパイロット=メイン・オペレータとサブ・オペレータがペアになって実習を行うはずなのだが―――1ヶ月も出遅れたせいでペアを組み損なってしまった。

 ぼっちが最も恐れる「はーい、二人組作ってー」というイベントは発生を回避できたのだが、その代償があまりにも大きすぎた。


 操縦科の定員は1クラス40人で、今のところ欠員は居ない。

 操縦科はパイロット(メイン・オペレータ)オペレータ(サブ・オペレータ)の両方が所属する科であるため、クラス内部で自由にパートナーを組んで登録することで実習の際に1つの実習チームとして扱われる。

 実習チームを作らない場合、実習には一切参加できなくなってしまうので登録は必須だ。

 チームの要件としてはこう記載されている。


"1人のメイン・オペレータと2人以下(・・)のサブ・オペレータが所属していること"


 この一文で何が重要か再度強調しておくと「2人以下」の部分である。

 何が言いたいかというと、2人は2人以下だし、0人も2人以下なのだという事だ。

 俺が属する操縦科ではメイン・オペレータ志望者は20人で、サブ・オペレータ志望者も同じく20人。

 メインとサブの志望者数が同じなのにメイン志望が1人だけ余るというのはつまり、サブが2人所属するチームが1つあるのだという答えが誰でも簡単に導き出せるだろう。

 サブオペが空席の場合、サブオペが担当する作業は人工知能(AI)が代行する。AIでは不十分だから大抵は人間がやっている訳で、この状況はでっかいハンデを負っていることになる。

 これはたまらんと3人のチームからサブオペのどちらか1人が移籍してくれないかと当人たちに必死で交渉したが、すげない断りの言葉が返って来ただけだった。

 ちなみにメインは美形の男で、サブは2人ともタイプが違う美少女である。やっぱり顔か畜生。

 恥も外聞もなく、マンツーマンでオリエンテーションやら何やらをしたおかげで仲良くなった教師に泣きついて話をしてもらったが、それもあっさりと冷たく拒否された。

 そこを何とかと食い下がったが、パートナーと言うのは両者の合意によって成立するものであるので、本人たちが拒絶しているのに無理やりチーム編成を変えるのは無理だという絶望的な答えが返って来てしまった。



 かくして、1人実習チームが結成された。

 1人なのに団体(チーム)だとか1人で結成するとか色々と矛盾しているが、登録システム上でそうなっているんだからしょうがない。


 なんで俺が既にできているチームを崩そうとしてまでパートナーの獲得に拘ったかと言えば、ぼっちが嫌だという以外のきちんとした切実で重大な理由がある。

 それはここ、結城学園が採用している"実習成績最下位のチームには単位を与えない"というシステムに由来するものだ。

 明文化はされていないが確実にそういうシステムが存在すると言われていて、実際に毎年誰かしら実習の単位を得られずに泣く者が出る。俺は入学するまで知らなかったのだが、事前に知っていても今の状況は変わらなかっただろう。

 この学園では科によって内容が違うが、どの科でも必ず実習がある。操縦科であれば実際に<竜騎兵>を操作する、整備科であれば機体の整備、開発科であれば出題される問題に対応した開発案もしくは改造案の提出とその制作といった具合だ。

 実習は必履修科目に指定されているので単位を獲得できなければ必然的に留年となる。


 2年連続で留年しない限り強制的に退学させられる事はないのだが、俺にとっては1年だけでも留年は即退学の危機に繋がる。

 俺は今、学園から奨学金を頂きながら学校に通っている。

 奨学金は成績ではなく家庭の経済状況によって支給されるかどうかが決まるので、俺が特に優秀だから対象になった訳ではないので勘違いしてはいけない。支給対象になっても将来の進路が縛られることを嫌って断る生徒も居るらしいし。

 奨学金を受けている場合は留年すると支給が停止される。留年した次の年に無事進級できれば寛大にも支給が再開されるらしいが、自前で学費を用意できないから奨学金に頼っている俺にとっては1年止まるだけでも死活問題だ。

 何としてでも最下位だけは回避しなくてはならない。




 独楽鼠(こまねずみ)のようにくるくると動き回った2ヶ月が過ぎ、今は既に7月。 あっという間に1学期の期末試験の時期がやって来た。

 この間座学の予習復習自主学習を誰よりも長時間行い、考えるのに疲れたら走って体を苛め、走るのに疲れたら頭を使って過ごした。


 操縦科実習の1学期末試験は生徒同士で一対一の模擬戦闘である。

 場所は障害物が一切存在しない円形闘技場(コロシアム)の中だ。

 1年生のうちは特別な場合を除いて実機を操縦する事は許されていないので、試験も模擬装置(シミュレータ)を使用して行われる。

 シミュレータと言っても<竜騎兵(ドラグーン)>は機体内に搭乗したメイン・オペレータの動きをフィードバックするマスター・スレイブ方式を採用しているため、実際の機体と同じ構造の操縦席をシミュレータに接続する方式を取る。

