なるとクラブ(7)
「ともかくそこから脱出しよう」
作治はアミーラを彼女が創り出した長大なハルバードの下から引きずり出そうとした。が、できない。
ハルバードが重過ぎるのだ。アミーラをハルバードの下からずらすことも、長槍を持ち上げることもできない。
「くそ、駄目だ。全然動かせない!」
「情けないのう。これだから魔法学科の生徒は」
「いや僕は普通学科の生徒だから。そもそも君が造ったんだからアミーラさんなんとかしてよ」
「うむ。よかろう」
「そうそう。そうやって・・・えっ?」
アミーラはポケットから厚紙に包まれた物体を取り出した。それは小さな石で、青白い光を放っている。
彼女はその淡い光を放つ小石を迷わず自分の口の中に放り込んだ。
「フヘエエエエアアアアアアアアアアアアアアアアアッッツッッツ!!!!!!!!!」
「うおおおおっ!!!!な、なんだこれはあああああ!!!!!」
作治は日本の埼玉県のさいたま市にある、大宮普通科高校に通う学生だ。魔術の修行はもちろん、運動系の部活に所属しているわけでもない。
その作治ですらはっきり感じ取れるほどの凄まじい波動がアミーラから放たれ、同時に長大なハルバードがつまようじのように転がっていく。
「ふぅー。疲れたー」
そしてその波動はすぐに収まった。
「あ、アミーラさん。今のはいったい?」
「ああ今の石ころか。フロライトと言ってな。一かけら口にするとどんなヘボ魔法使いでも10秒程度超一流魔術師と変わらない魔力なるという触媒だ。希少品だし劇薬に値するから滅多に口に出来んがな」
「そういうのがあるのなら最初から使ってよ!」
「むー?そうは言われてものう」
アミーラは作治に言われ、スカートのポケットをまさぐった。そして群青色のガラスのような小石を取り出す。
「それはなに?」
「ラズライトだ。宝飾品に加工すると自然治癒力が向上する魔法の品が出来上がる」
「冒険者の多く通る街の入り口で売ったら高い値段がつきそうだね!でもこの場で役に立ちそうなもっと即物的なものを頼むよ!」
アミーラは赤燈色の樹脂光沢を持った石を取り出した。
「これは鶏冠石といって、ありとあらゆる毒を治療可能な魔石なのだ」
「メタルイーターが毒攻撃をやってくるとは思えないよ!」
「奇遇だな!妾もそう思う!」
「次!」
アミーラは紅く光る、水晶のような小石を取り出した。
「これはスピネルだ。世界各地にいる武器商人が高く買い取ってくれるぞ!」
「お宝を売って武器を買うんだね!でも肝心の武器商人がいないと意味がないよ!」
「奇遇だな!妾もそう思う!」
「次!」
アミーラは黒褐色の、金属質な小石を取り出した。
「これはクロムだ。単なる鉄と混ぜることで電気・熱・摩擦に強い合金を創り上げることが可能だ!」
「ワルプルギスの夜でも切れそうな剣が造れそうだね!でもそれって武器に加工しないと意味がないんじゃない!」
「奇遇だな!妾もそう思う!」
「次!」
アミーラは光沢のある黒いダイヤモンドのような小石を取り出した。
「これはチタンだ。重さが鉄の40パーセントしかないにも関わらず金属アレルギーを起こさない性質を持つ」
「凄い金属だ!でもそれって鎧とか盾に加工しないと意味がないんじゃないかな!」
「奇遇だな!妾もそう思う!」
「次!」
アミーラは白色の光沢のある小石を取り出した。
「これはウイルマイトといって、紫外線照射装置の材料になるのだ!」
「吸血鬼と戦うの是非とも必要だね!でもメタルイーターは人間の血は吸わないと思うよ!」
「奇遇だな!妾もそう思う!」
「次!」
アミーラは見る角度によって色が変わる、虹のような小石を取り出した。
「これはコランダム。ファンシーカラーサファイヤという魔法石だ。妾が口にすると髪の毛、服が七色に輝きながら触れるものすべてをなぎ倒し、目からビームを出せるようになるのだ!」
「まるでスターを取った後のスーパーマリオみたいだね!採用!」
「ただし周りにいる人間、今回の場合サク、お主が無事でいられるかどうかの保証はない!」
「はい却下!次!」
アミーラは、鉛色の、尖った小石を取り出した。
「シビナイトか・・・」
アミーラは取り出した小石はすぐに引っ込めた。
「それはどういう石なの?」
尋ねる作治の学生服を、アミーラはまじまじと見た。
「サク。お主魔法学科の生徒だったな?」
「え?いやだから僕は普通学科の生徒だって」
「これはあまり役に立たない石だ。少なくともメタルイーターを倒すには使えん」
そう言って。アミーラは鋭利な鉛色の小石をポケットに仕舞いなおした。