着信。
ある日の夕方、仕事から帰り夕飯の支度をていたらテーブルの上に置いてあったスマホが鳴った。
「ん? 着信? 誰だろ」
キッチンでの作業を中断し、テーブルの上のスマホを取った。
「葉野君だ……」
私は通話ボタンを押す。
「もしもし?」
「もしもし。 大原さんですか?」
聞きなれない女の人の声……。
葉野君のケータイだよね?
「失礼ですが……」
「葉野の妻です。 突然にごめんなさい」
葉野君の奥さん‼︎
「主人の様子がおかしかったので、 ケータイをみました。 そしたら貴女の番号があって。 それにメールも……」
かなり強めの口調だ。
「あの……。 私は小学校の時の同級生です。 メールもやり取りしましたが、 ただの同級生です」
だってまだ本当にそうだから。
確かに色々言われたけど、それ以上の関係ではない。
「同級生、 ですか……。 最近主人と離婚について話しております。 主人にそういう方がいるなら、 話は別だと思いまして……。 突然に申し訳ありませんでした。 ですが、 私はやっぱり別れたくないと思っています。 子供もいますし、 できればこのまま……」
「私には何とも言えません。 そちらで話し合いして下さい」
電話を切った後、ガクンと座りこんでしまった。
葉野君の奥さんは別れたくないんだ。でも葉野君は……。
一体何を信じる?
夕飯を済ませた後、再び電話が鳴った。
また葉野君だ。本人? 奥さん?
『もしもし……』
『大原? ごめん! あいつ勝手に電話したみたいで……。 何か言われた?』
『葉野君と別れたくないってよ』
『はあ? だってあいつ他に……』
『子供もいるし、 別れるのやめれば?』
ティーカップに紅茶を注ぎながら言った。
『うまくいかない相手と、 一緒にいる意味ある?』
『それは……』
『とにかく暫く電話とかやめよう。 また電話するよ。 本当に悪かった』
電話を切り紅茶を飲んだ。
上手くいかない相手かぁ……。
痛いな、それ。
バツ付きの私には痛い言葉だ。
しかし子供の事を考えたら、修復できるうちに修復した方がいい。
それでもダメだったら……。
私は保険か。
紅茶を飲みながら考えた。
葉野君の気持ち。私の気持ち。奥さんの気持ち……。
どちらにせよ、誰かが傷つく。誰かを傷つける。
難しい問題だ。どうする?私。




