紅蓮の弾丸(9)
操縦席から出た作治が目にしたのは、火柱の中に浮かぶ巨大な人影だった。
それは、曲がり、くねり、歪みながら、苦悶の叫び声共に。一瞬膨張した後、急速に縮んでいった。
「やったではないかサク!」
『SUBWAY』に隠れていたアミーラが、鉢植えに埋められたパッショリの首を抱えて出てきた。
「・・・妙だな」
炎の中で縮みゆく鮮血連理草を見つめながら呟いた。
「何が妙なんです?サクさんがちゃんとやっつけたんじゃありませんか。ほら」
10メートルを越える背の丈に巨大化していた彼女は今や2メートル程度。本来の大きさに戻り、地面に倒れ伏している。全身から炎を吹き出しながら。
「どうして魔法で炎を消さないんだ?」
「消さない。というか消せんのだろうな」
アミーラが答えた。
「先ほどより周囲の大気中の水分を集めて氷を造り、炎を消そうとしておる。が、無駄なことだ。油の炎はいくら水をかけても消えぬのだ」
「タナカ・ショーイの火術ですね。ニホン人のサクさんらしい戦い方だ!」
首だけの鉢植えのパッショリは感嘆の声をあげた。
「タナカ・ショーイ?」
「貴方と同じニホン人ですよ。てっきりその名声は故郷のニホンにも届いているものとばかり」
「届いておるに決まっておろう。50年前、不死公が10万の軍勢を率いて人間の領土の半分を制圧したことがあったのだ」
「10万じゃありません。100万です」
パッショリが数の訂正を求める。
「・・・で、今のイスカンドリアのあたりにあった小さな漁村を軍勢が包囲した時のことだ。タナカ・ショーイは魔術の使えぬ女子供に黒い油の入った小瓶をもたせ、それを魔王の軍勢に投げつけるように言った。瓶が割れ、黒い油に塗れた魔物の群れにタナカがたいまつを投げると、オークもトカゲもオオカミ男も皆燃えだした。不死公が雨を降らしても雪を降らしても炎は消えず、彼らは骨になるまで燃え続けたという」
作治の目の前には燃え盛る肘と膝を曲げ、あたかもボクサーが試合をするような姿勢を取り始める物体がある。
「アミーラさん。スコップを」
「これでいいか?」
アミーラは理由は聞かず、作治にスコップを渡した。
作治は受け取ったスコップを使い、道端の砂利を燃える人間にかけ始める。
「サクさん。なにを?」
「石油の炎は水では消えない。氷の魔術で消せないのはそのためだ。どれだけ魔力があっても物理法則は捻じ曲げられない」
「いや。だからなぜ砂利をかけているんですか?」
「石油の炎は水では消えないが、砂をかければ消せるんだ」
「さすがサクさん。やはりニホンの、魔法学科の生徒は違いますね」
「僕は普通学科だ」
しばらくして、砂風呂にいれられたような人型ができあがる。
呼吸ができるよう、作治は頭の部分の砂をどけた。
酷い状況だ。美しかった金髪はちじれ、顔にはケロイド状のやけどができている。
「そやつは放っておいても死ぬぞ。その証拠にほれ」
道路の真ん中に、不自然なドアが現出れていた。それだけではない。遠方を見ればこの赤、黒、紫の雲が流れている天空が窓ガラスが割れるように崩れ、さらにアスファルトのヒビが広がって裂け目ができ、その周囲の廃墟ビル群を飲み込んでいく。
おそらくはこの夢の世界そのものが崩壊していっているのだろう。
「長くは持たんな。早く逃げることにしよう」
アミーラはドアノブを掴み、扉を開けた。
そこにはテーブルに倒れ伏しているアミーラ。首と胴体がちゃんと繋がっているパッショリ。
そして床に倒れている作治がいた。おそらくは夢の外の世界に向かう扉なのだろう。
「ああ!これこそ私たちの未来へと繋がる希望の扉!さあ早くいきましょう皆さん!!」
「・・・そうだね。ちょっと待って」
作治は黒焦げになり、気絶したままの鮮血連理草を背負った。
「そやつをどうするつもりだ?」
尋ねるアミーラに作治は答える。
「このまま放っておいたら本当に死んじゃうでしょ。それにしても軽いな。まるで重さを感じない」
「まぁ、夢の中だしのう。自分は空気のように軽いという設定なのであろう」
それなら彼女の首を切り落として蹴り飛ばしたらビックリするくらい軽いのか。作治は一瞬だけそんなことを考えてしまった。




