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普通学科の劣等生(旧題魔法文明滅亡一万年後)  作者: 虹色水晶
第二章 即死魔法も銃も槍も効かぬ化け物
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なるとクラブ(9)

 予想通りというべきだろう。廃墟群の向こう側にはソード、アックス、スピアといった武器。

 チェインメイル、ヘルメット、ガントレットといった各種防具。

 そしてそれらに群がる形でメタルイーターの死骸が黒い煙を上げていた。

 とても食べずらそうな縦長のカイトシールドをドリル付ハサミで掴み、口に差し込んだまま動かない物もいる。

 どうやらすべて死んでいるようだ。


「へへ、ざまぁみろってんだ」


 ブタ顔の兵隊がメタルイーターの死骸を蹴りながら罵倒している。いわゆるオーク兵という奴だろう。


「のう。お主死体蹴りなら妾達にもできるのではないか?」


 アミーラの問いに、オーク兵はビックリするくらい優しく答えた。


「冗談じゃない。こいつらは人間共なんかより遥かに厄介なんだ」


「何しろ呼吸も心臓の鼓動もない~な。こうやってきちんとくたばってるか確認しないとな」


「そうだ。偉大なる不死公様から与えられた大切な使命なんだ。俺達が人間共が産み出した悪いメタルイーターをやっつけることで皆が安心して暮らしせるんだぞ?」


 オーク兵達がアミーラに優しい声で説明する様子を見て安心してしまったのか。作治は愚かにもこんな発言をしてしまった。


「メタルイーターを造った?僕ら人間が?」


 その作治の呟きに、ボンレスハムのような二匹の豚顔兵はその体格からは想像もできないほど俊敏な反応を見せ、作治に詰め寄った。

 そして品質の良い、さらによく磨かれたブロードアクスを突きつけてきた。刃が大きくて広い、光り輝く片刃の斧が作治の首に突きつけられる。


「こいつはメタルイーター共と戦うために不死公様が俺達に与えてくださった切れ味抜群な斧なんだ」


「へ、へぇ・・・。それはすごいですねえ・・・」


「いや、てめぇら人間共はちっともわかっちゃいねぇっ!!!」


 オーク兵は作治の顔面に唾液をかけながら罵倒する。


「この鋭い斧はな。メタルイーター共の腕や足を斬り飛ばすのに最適なんだよ!」


「それだけじゃねぇ。刃の部分と持ち手の部分が長い棒で離れているからな。メタルイーターが口で咥えたらすぐに手放して逃げることができるんだよ!」


「大切な武器を手放しちゃっていいの?」


 作治は余計な言葉で、オーク兵達の怒りの炎をより燃え上がらせる。


「不死公様はおっしゃった。『我は蘇生の秘術が使える。だがメタルイーターに骨まで喰われば、遺体が残らなけば蘇る事などかなわん。だから必ず生き延びるのだ。武器よりお前たちの命の方が大事なのだ』」


