一万と二千年後の君へ(3)
「それで、だ。見せたいものというのはこっちだ」
アミーラは作治を建物の正面の入り口から内部へと案内する。 廊下の比較的目立つ位置に、扉があったであろう開口部。
その前には一体の白骨死体が倒れていた。
「この死体は一体?」
「おそらくはかなり優秀な魔法使いの、そして己が死ぬ最後の瞬間まで正しいことを成そうとし、そしてかなわかった魔術師の亡骸だ」
白骨死体と、その周囲の床と、壁。そして天井には無数の穴があいている。
「優秀な魔術師、って一万年前の死体でしょ?服とか、魔法の杖とか、何もないみたいだし、どうしてわかるの?」
誰もが思いそうな疑問を作治は口にした。
「サク、この白骨死体に数十発の弾丸がめり込んでいて、そして周りの壁や天井。床にも同じ種類の弾丸が撃ち込まれているのはわかるか?」
作治は白骨死体の腕の骨と、そして天井と壁と床を改めて確認した。
天井と壁は、(おそらくは)一万年前のものらしき銃弾がめり込んでいる。床に倒れた白骨死体も同様だ。
だが不自然な点があった。遺体の倒れた床面だ。
「埃はあるけど、綺麗だね?」
遺体の周囲、おおよそ1メートル。コンパスで円を描くように綺麗に銃弾の跡がない。
そして円の外から再び銃弾の跡が広がっている。
「防御魔法を展開した後だ。おそらくはほぼ囲まれるような形で全周囲から銃弾の雨を浴びせられ続けたのだろう。戦闘とは呼べぬな。ほぼ一方的な虐殺と判断していい。最初の百発くらいは耐えたであろうが、千と、七発の銃弾を浴びせられ、この男は息絶えた」
「千と七発ってなんでわかるの?」
「壁と床と天井の穴を数えるだけの簡単なお仕事をするだけの作業員を雇ったからだ」
なるほど。それなら一万年前の殺人事件の真相がわかっても当然だ。
「でも、優秀な魔術師ならどうして反撃しなかったんだろう?」
「おそらくは、その扉の奥にあるものを、いやあったものを守りたかったのであろうな」