一万と二千年後の君へ(2)
「なああああんんじゃああこりゃああああ?!!!」
アミーラに案内され、地上に出てきた作治は、暴漢に刺されて死ぬ直前の松田優作のような声をあげた。
その声に周囲の『遺跡』で作業をしていた人々が一瞬、こちらを見るが、また直ぐに各自各々の作業に戻る。
土を掘るモグラ頭。泥やら石を運ぶ豚や牛頭の人。
大変グラマーな体型の蛇頭の女性が何か食器の破片のようなものを水で洗い、汚れを落ちた物それを眼鏡をかけたカエルが手に取って眺めている。
「どうしたサク。ヒツジの吐いたゲロでも踏んづけたか?」
「いや、あれって・・・」
作治は眼前に林立する廃墟群を指さした。縦に長い穴あきをチーズを何本を地面に突き立てたような、そうな光景だった。
東ヨーロッパにありがちな、空爆で吹き飛んだ高層ビルに、それはよく似ていた。
「妾も詳しいことは知らん。だが一万年くらい前に栄えた魔法文明の遺跡だそうだ。最も、お主のような盗掘者にとってはこの遺跡がいつ頃できたものか、そんなことより遺跡に眠っている魔法の品だの宝飾品だのの方が重要であろうがな」
「・・・マジで一万年前なの?」
「不死公、あ。お主ら人間は魔王と呼んでおる者は自分が魔法文明の最後の生き残り、いや死にぞこないだろう。あ奴はそう言っておるがのう。で、それがどうかしたのか?」
「いや。凄く見た事ある建物に似てる遺跡だと思って・・・」
「む?人類諸国連合にもこういう遺跡があったかな?」
アミーラは途中から真っ二つに折れた建物の壁を触りながらさらに続けた。
一見すると石材で造られた建物のようだ。だが、上の方から鉄の柱が、何本もはみ出している。
「この建物は石造りではない。コンクリートという素材でできておってな。最初は粘土のように柔らかいのだが、固まると石のように固くなるのだ。そしてさらに内部に骨のように鉄の柱が入っている。これは鉄筋コンクリート工法といってな。レンガ造りの建物よりも遥かに頑丈なのだ。魔法もかけてないのに、大砲の直撃にも耐えるのだぞ。こんな建物は人類諸国連合にはなかろう?」
アミーラは自分で作ったわけでもないのに酷く自慢げに言った。
「ちなみにこの地面は?」
真黒な路面に、中央部に分断するような白い線が引かれ、何故か数字の『40』という表記が描かれているように見える。
「それはアスファルト。というものらしいぞ。雨が降った時は横にある側溝に水が流れるのだ。馬車が走りやすく、さぞかし人々は快適な暮らしをしていたであろうな」
さらにぐるりと周囲を見回す。作治は快適な暮らしとはほど遠いものを見つけた。
「だったら、あれは?」
アスファルトで舗装された道路の両脇。
五十メートルほど離れた場所。
身の丈15メートル程の二人の巨人が『死んで』いた。
それぞれビルディグングに背を預け、もたれかかるように直立するように倒れている。
左側にいる物は斧を持ち、右にいる物は槍を持ち。その槍は左手にいる物の腹部に突き刺さっている。
右の物は斧で切り落とされた首を切り落とされたらしく、頭がなかった。
互いに向かい合う姿勢のまま、直立し、武器を構え、『死んで』いる。
いや、そもそもこの巨人たちは死ぬはずはないのだ。そもそも生物ではないのだろうから。
「ああ。あれか。あの二体の巨人は、一万年前の戦で使われたゴーレムらしい。遠隔操作ではなく、魔導士自身が胸の部分に入って動かす。言うならば巨大な鎧だな。槍で突き殺された方の隙間から死体が見える。斧で首を切り落とされた方は、腹が真中が開いていおるが、椅子らしきものが綺麗に残っておって死体はないからな。無事に逃げおおせたのであろう。・・・見せたいものはこの先だ」
二体のゴーレムの足元を抜け、二人はさらに廃墟の都市を歩いていく。
辿り着いた廃ビルは、周囲の『遺跡』群と然程変わりないように大きさだ。
ただ他の建物と比べ、状態はかなりいいらしい。
斜め下に降りるちょうど車一台分のスロープには、
『駐車場:高さ2.8mまで』
という表記まではっきりと読み取ることができる。
「その下り坂の先は地下墳墓になっておる」
「ち、地下墳墓おおおっ?!!」
「そうだ。下り坂の先には鉄製の、馬車の荷台のようなものが無数に置かれおってな。そこに大勢の人間の白骨死体が副葬品と共に置かれていた。だからここは地下墳墓に違いない」
「へ、へーーーっ・・・・」
「ただ、疑問なのは馬車はあってもそれを引く馬がいないことと、この建物自体に普通に人間の住居の痕跡があることかのう」
「ソ、ソレハフシギダナー」
実際にはコンクリートは50年くらいで経年劣化し始めるそうな。