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逆説裁判(2)

 自分が生きている理由を理解し、ここがあの世ではないことを把握した作治は改めて室内を見渡した。どうやら牢獄のような場所らしい。外壁は石、いやコンクリート製だろうか。

 天井に近い位置に採光用の窓がある。人間の通れるサイズではない。ただ、太陽の光が差し込んでいることからここが地下ではないことは確かだ。

 アミーラがクッションを乗せて座っている丸椅子もコンクリート製。いや、自分の今寝ているベッドも布団やマクラを除けば長方形な大きなコンクリート製。

 それらすべて地面に張り付くように造られている。

 部屋の隅には陶器製の奇妙な洋式便器があった。座る部分だけでタンクがないのだ。


「ここは牢屋?」


「ただの牢屋ではない。完璧な牢屋だぞ。その昔、ブレッドとかいう人間の剣士がいたのだが」


「ブレッド?」


「牢屋に閉じ込められた際、部屋の中にあった木製のテーブルと椅子を分解して剣と盾の代用品にしたのだ。そしてエルフの姫君を救い、砂漠の国の傭兵王になったと聞く」


「どっかで聞いたような話だなあ」


「従って、この牢屋では捕えた囚人の脱獄を防ぐため、椅子もベッドもコンクリートで固定されておる。便器も、ほれ。近付いてみろ」


 アミーラに促され、作治は洋式便器に近付いてみた。

 便器沿った壁に、丸い穴と、その隣にボタンがあるのを作治は見つけた。


「そのボタンを押してみるがよい」


 作治がボタンを押すと、壁の穴から水が流れ始め、洋式便器の中に落ちていった。


「水洗のタンクはコンクリート壁の内部に埋め込まれておってな。ボタンを押すと流れる仕組みだ。ちゃんと手も洗えるぞ」


「なんでこんな構造に?」


「仮に脱獄するために兇器として使おうとしても、力任せにコンクリートから取り外さないと無理だからな。それに便器を壊せるくらい力があるなら、そのままコンクリートの壁をぶち壊して脱獄した方が早い」


「なるほど」


「ところでサク。お主腹は空いてはおらぬか?」


「腹?」


 よくよく考えてみれば異世界、もしかしたら別の惑星なのかもしれないが、作治がこの国に来てから口にした物といえばアミーラから貰ったコインチョコだけだ。


「できればまともな食事がしたい気分だけど」


「そういうと思ってな。こういうものを用意しておったぞ」


 アミーラは床に置いてあったおかもちの中からどんぶりを出してコンクリート床に固定されたテーブルの上においた。


「開けてみるがよい」


 促され、作治はどんぶりの蓋を取った。

 中にはご飯の上に乗せられた肉のフライがあった。


「まずコメ、という穀物を水で一時間ほど煮る。調理するコメとだいたい同量の水を釜に入れて加熱した後、蓋を取らずにそのまま放っておいておくのがうまくコメを調理するコツだ」


「き、君はなにを言っているんだっ?!」


 作治は驚くしかなかった。なにしろアミーラが作治に説明しているのは『コメの炊き方』でしかない。


「そして次は豚肉を用意する。まぁ鶏肉でも牛肉でも、それ以外の獣肉でもよいがな。それを小麦粉でまぶし、油であげ、一口サイズに切り分ける。次に刻んだタマネギを醤油や砂糖などと共にフライパンで炒め、そこに先ほどの切った豚肉を入れ、再び熱を加える。仕上げに上から卵をかけて、オムレツぐらいの固さになったものをどんぶりによそったコメの上に載せればこの料理は完成だ」


 アミーラが造り方を詳しく解説してくれたその料理は、作治が『ニホン』の、『サイタマ』という街で、ごく当たり前に食べたことのあるものだった。


「アミーラさん。この料理」


「名前はカツドンという。冷めてもおいしく食べれるので牢屋に入れられた者の差し入れ、弁当のおかずなどに最適なのだ。お主の国にはこんなものはないであろう?」


 そう言ってアミーラはフォークとスプーンを差し出した。


「なにそれ?」


「お主まさか素手でカツドンを食うつもりか?」


 やむなく作治はフォークでカツドンを食べ始めた。


 作治がカツドンを食べたのを確認して、アミーラは自分のカツドンを食べ始めた。

 二本の棒で。


「アミーラさん。それって・・・」


「ん?これか?これは箸という食事の時に使う道具だ。だがこれは妾達の住む魔王領にしかない道具らしいな。お主は人類諸国連合の、ニホンという国の魔法学科の生徒なのだろう?ニホンにはきっと箸がなくて、食事にフォークとナイフを使うと思ってそれを用意した。ささ。遠慮せず食え」


「・・・・・・・・・・・・・・・・」


 アミーラは笑顔で、作治は無言で。

 食事を続ける。

 異世界でフォークとスプーンを使って食べるカツドンは、意外なことに美味であった。


「それで、僕はこれからどうなるのかな?」


 アミーラがいれてくれた食後のコーヒーを飲みながら作治はそう尋ねた。


「ふむ。まずは弁護士との接見かのう」


「弁護士?接見?」


「これから裁判なのだからな」

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