逆位置の死神(3)
「さて、問題はこやつだ」
不死公は手にした金属製の杖で鮮血連理草をつつく。
彼女は床に転がったまま、白目をむいて天井を見たままだ。未だに目を覚ます様子はない。
「貴公らの活躍により、此度の一件はすべてこやつの策謀であったことが露見した。貨客船の沈没も、メタルイーターの襲撃も、証拠隠滅の火災も、サク。貴公を我の手で処刑させようという目論見もな」
不死公は紫色のローブの裾から小さなナイフを取り出すと、それを作治に手渡した。
「そこで提案なのだが、こやつをこの場で処刑しようかとおもう」
「えっ?!どうして処刑なんですか?」
「元々こやつは貴公を殺すつもりであったのだからな。故に今なら正当防衛が成立する。それにその他の罪状と併せてもこのまま魔王領に連れ帰っても死罪は免れぬ。故にこの場で処刑してやるのが慈悲というものであろう?」
「むちゃくちゃですねぇ。仮にも法治国家を名乗る魔王領の裁判長がそんなことで宜しいのですか?」
「パッショリとか言ったか。確かに貴公の言う通りだな。魔王領ではそのようなことをしてはならない。魔王領では、な」
「ところで、ここは貴公ら人間の国だな?人間の国では保釈金とやらを払えばいくらでも罪を減免できるらしいな」
「なるほど。元々そのつもりでしたか」
パッショリは得心した様子であった。
「サクとやら。己を殺そうとした相手の命を買うつもりはあるか?」
「裁判長。僕の財布を返していただけますか」
不死公は紫色のローブから作治の財布を取り出す。
「人間の命はボーキサイト硬貨を一万枚。確かそうでしたよね?」
「百万枚。用立てられるならばこの娘をくれてやろう」
「買った」
「ほう!」
不死公は作治の一声に、とても嬉しそうな声をあげた。
「これは前金です。残りは僕が日本に帰ってからで」
作治は自分の財布から、一円玉を三十枚ばかり出して不死公に渡した。
「前金確かに受け取った。鮮血連理草。このエンプーサは今この瞬間より魔法学科の劣等生作治の所有物だ。生かすも殺すも貴公も自由」
「普通学科です」
この世界の人間達が魔王と呼び、平和をもたらすために滅ぼそうと毎年のように大勢の兵隊を送りつけている相手に対してそう答えた。




