逆説裁判(11)
「ま、まさかっ!!?」
パッショリは突如自分がキャッチしたボールを蹴り始め、敵陣に突っ込むゴールキーパーのように作治の立つ被告人席に歩み寄る。
ちなみにサッカーのルール上、キーパーがボールを蹴って試合に参加する事自体は違反ではない。
普段はやらないが。
「サクさん。ちょっとその書類を見せて頂けますかっ?!」
「えっ?!!」
パッショリ作治の処に歩み寄ると、先ほど裁判長が魔法で飛ばした事務書類の束をひったくった。
「妾にも見せろっ!!」
アミーラも傍聴席から飛び出し、作治達に駆け寄る。
「あ、傍聴席から出ないように」
裁判長がアミーラを静止しようとするが、
「いえ。問題ありませんわ裁判長。むしろ『第三者』に書類を確認していただいた方が裁判の公正さが保てるというものですわ」
「そうか?まぁ検察がそういうのであれば特例として許可しよう」
パッショリは作治が奪った書類を読む。一枚目、二枚目。四、五。次々とめくっていく。
「やられた・・・」
「何がやられたなんです?」
「これを見てみろサク」
アミーラは裁判書類の一枚を作治に見せた。といっても作治にはこの国の、いやそもそもこの世界の文字など読めないのだが。
「前半部分は妾達が事前に受け取ったものとほぼ同じだが、途中からお主が古代遺跡で強姦しようとして、それをオークの警備兵が取り押された。そういう内容になっておる」
「ええっ?!!事実と全然違うよっ!!!???」
「おそらく書類を後から差し込んだのでしょう」
公文書の束をまとめながらパッショリは冷静に言った。
「私が確認すべきでした。弁護士失格ですね」
「というか、サクお主事実と違う内容が書いてあったことが読めなかったのかっ?!」
「ごめん。わからなかった」
アミーラ達に作治はただただ謝罪するしかなかった。
「いえ。まだです。まだ裁判は終わってはいません」
「あら弁護人。どうして裁判は終わってないなどと言えるのかしら?」
「貴女はエンプーサだ」
「それがどうかいたしまして?」
「貴女方エンプーサは自分の体重以下の如何なる武器防具を造りだす能力を持っている。術式とか詠唱とかそう云った物をは一切不要で瞬時にできるそうですね?」
「ええ。わたくし共の一族は人種連邦合衆国全体で一億人とも言われておりますが皆同じような能力を持っておりますわ。まぁ程度は違いますけど」
「そんな凄い能力をお持ちの貴女をどうやってサクさんが強姦できるというのです?!!」
ラティルスは作治を指さした。
正確には、作治の着ている学生服だ。
「だってその方魔法学科の生徒なんでしょう?魔法学科の生徒でしたら力任せに、いえ。一週間かそこらで習得したチート魔術で異種族をなぎ倒してハーレムを築くくらい簡単ですわ」
「くっ、負けだっ!!!」
パッショリはあっさり敗北を認めた。
「負けないでくださいよっ!!!パッショリさん弁護士なんでしょっ!!!」
「駄目です。サクさん。相手の理論武装は完璧だ。打ち負かす事なんて不可能です・・・」
「何が完璧なんですかっ!!?もっとしっかり弁護してくださいよっ!!」
「だってサクさん魔法学科の生徒ですし」
「僕は普通学科ですよ!」
ダンダンッ、とハイヒールの踵で床を踏む音がした。
ヒールで床を踏み鳴らすのは無論ラティルスだ。
「では、不死公様が開発した嘘を見破る魔術の力をご覧にいれましょう。サクさん。貴方は魔法学科の生徒で」
「違う!僕は普通学科の生徒だ!」
作治の床にある魔法陣はぼんやりと青く光る。
「ほら見ろ。僕は単なる普通学科の生徒で・・・」
「劣等生なのですよね?」
「え?」
「質問に答えてください。貴方は劣等生ですか?それとも優等生ですか?」
作治はしばらく考えた後、
「ゆ、優等生。かな?」
魔法陣が朱い輝きを放ち始める。
「うあああ!ご、ごめんなさい!れ、劣等生です!」
魔法陣の輝きが蒼く美しいものとなった。
「ぬおおおおおおおおおおおおっっっ!!!!」
そして作治以上に傍聴席に驚愕の声が上がる。
「おい。見ろよ」
「ああ。魔法学科の劣等生だってよ」
「もうだめだぁ。おしまいだ・・・」
「俺達あいつが呼吸するだけ皆殺しになっちまうんだ・・・」
「コキュってなんだ?」
「聞いたことがあるぞ!なんでも魔法学科の劣等生だけが使える究極扇らしい!」
「ああ。クマでも不死鳥でも、なんでも一瞬で殺せる恐ろしい魔法なんだ!!」
豚やら蛙やらカラスの頭をした人間が絶望の表情を浮かべてる。
「むぅ。これはいかんな」
裁判長が席を立ち、作治の方に近づいてきた。
そして淡い紫色の石を作治に手渡した。
「なんですかこれは?」
「今の我は一裁判長であって、貴公ら人間の言う魔王ではない。が、一時間も魔法の勉強もしない魔術学科の生徒が自分の強さを示すためだけに力なきオークを1万も10万も殺すのは我慢ならん。どうしても貴公が我が国の民を殺したいというのであればその石を使え」
「え?貴方は魔物達の王様ですよね?なんで僕に贈り物を?」
「そうだ。その転移石は世界中どこにいても我の下に飛ぶように魔術を仕込んである。まずは我が相手になろう」
「・・・えっと、不死公さんて強いんですよね?」
「貴公は魔術学科の劣等生なのだろう?我を葬る自信があるなら挑んでくるがよい。人間の言う、すべての邪悪なる種族の盾に、我はなろう」
紫のローブをまとった白骨死体は、日本の埼玉県から来た普通科高校の学生に向かって、本気でそう言っているようだった。