 軍用と同等の高性能なシミュレータが提供する映像は現実と見分けがつかず、シミュレータがセンサ類の値を生成する上に操作系統のキックバックも再現するため、動作に伴う振動や攻撃に伴う衝撃を除けば実物を操作しているのとほとんど変わらないという触れ込みである。

 当然、攻撃を受けて機体に損傷が有ったかどうかの判定、およびその損傷や機械的な消耗に応じて様々な処理が行われる。

 センサ類が損傷を受ければでたらめなデータになったりデータが入ってこなくなったりするし、関節の駆動系が壊れれば動かせなくなったりするという具合だ。


 この模擬戦には20チーム全てが参加して総当りで行われ―――俺は当然のごとく全敗。

 ぶっちぎりの最下位となった。


 今回の模擬戦では銃火器の使用は禁止だったので全て格闘戦で行われた。

 銃が使用できる場合は模擬戦全てが遮蔽を取って弾をばら撒くだけになってしまうので仕方がないレギュレーションだが、激しい動作が必要になればなるほど1人チームであるハンデが重くのしかかる。

 歩いたり、障害物のない平地を走るだけならAIによる自動操縦(フルオート)でなんとでもなるが、障害物のある地形での高速走行や格闘などの状況ではAIは補助以上の事はできない。熟練操縦者(ベテランパイロット)の中にはAIに下手に補助をされるくらいなら無い方が良いという人もいたりする。

 ベテランどころか、まだ素人に毛すら生えてない俺の場合は当然AIの補助を受けて臨むのだが、攻撃するどころか逃げるだけで精一杯の有り様だった。



 この模擬戦の結果によって幾つかのグループに別れた。

 グループ分けと言っても公式なものではなく、俺が勝手に分けたものだ。

 模擬戦を観戦した結果やその他の情報から分類していて、多分に推測混じりであることをご了承頂きたい。


 まず最上位グループの3チーム。

 彼らの模擬戦闘を何戦か見たが、他と比べて動きの質が違っていた。

 1年次の主席はこのグループに属するチームのどれかだろうというのが衆目の一致するところだ。

 このグループは軍用や競技用の<竜騎兵(ドラグーン)>を操縦経験者で占められている。そんな物をプライベートで操縦できるなんて、大金持ちか、富豪か、大富豪のどれかに決まっている。

 ちなみに、例の3人チームもここに属している。やっぱり金か畜生め。


 次に中上位グループの6チーム。

 こっちは軍用に近い方の民生用パワードスーツの操縦経験者がほとんどだ。

 民生用でも安価なものは複雑な処理系統を持たず、例えば重い荷物を持ち上げる時に装着者の動きを補助するためのモーターが付いただけの代物で、そういった物は走るどころか早足で歩くのがやっとと言ったレベルだが、高価になるにつれて軍用と遜色がなくなってくる。

 こういった物を子供が自由に触れるのもやはり比較的裕福家庭の奴が多いが、中には実家が小規模の運送業を営んでいてフォークリフト代わりのパワードスーツを嫌々ながら操縦させられていた、なんてのも含まれている。

 入学してからまだ3ヶ月という短期間なので、やはり入学前からパワードスーツの操縦経験がある奴が有利だ。


 そして中下位グループの7チーム。

 ここから下は入学前に民生用パワードスーツもほとんど触った経験がない層だ。

 ただし、格闘技の全国大会出場経験者だったり、陸上競技や体操のジュニアオリンピック大会出場経験者だったり、というフィジカルエリートばかりがここに属している。

 <竜騎兵>の動きにはぎこちなさがあるが、持ち前の身体能力を生かしてそれなりの成績を残した。


 最後が最下位グループの4チーム。

 このグループに属しているチームのメイン・オペレータ達を一言で表せば、凡人の集まりだ。

 今のところ特筆すべき事もなく、書類選考から含めれば数十倍の倍率を打ち破って合格したとはとても信じられない。

 最下位になった男がそんなことを言うと怒られそうだが、事実は事実だ。

 1年次の落第者はこのこのグループに属するチームのどれかだろうというのが衆目の一致するところだ。

 と言うかその最有力候補が俺だ。


 より上位のグループはより下位のグループに全勝し、グループ内では星を分けあっている。基本的にグループ内で多少の優劣はあっても時の運で勝敗が変わってもおかしくはない。

 まあ、それも俺を除いての話なのだけれど。

 落第者決定レースは今のところ0勝の俺がトップで、グループ内で揃って1勝1敗の3チームが合計2勝で並んでいる。

 今年12月初めに行われる2学期期末試験と来年3月初めに行われる3学期期末試験で、なんとかこの3チームの誰かを上回って最下位を免れなければならない。



 あと2週間で夏休みを迎える。

 1年生のうちは長期休暇中にイベントが設定されていないので実家に帰る生徒がほとんどだが、俺は休んでなど居られない。

 地元に友人なんか居ないから帰っても何もすることが無いし、今のままでは親に合わせる顔がない。もう既に夏休みに帰らないことは伝えてある。


 ある意味ではかなり熱く、別の意味でとことんお寒い夏が始まる。

ひとまず完結にしておきます。

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