序 表現の自由
21条 表現の自由、事実の隠ぺいの禁止
① 出版その他一切の自由を保証する。国家はこれを侵害してはならない。
② すべての国民は真実を知る権利を有する。国家はこれを侵害してはならない。
作治は書店にある本を取った。
それはこの世界の言語で書かれてある。日本語どころか英語ですらない。
だが絵本であるため、表紙だけでだいたいの内容の把握ができた。
左手に光る玉。右手に剣を持った剣士が、紫色のローブをまとった白骨死体を突き殺している表紙である。
「アミーラさん。この紫色の服来た白骨死体って。さっき僕が会った魔王だよね?」
「うむ。それがどうかしたのか?」
「これ。剣持って魔王を刺してるの勇者?」
「そうだが?それがどうかしのか?」
「なんでこんな本があるの?ここ魔王の国でしょ?」
「それは人間の国で売られている絵本だ」
「勇者が魔王をやっつける本を魔王の国で売っていいの?」
「問題ない。魔王領では表現の自由、国民が真実を知る権利を保障されておるからな」
「ひょ、表現の自由?」
「うむ。基本的にどのような内容な書物であれ、魔王領では出版販売して良いことになっておる。もっとも正規ルートで流通させるには当人の名前や住所を文科省に届ける必要があるから、著しく反社会的な本は出版できんがな」
「でも魔王を倒すのは反社会的な内容じゃないの?」
「不死公本人が『大昔人間との戦いに敗れ、封印されたのは事実』と申しておるからな。事実を隠さず、すべての国民に伝えるようにとそのような法を造ったらしいぞ。ところでサク」
「なに。アミーラさん」
「お主がそのようなことを訪ねるという事は、きっとニホンという国には表現の自由も国民が真実を知る権利もないのであろうな」