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逆説裁判(6)

 そして、裁判の当日となった。

 罪人の逃走を防ぐためなのだろう。暗幕によって外部の様子をうかがい知ることのできない特殊な構造の馬車に乗せられ、作治は裁判所に送致された。

 コンクリート製の近代的な建物の内部は、木製のクラシックな内装だ。

その中心部と思しき位置に法廷はあった。

 後方に20人ばかりが座れる傍聴席。左手にパッショリがいる。ということは弁護士の席だろう。ならば反対側の右手が検察サイドということか。

 作治は犬のおまわりさん(本当にそのまんま頭が犬のおまわりさんだ)に促されるまま、法廷中央の被告人席に座る。

 正面には少し高い席に5人ばかり座れる席と、さらにその奥に一際高い席があった。


「パッショリさん。質問があるのですが」


「はい。なんでしょうか」


「反対側の右手が検察だが検事だかの席ってのはわかるんですが。正面のたくさんある席はなんですか?」


「あれですか。裁判長と陪審員の席です」


「陪審員?」


「ええ。サクさんの故郷のニホンではどうだか知りませんが、魔王領では陪審制裁判といいまして。軍人と宗教関係者以外から選出された5人の人物を陪審員と選出し、その意見を考慮して裁判の判決を下すそうです」


「なんで軍人と宗教関係者以外?」


「軍法会議とか宗教裁判のようなものを避けるためだそうですよ」


 そこだけ聞くとまるで民主主義国家のようだ。

 だが作治の後ろの傍聴席にいるのは馬だのライオンだのフクロウだの。そんな頭の人々ばかりだ。その事実がこの国が魔王の支配する国だと作治に改めて認識させる。人間などただの独りもいない。

 最前列にいる、コインチョコを齧るフランドル衣装を着た少女を除いて。


「応援しておるぞ。必ずや無罪を、少なくとも死刑以外になるのだ」


「どうしてそんなに僕の味方をしてくれるんだ?」


「お主がこの裁判に勝利する方に金貨1000枚賭けておるからのう。母に借りた金を返して釣りがくる」


「人の裁判の結果を賭け事にしないでくれよ・・・」


 がっくりとうなだれる作治に、パッショリは微笑みながら語り掛ける。


「ご安心ください。負ける要素はありませんよ。なにしろ今回の裁判は検察サイドにサクさんを有罪にできる証拠を用意できないのですから」


「その自信の根拠は?」


「古代遺跡で発掘中の調査隊をサクさんが魔術で操ったメタルイーターを用い、殺害。というのがまぁ今回の裁判の嘘の容疑ですよね?」


「うん。そうだけど」


「じゃあこう主張すればよいのですよ。『魔術でメタルイーターが操れるのなら、サクさんは裁判になる前にメタルイーターを使って脱獄すればいい』」


「あ、なるほど。でも万が一裁判の途中にメタルイーターが襲撃してきたら?僕間違いなく犯人扱いされちゃうよ?」


「それはありえません。この裁判所があるテーク・ザ・コートの街は、街をぐるりと取り囲むように水田が?広がっています」


「水田?魔王の支配する国って稲作文化なの?そういや牢屋の中にいる間、やたら米の食事が多かったような気がするなぁ」


「しかも今は田植えの季節ですからね。街道を少し外れれば泥の沼地です。メタルイーターが一歩足を踏み入れれば泥濘にはまって動けなくなりますよ」


「でもハサミのついたドリル持ってるよね?地面に穴掘って、地中から来るってことは?」


「その場合は地震の一つでも起きるのではないですかね」


「じゃ、空を飛ぶやつとかは?」


「メタルイーターは全身金属の塊ですよ?彼らの体が鳥の羽のように軽ければともかく、重たい鉄の塊が自由自在に空を飛び回るなんて考えられません」


「じゃあメタルイーターが僕の裁判中に来るなんてことは」


「そんなタイミングよく来るなんてことはありえません。ですから私どもはサクさんは魔法でメタルイーターを操ることができない。そう主張することでこの裁判を有利に戦うことができるんですよ。それにしても」


 パッショリは小さくつぶやいた。


「もしメタルイーターを自由自在に操る魔法なんてあったら、人間は余裕で魔王軍との戦争に勝ってるじゃないですか・・・」


「まだ裁判に勝つ秘策があるんですか?パッショリさん?」


「いえ。今のはただの独りごとです」

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