「だいたい、てめらの下らない刀剣信仰てのはなんなんだよ?」


「振り回すだけで約束された勝利が手に入る王の王の剣とかご都合主義にもほどがあるだろっ!!」


「接近戦では短剣の方が強んだっ!覚えておけっ!」


「槍は投げてよし、振り回してよし、突いてよし、万能の武器なんだぞ?!」


「だいたいなんでお前ら人間共の英雄武譚でいっつも俺達は棍棒もって瞬殺されてるんだっ?!」


「10フィートの棒を知らないのかよっ!!」


「そうだ!10フィートの棒はお前達人間が仕掛けた卑劣な罠の数々から仲間の命を救う素晴らしいものなんだっ!!」


 作治はその全身に罵声と唾液浴びせられていたが、不意には上空からの暴風を感じた。


「随分と騒がしいのですね」


 羽ばたきと共に一体の瞬翔竜が降りてきた。

 そしてその背から一人の若い女性が降り立つ。

 年齢は作治と同じくらいだろうか。背丈もそんなに変わらないだろう。

 足首辺りまである長いロングスカートにハイヒール。まるでウェディングドレスのようだ。そして縦に巻かかれた美しい金髪。

 色々と翼竜に乗るには不便そうな格好ではある。

 鎧など、防具の類は一切持っておらず、また剣や銃など武器らしきものも見当たらない。


「これはラティルス様!」


「先ほどは我々調査隊に対する航空支援攻撃、まことに感謝歓喜の極みであります!!」


 オーク兵は姿勢を正し、敬礼をして、瞬翔竜から降りた女性に向きなおった。


「そのようなものはわたくし達の間には不要です。お礼をしなければいけないのはむしろわたくし達エンプーサのほうです。数百年、いえ数千年の長きに渡り欲深い人間共の家畜として貶められていたわたくし達の祖先を解放なさってくださった貴方方に多少なりとも恩返しをさせて頂くのは当然の義務ですわ」


 瞬翔竜から降りた貴族の令嬢と、醜悪なオーク兵は非常に仲睦まじく会話しているように作治には見えた。


「それで、この人間はなんなんのですの?」


 ラティルスと呼ばれた女性は、螺旋状に巻かれた髪を弄りながら訪ねた。


「怪しげな人間をひっ捕らえましたっ!」


「きっとこの古代遺跡を奪うためにメタルイーター共をおびき寄せたに違いありませんっ!!」


「そんな出鱈目な・・・」


 オーク兵達に作治が抗議しようとする。すると今まで黙っていたアミーラが口を開いた。


「うむ。それ故不死公様の御膳に出し、然るべき裁きを与えて頂こうかと思う」


「うええええ?!!アミーラさん?!!」


 まさかの裏切りである。


「こやつは、えっと。なんて名前だっけか?」


「作治です!吉岡作治!!」


「うむ。このサクとかいうやつはサイタマとかいう国の魔法学科の出身らしい。愚かにも人種連邦合衆国の領土に不法入国し、さらに遺跡荒らしを行ったのであるからやはり不死公直々に裁きを与えてもらうのがいい」


 両手を腰につけ、首をシャフ度の角度で振り向きながら、


「ラティルス。お主もそう思うであろう?」


 と尋ねた。


「あらアミーラさん。不死公様はとてもお忙しいお方なのよ?たかだか人間一人の処分くらいわたくし一人で充分ですわ」


「では、サクを先に発見したのは妾なのでお主が殺した後死体を不死公に届けよう。それでよいな?」


「ちょ、僕死んじゃうの!??」


「てめぇは黙ってろ!」


「そうだ。人間に発言権はねぇ!!」


 オーク兵は作治に対してのみ急に粗暴な言葉つきになる。


「うむ。サクが物言わぬ骸になったあかつきには妾が不死公にそれを届ける故」


「人間の遺体を不死公様にお届けする理由がわからないのだけれど?」


 ラティルスの問いに、アミーラはこう答えた。


「なに。不死公はスケルトン兵を魔術で創り出すことが出来るからな。人間の白骨死体で造られた兵が北部砂漠やマジノス迷宮で妾達の同胞を守る為に戦い続けていることはお主も知っておろう」


「ええ。それがどうかいたしまして?」


 アミーラはP-90似の小型拳銃を取り出し、作治の方に向けながら再び言った。


「何度でも言おう。密入国者であり、不法盗掘者であるサクの処遇はこの国で最も多くの国民から信頼を受けている不死公に委ねる。それでよかろう?」


 そしてアミーラは例の魔法ではない、金属なら頭の中で思い浮かべるだけで何でも造れる能力で両端に大きな輪っかのついた長い鎖を用意した。


「こいつの片方をサクの首に、もう片方を瞬翔竜の脚に取り付けてちょいと留置場まで飛んで行って欲しいのだよ。なにしろ裁判の日まで罪人を野宿させるわけにはまいらんからな。ラティルス。お主できるかな?」


「え?ちょ、ちょっとまって。ドラゴンの脚に鎖つけて空を飛んだら首が取れるんじゃ・・・」


「ええ。それじゃあ早速参りましょうか」


 次の瞬間作治の意識は遠い空高く舞い上がっていった。


 ああ、天空の城が見える・・・。

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