一万と二千年後の君へ(4)
おそらくは一万年前に内側に倒れたであろう入り口の扉を踏み越え二人は室内に入った。
内部はかなり広めの空間だ。
中心部に不自然なくぼみがあった。経年劣化によるものとは少し気がする。
その周囲には小さな白骨死体。骨格がいびつに曲がった白骨死体が転がっている。
「サク。この小さな死体が何かわかるか?」
「子供の死体?一万年前の?」
「そうだ。そしてこの曲がったのは老人のものだ。それで、だ」
アミーラは部屋の中央のくぼみ部分に立った。
「この部分不自然であろう?自然にできてはものではない。どうしてできてできたものか、わかるか?」
「いや、全然」
「ではこの街で起こったことを妾の知り得る限りで教えてやろう。尤も、妾も人から教えてもらっただけなのだがな。一万年前、魔術を使える人間と、魔術の一切使えない人間の間で戦争があった」
「魔術師と、そうでない人間が戦争?!!」
「まぁ驚くのも無理はない。人類諸国連合、人間の国では魔術があるのは当然だと思ってる者が普通であるし、そもそも考古学などという学問などないからな。お主のように古代魔法文明の遺跡で金銀財宝を探そうとする者はおっても、彼らが何故滅んだか、調べようとする者は皆無だ」
そして、アミーラはコインチョコを食べながら言った。
「魔術の力に個人差があるのは知っておるな?」
「そりゃまぁ。あるだろうね。生まれながらの才能とか」
「戦う力を持つだけの魔術師はまだいい。だがそうでないもの。年寄り。子供。ケガ人病人。それらがこの部屋に逃げ込んだ。そして扉を閉めた。大勢の兵隊が追ってきた。十人二十人。あるいは百人だったやもしれん。ここは通さぬと正義感溢れる若き魔術師が防御魔法を行使した。追っての者達、魔法を使えぬ兵士達は若者が息絶えるまで銃を撃ったであろうな。それで、だ」
アミーラはくぼみの中心部でぴょん、と一回。飛び跳ねた。
「魔法を使えぬ者達は、逃げ込んだ魔法使いたちがいる部屋の中に爆弾の一つでも投げ込んだのであろう」
「どうしてそんなひどいこと?降伏を促せばいいじゃないか?」
作治の問いに、アミーラは笑って答えた。
「戦争をしておったのだからな。罠か、敵の待ち伏せがあると思ったのであろう。さて、まだまだ見せたいものはあるのだぞ?」