逆説裁判(13)
有罪が確定した後も、作治の裁判は続いていた。
作治の鞄をラティルスから受け取り、裁判長が直接調べている。
「被告人。これは?」
「教科書です。高校の」
「ほう。これが貴公の魔法学科の・・・」
「もう魔法学科でいいです」
裁判長の不死公は作治の高校の教科書を実に興味深く見ている。
「なるほど、膀胱に尿が溜まって発生するのは反射勃起と言い、睾丸の機能とは直接関係ないのか・・・」
裁判長は鞄から作治の私物を次々と取り出していく。
「被告人。これは?」
黄色い小さな段ボール箱に包まれた固形物だ。
「あ。それはカロリーメイトっす」
「カロリーメイト?」
「菓子みたいなもんですよ。小腹空いた時に食います」
裁判長は小さな段ボール箱を開いた。
当然ながらカロリーメイトはプラスチックの個別包装されている。
「なるほど。こうなっているのか。いや、実に興味深い」
裁判長は液体の入った透明な筒を取り出す。
「中にコーヒーが入っているようだな。被告人。これは?」
「え?ペットボトルですが。それが何か?」
「成程。ガラス瓶とは少し違うようだな」
裁判長は作治の財布を取り出した。
紙幣。定期。中古ゲームショップのポイントカード。
そして硬貨を出した。
「白銅貨。銅貨。真鍮貨。おや?」
100円。10円。5円。少額貨幣を適当に取り出していく。
さらに裁判長が、不死公が手に取ったものがあった。
「被告人、これは?」
「え?それただの一円玉ですが。それが何か?」
「一円玉、とな・・・」
すべての魔の物を統べると人間達から恐れられる不死の王は、その白魚のような手で一円玉を触りながら眼球のない双眸でそれを見つめる。
動く白骨死体なのだから当然といえば当然か。
「アミーラ、ラティルス。こちらへ参れ」
不死公は二人を呼びつけるとそれぞれの手に、作治の財布から取り出した一円玉を乗せた。
「貴女ら。その貨幣をどう見る」
二人はそれぞれ一円玉を軽くなめたり、端っこをかじったりしてみた。
「これは、もしやボーキサイト貨幣?!」
「しかもこれだけの純度のものを?いやボーキサイトなら貨幣として十二分に通用しますが・・・」
「ふむ。やはりボーキサイトであったか」
二人に確認してもらい、不死公は改めて深くうなずいた。
作治の財布の中に一円玉は31枚あった。日本人の感覚としては「ちょっと多いけど、5、6回買い物したらこんくらいなっちゃうかもね」というくらいの枚数だろう。
「どうだろう。我としては此度の被告人の強姦殺人未遂の判決としては死刑が妥当だと思うのだが」
がっくりとうなだれる作治。
「しかし。我が国には保釈金制度というのが存在する。被告人がこのボーキサイト硬貨を一万枚用意できるというのであれば刑を減免してもよいと思う。被告人。我が国に対して保釈金としてボーキサイト硬貨一万枚を納付可能かな?」
その問いに対し、作治はこう答えた。
「いいえ。無理です」
一円玉一万枚。つまり日本ならば一万円だ。
ATMでおろせば一分もかからず手に入らず確保できる金額だ。
銀行に行けば簡単に一万枚の一円玉に両替できるだろう。
だが、この国では。この世界では無理だ。そもそも銀行すらあるかどうか疑問だ。
「ふむ。それは残念だな」
不死公は作治の荷物を学生鞄の中に戻していく。
「それでは、陪審員の方々。今回の裁判であるが」
「有罪で」
「有罪」
「有罪!有罪!」
「とっとと死刑にしてくださいっ!!」
「不死公様!火事ですっ!!」
「そうですわ!!その人間は火あぶりの刑で」
「不死公様大変です!隣の建物が火事ですっ!!」
「なにっ?」




