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普通学科の劣等生(旧題魔法文明滅亡一万年後)  作者: 虹色水晶
第一章 一万と二千年後の君へ
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一万と二千年後の君へ(5)

 ビルの廊下に縦穴があった。

 まるでこの場所にはエレベーターがあったような、そんな空間だ。


「古代魔法文明の建物には階段がないのだ。きっと皆浮遊魔法が使えたのだろう」


「・・・そうなの?」


「うむ。おそらくは皆一様に書斎の椅子に座った状態からそのままのポーズで無意味に飛翔して、『凄いですわ、お兄様!』と言われていたに違いない」


「・・・そうか。僕は空を飛ぶ魔法なんて使えないから確かに凄そうだなぁ」


「うむ。妾も自分の体重と同じ重さの物を抱えて自分の背丈と同じくらい浮くのがやっとだ」


「あ、アミーラさんは飛行魔法が使えるだ。僕とは大違いだなぁ」


「まぁ妾の母は10トンくらいの重さの物を持って音の速度の10倍で飛べるとか冗談めいておったがのう」


「アミーラさん。君、本当は強いんでしょ?」


「いや、凄く弱いが?母が異常なだけだ。あれは妾達の種族の中でも別格だ」


 縦穴にはロープが一本。上の方からぶら下がっていた。

 アミーラはそのロープをくいくい、と三回ほど引っ張ってきちんと止められているのを確認する。


「うむ。ぶら下がっても問題なさそうだな。ほれ。このロープを伝って登るがよい」


「伝って、って・・・」


 アミーラはロープにぶら下がる、というよりも、縦穴のコンクリート壁を蹴りあげるように勢いよく登っていく。そして二階、いや、三階くらい上の横穴に景気よく飛び込んだ。


「ほれ、サクも早く上がってくるがよいぞ」


 作治はロープを体に巻きつけ、ゆっくりと壁の配管の跡らしきものに足をかけながら、時折壁材を蹴り崩しながらも、20分ほどかけてようやく作治は上層階に辿り着いた。


「財宝探索に迷宮に挑む探検家にしては少し体力がないようだのう。サク。お主はもう少し体を鍛えておくべきだぞ?」


「・・・あ、安心しろ。俺はスペランカーほど貧弱じゃない・・・」


「スペランカー?何者だ。そ奴は?」


「凄腕の探検家だが、自分の背丈と同じ高さの坂からジャンプして落ちると死ぬんだ」


「随分と情けない奴だ。さぞかし皆から嘲笑されていたであろうな」


「いや。先生と呼ばれ、尊敬されている」


「・・・甚だしい偉業を成し遂げたあと、余程つまらないことで死んだらしいな。そのスペランカーとかいう者は」


「それで、見せたいものというのは?」


「う、うむ。あれだ」


 廊下と、それにそって並ぶ金属製のドア。

 奥に魔法か、爆薬かはわかないが、強引に開けた扉があった。

 焦げ跡からして、まだ新しいものだ。


「この階層の扉は非常に重くて、人の手では動かさすことが出来ん。おそらくは魔法の力で開け閉めしていたのであろう。で、さぞかし大事なものが、魔法の品々、あるいは金銀財宝などがあるであろうと思って研究者たちが開けてみたのだ」


「何があったの?」


「トイレだった」


「は?」


「手洗い二つ。腰掛便座が三つ。それと紐で首を吊っていたとおぼしき死体が一つ」


「首つり死体?」


「で、それとこっちだ」


 すぐ手前の扉の横の壁が、崩れ落ちていた。そこから室内に入れそうだ。


 ごく普通の、マンションの一室だったであろう屋内にはテーブルと椅子らしきものの跡。キッチンの跡などが見受けられる。


「サク。部屋の中から扉を見てみろ」


「扉?」


 部屋の、人の力では到底動かすことのできそうのない重さの金属扉に倒れかかるように、女性らしき白骨死体があった。

 色あせたセーラー服を着た遺体の左手には、ボロボロになったノートの切れ端が握られたままだった。



『  てだだして だしてだしてだして  てだしてだ てだしてだしてだし  してだし だしてだ  してだしてだしてだしてだしてだしてだして  てだしてだしてだしてだしてだしてだしてだしてだして だしてだしだしてだしてだしてだしてだしてだしてだし  してだしてだしてだしてだしてだしてだしてだしてだしてだ てだしてだしてだして   だしてだし  だしてだしてだしてだしてだしてだしてだしてだしてだしてだしてだしてだして  してだしてだして   だしてだしてだしてだしてだしてだしてだしてだして だしてだしてだして だしてだしてだしてだしてだしてだしてだしてだしてだしてだしてだ   してだしてだしてだし だしてだ  だしてだしてだしてだしてだしてここからだしてなにかたべたい』


「サク。あの紙切れになんて書いてあるかわかるか?」


「出して出してここから出して何か食べたい」


「よくわかったのう」


 アミーラは作治が一万年前の古代魔法文明の文字の内容がわかったことに、然程おどかなかった。

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