エピローグ2
「200人の大量恩赦とは随分太っ腹だのう」
魔王殿ヒラヌマ。
応接間のテーブルに、山盛りになったコインチョコを頬張りながらアミーラは言った。
ついでにフランドル衣装のスカートにくすねておくことも忘れない。
「200人ではない。二万人だ」
不死公は訂正した。
「そりゃ、また・・・太っ腹だろう。そんなに人間の兵士を返してよいのか?」
「貴女の心配はその二万の兵が再びこの魔王領に攻め入るという事かな?魔王を倒し、世界に平和を取り戻すという、『正義の戦争』の為に」
不死公は虫歯のない白い歯を見せ笑った。白骨死体なので歯茎などないのだが。
「あり得んよ」
「随分な自信だのう。その根拠は?」
コインチョコを、包み紙を剥き、その金紙の部分のみ20枚ほどアミーラに渡して不死公は言った。
「兵士は返す。身包みは剥がさん。着ている者も、金もな。だが武器と食料は取り上げる。するとどうなる?」
アミーラは少し考えた。
「仮に二万人の人間が200枚の金貨を持って人間の国行けば、金貨に対して、武器と食料が圧倒的に足りなくなるからインフレが自然発生するな」
「左様。魔王憎しでまとまってはおるが、上手く行けば人間の国同士で内乱を起こせるやもしれんな」
そして不死公はミルクティーを飲み。白骨死体なので胃袋がない。
当然ながら足元からドヴァーっと流れて行ってしまう。
「にしてもラティルスはなかなの策士であったな。切り札の術もさることなるがら、証拠の書類ごと自分の会社を魔法で焼き払うとは」
「む?裁判所の隣にあった貿易会社か。あれを焼き払ったのは我ぞ」
「ふーむ。やはり不死公が・・・ファッ!?」
「元々ある程度状況証拠が揃っておったのでな。貴女らに内定を進めさせる前に魔法で焼き払った」
「なにゆえそのようなことを?!」
「理由は二つある。不審火を出した責を取らせ、ザーベラ・デプリメント社の代表、つまり鮮血連理草を確実に処刑するため」
「いやそんなことして不死公本人が魔法でやったことがばれたらどうするのだっ!!?」
「魔法で遠隔発火させた後、広域降雨の魔法を使った。後で誰かが調べても『水に流れた』証拠しか見つけられんよ」
「流石法の番人汚い法の番人汚い」
「当の鮮血連理草も部下の誰かがやったくらいにしか思っておらんしな。第二に消防法の改善。こっちが本当の理由だ」
「消防法?そういえば火事の時お主がそんなことを言っておったような気がするのう」
「消防法は火事起きた時、力なき者を守る為に必要な物を用意せよ。その為に造った法律なのだ。それなのに施工されてより十数年。建物の耐火構造促進は進んでおらん。特に学校、病院、劇場など、不特定多数の人間が集まる公共施設の耐火が遅れておる。早急にこれを進めねばならない。そこで、だ。」
不死公はティーポットから紅茶のお代りをカップに継ぎ足す。さらにミルクをどぼどぼー。
「建物火災でケガ人が出れば、皆が危機感を抱き、防火設備を整えよう。そうは考えぬか?」
「なぜそこまでして消防法を推し進める?危うく死人が出るところであったのだぞ?」
「焼いたのはザーベラ・デプリメント社だ。働く者も当然ザーベラ社の従業員。死んでも問題はあるまい。そして消防法を進めねばならぬ理由だがな」
不死公はティーポトとカップをテーブルに置くと、アミーラの小さな喉首を、突如白魚のような手で締め上げた。
「アミーラよ。貴女は100人の子供を抱え、空を飛べるか?」
「い、いあ。せいぜい二人か三人・・・」
「雨を降らす魔法が使えるか?」
「母ならできるかもしれぬが妾は・・・」
「消防には避難はしごの設置が義務付けがある!魔法が使えぬ者が逃げることができる!消火器若しくは消火栓の設置義務がある!魔法が使えぬ者、即ち貴女でも燃え盛る炎と戦うことができるのだ!!毎度毎度我が雨を降らす、常に時期よく魔法学科の劣等生が助けに来ると思ったら大間違いぞ!!」
声帯を持たないはずの白骨死体は大声を張り上げてから、アミーラを放した。
そして最後に、不死公はこうも言った。
「もっとも魔法学科の劣等生なら、インフレぐらい簡単に解決して、二万人の戦争帰還兵に職も与え、失業率も改善するくらい簡単ではないのか?」
「そんなにも魔法学科の劣等生というのは強いのか?」
「強いとも」
不死公は紫色のローブから、一冊の文庫本を取り出した。
「これは人間の国。ニホンの本屋で一番売れている小説でな。それによると、『レットウセイ』とは最強の勇者に与えられる称号なのだそうだぞ」
日本語で書かれたそれは、『魔法学科の劣等生』というタイトルだ。
「なんだ。その書物は?」
「怖ろしい人間の勇者が、罪もないオークやドゥエルガル達を虐殺してまわる。ただ、それだけの話だ。少々我が魔王領の社会文化に会う様に内容に脚色を加え、出版して全国販売しようと思う」
「前々から思っておったのだが、人間の国で人間の勇者が大活躍する話を売るのはわかる。だが、魔王領でそのような話を売るのはなぜなのだ?」
「我が売りたくて売りたくてたまらないからだ。残忍で己を神だと勘違いしてる愚かな人間が我らを滅ぼしに来る。そういうヨタ話を国中に広めたいのでな」
不死公は優しく微笑んだ。だが、白骨死体なので、アミーラには表情の変化はよくわからなかった。
一番最初の序章の部分と併せて読んでみましょう




