炎の法(1)
裁判所のすぐ隣。
五階建ての木造建築の建物が、燃えていた。
二階付近から出火し、四階部分まで炎が燃え広がっている。
既にほとんどすべての窓から業火が溢れでている。
一階の出入り口から無事脱出できたのだろう。やや煤けた服の人々が呆然と建物を見上げていた。
不死公はぼんやりと燃え盛る建物を見上げる建物を見続けるだけの人々に尋ねた。
「この建物は五階建。木造建築だな?」
「あ?不死公様?ど、どうなさったので・・・」
「我の質問に答えよ。我が10年前定めた消防法によれば4階以上の建造物はすべて防火扉をとりつける決まりになっているはずだ。何故ここまで燃え広がっている?まさか閉めずに逃げてきたのか?」
「え?いや。この建物は築25年の古い建物なので防火扉はないのです」
男は答えた。男と会話をする不死公の言葉には何故か不思議と怒りに満ちている。理由はわからないが。
「不死公様ーーーっ!!!」
「たすけてくださあああああああいいいいいい!!!!」
炎上をする建物の屋上から手を振って救いを求める者達がいる。
「この建物は五階以上であろう?」
「そ、そうです。ですから飛行魔法を使って直ちに皆を・・・」
「何故避難梯子、或は避難用滑り台がないのだ?改正消防法で設置を義務付けたであろう」
「い、いえ。何分古い建物でして・・・」
男と不死公が話している間にもますます炎は広がっていく。
「消火器はどうした?魔力泡若しくは粉末若しくは反応冷却式消火器はすべて二年に一回公的機関で使用検査を受ける。威力は使用時にスライムを即死させる程度と定めらている。これも消防法で規定してあるはずだ」
「あ、いえ。じ、自分は担当ではないので・・・」
男は何故か視線を逸らした。自分が責め立てられている。そんな気がしたのだろう。
「ともかく取り残された者を助けてくださいよ。不死公様なら魔法でなんとかできるでしょう?」
「確かに我ならなんとかできるな・・・」
不死公は空を見上げた。
遠くに積乱雲があった。
「あの雲を運んで雨を降らせるのが一番よかろう」
「おお、流石は不死公様!!」
「が、雲がこちらに来るまで少々時間がかかるな」
そして不死公は火事の騒ぎを聞きつけ、裁判所から出てきた多くの人々に振り返った。
その中の一人。吉岡作治に声をかける。
「貴公。魔法学科の生徒であったな?」
「あ、いえ。僕は普通学科・・・もう魔法学科でいいです」
「我が魔法を用いて雨を降らし、火を消すよりも屋上に逃げた者達が焼け死ぬ方が早い。そこで貴公に相談だ」
「相談って?」
「あの屋上に取り残された者達を救って見せよ。ただし魔法を使ってはならぬ。できないときは貴公をあの炎に入れて火炙りの刑に処す」




