幕間(3)
冒険者は長きの旅路の末、魔王城に辿り着いた。
道中は割愛する。
城門の前には蛇の頭の騎士と、ワニの頭の兵士。
オークやスケルトンよりかはずっと強いだろう。相手にとって不足はない。
爬虫類の門番たちは冒険者に気づくと、黙って城内へと続く門戸を開いた。
何かの罠だろうか。
冒険者は剣を抜き、油断なく盾を構える。
「邪魔だよ兄ちゃん」
後ろから声をかけられた。殺気がまったくなかった。
(背後をとられた・・・?!いったいどんな魔物だっ?!!)
自分の父親と同じくらいの年齢の農夫だった。荷車に野菜をいっぱい載せて、牛にひかせている。
しかも人間のようだ。
「その農夫の言う通りだ。早くどいてやれ」
「道は皆の物だぞ。そんなところにおっては荷車の通るのに邪魔ではないか」
爬虫類の兵士に言われ、冒険者が退くと、野菜を積んだ荷車は扉を通って魔王城の中に入っていく。
「ちょっとまて」
ワニの兵士は槍の柄で荷車の野菜の山をかき回してみた。
「別に怪しい奴が隠れていないようだな。通ってよし」
「お仕事ご苦労様です」
農夫はワニの兵士に挨拶すると牛をひいていく。
「最近は勇者と名乗る夜盗が西の人間の里で暴れていると聞くな」
「うむ。何しろ魔王討伐の軍資金集めと称して民家に押し入り、金目のものをすべて奪っていくそうだ」
「我が魔王領ではそのような不届き者は絶対に許さない。その為に我らがいるのだからな」
そして、蛇の頭の騎士は冒険者に声をかけた。
「ところで、お前見ない顔だな。旅の者か?」
「えーと、はい」
「護身用に武器を持ち歩くのはいいが、城下街では鍛冶師に刀研ぎに出すとき以外は刃物を抜かんようにな。街の者が怯える」
魔王城の扉の中に入ろうとして、冒険者はちょっと質問しておくことにした。
「すみません。ここ魔王城ですよね?」
「ん?確かにここは魔王殿ヒラヌマだ。それがどうした?」
「なんで農夫が野菜積んで荷車で入っていったんですか?」
「なにって、城内の使用人や兵隊が食べるためだろう」
「それに不死公様はミルクティーがお好きらしい」
「食べ物を城の外から運び入れるのは当たり前だろう」
そしてこうもつけくわえた。
「人間の国ではどうだか知らないが、不死公様は魔法で水や食べ物やその他生活に必要な物全部作ったりしないのだよ」
「だってそんなことができるなら人間の国全部にキムチとサムゲタンの雨を降らせることができるじゃないか」




