一万と二千年後の君へ(1)
久方ぶりの執筆になります
薄暗い地下室。
地下鉄の線路で大震災に遭遇したらこんな感じになるだろう。
そんな感じの場所に、吉岡作治は倒れていた。
「なかなか起きんのう、こやつ」
銀髪の、ツーサイドアップの少女が、然程離れていない場所にちょこなんと座り、金属製の真っ直ぐな棒で作治の頭をツンツン、とつついていた。
太陽光も月や星の明りも差し込まない屋内で人物の姿が確認できるのは少女のすぐ傍の床にカンテラが置かれ、光源となっているからだ。
「メイドさん?」
覚醒した作治は少女見て一言。そう単純な感想を述べた。
「妾が着ているのはフランドル衣装なのだがな。まあよい。お主、どこの魔法学科の生徒だ?」
少女は立ち上がり、作治の方を向いたまま三、四歩離れて距離を取った。さらにそのフランドル衣装とやらのスカートからコインチョコを取り出すと左手でそれをかじりながら、そして右手でベルギー製P-90自動拳銃のようなものを作治の方に向けながら訪ねてきた。
「いや、僕は魔法学科じゃなくて普通学科の生徒なんだけど」
「その服装は魔法学科の学生服ではないのか?まぁよい。お主、どこの国の者だ?」
「日本の、埼玉にある、さいたま市立大宮普通科高校に通うごく普通の学生なんだけど」
「なるほど。人類諸国連合の、ニホンという国の、サイタマという街にある、魔法学科の生徒なのだな」
「いや、だから魔法学科の生徒じゃないんだけど」
「ならば何故このような場所におるのだ?」
周囲には作治と少女の声。あとはカンテラの微かの何かが燃焼するかのような音。それと少し離れた場所から水の流れる音がするだけだ。
とても静かな場所。作治にはそう感じられた。
「ここは人種連邦合衆国、まぁお主ら人間からは簡素に魔王領と呼ばれておるがな」
「魔王領?あ、ということはもしかして?」
「もしかしてもこうしてもなかろう。お主はこの不死公が支配する領土にある古代魔法文明の遺跡に忍び込んだ、盗掘者であろう?」
そして、少女は再びコインチョコを取り出し、齧ろうとしてから、作治にこう尋ねてきた。
「お主、普通の食えない金貨と、食える金貨。どっちが欲しい?」
一見奇妙に思えるが、あるいはごく当たり前とも考えられる質問だった。
「じゃあ、食べられる方で」
それを聞いて、少女は金貨を作治に渡した。作治は金貨を触ってみた。
金紙で包まれている、ごく普通のコインチョコだった。
「妾の名はアミーラだ。お主は?」
「作治。吉岡作治」
「サクとやら。お主が食い物が欲しいのか、金が欲しいのか、あるいは古代の英知が欲しいのか知らんが、とりあえず妾についてまいれ。悪いようにはせんぞ」