俺TUEEをおしつける奴は多いが、他人とってそれは悪夢でしかない(2)
廃墟のビルとビルの間。
ひび割れたアスファルトの上に、浮かんでいる女性がいた。
作治と同じくらいの背丈。
足首辺りまである長いウェディングドレスのような服。そして縦に巻かかれた美しい金髪。
彼女は椅子に座るような姿勢のまま、作治達を見下ろすように中空に浮かんでいた。
「ラティルスではないか。お主も一緒に飛ばされた、というわけではなさそうだな」
「飛ばしたのではなくアミーラさん達をわたくしの世界に招き入れて差し上げただけですわよ」
アミーラの質問に、ラティルスはそう答えた。
宙に浮く彼女を見上げながら、パッショリは作治と相談する。
「下着見えてますよって教えてあげますか?」
「いや。たぶん僕たちをここに飛ばしたのは彼女だから下手なこと言って刺激しない方が・・・」
「それにしても紫ですか・・・」
「バタフライか・・・」
「ウフフ。どのような作戦を建てようともわたくしの前では無駄ですわ・・・」
ひび割れたアスファルトの上空を5メートルほど跳び続けるラティルスは、作治達を見下しながら冷たい言葉を浴びせる。
「見てません!見てませんとも!」
「ええ!そうですとも!」
「フフ、貴方方に未来などないのではどうせこの世界で朽ち果」
めり。と小石が、ラティルスの顔面にめり込んだ。
直後に小石から煙がもうもうと吹き出す。
「ほれ今だ!」
煙の噴出音がすると同時にアミーラは作治達を置いていくようにラティルスに背を向け、後方へと逃げ走る。
「ちょ、置いてかないでくれよおおおお!!!」
「ああ!サクさん待ってください!」
「何をしておるサク!お主魔法学科の劣等生なのだから、『足止めついでにあいつをぶちのめしてやる』くらいのことを言うてみせよ!!」
ラティルスが追ってくる様子はない。
三人はへし折れた信号機。『24』と書かれた看板のかかった店舗の名残。自動車のスクラップらしきもの。横倒しになったバスの残骸をよじ登り、、蓋のないマンホールをジャンプで跳びながら三人は進む。
「ふむ。やはりな」
逃げ走りながらも、アミーラはすぐに何かに気づいた様子であった。
「何がやはりなんだよ!?」
「ここが魔法文明の遺跡ならばこのまま走り続けていれば遺跡の外に出るはず」
「そうか!誰か助けを呼ぶんですね!」
パッショリが妙に背筋のよい体制で走りながら言う。
「あの遺跡は魔王領の管轄。常に警備兵がおる。オークなり、ディザトリアンなりの気配があるはずだ。それがなく、またメタルイーターがいる様子もないとうことは」
三人は崩れたビルの中を突っ切る。一万年前、数百発の銃弾を浴びて倒れた魔術師のいた建物だ。
弾痕はあるが、白骨死体はない。扉を開けて。その先の空に。
彼女は浮かんでいた。
生温い風が吹いた。
顔を確認するまでもない。
声を聴くまでもない。
スカートが風でめくれたので、はっきりとそれが確認できた。
紫色の蝶蝶。
「ラティルス・・・」
「それは世間を欺く為の偽りの名、わたくしの真実の名前は鮮血連理草ですわ」
本名だったんかい。




