同窓会で。
葉野君の思わぬ戯言から一週間後、久しぶりの同窓会が催された。
「元気だった〜? 懐かしいねぇ」
「今何してるの?」
元六年二組が久々にほぼ揃った。
いい大人がワイワイガヤガヤ騒ぎはしゃぐ姿に、思わずタイムスリップした様に感じる。
「月ちゃん‼︎ 元気だった?」
私は月ちゃんを見つけ声をかけた。
「ふゆちゃん! 元気だったよ〜」
「こないだのメール。 どう思う?」
コソコソっと葉野君の戯言についてメールした件を聞いてみた。
「あれ本当なの? だったらどうかと思うよ? 葉野君もう来た? ちょっと聞いてみようか?」
「やだ、 いいよ! せっかくの同窓会だもん」
「私会う機会ないし。 この際だから」
月ちゃんの思わぬ発言に慌ててしまう。
「やだやだ、 いいよ!」
「どうゆうつもりかちょっと聞いてみるだけだよ」
月ちゃんのお世話好きは相変わらずだ。
私はいつもお世話になっていたが、今度ばかりは……。
しかし結局月ちゃんはたまたま来た葉野君を呼び止めてしまった。
「葉野君。 ちょっと聞きたい事あるんだけど?」
同窓会会場の近くの階段で、月ちゃんは尋問を始めた。
「お! 月ちゃん。 何?」
「ふゆちゃんから聞いたんだけどさ。 本気なの?」
「情報早いねぇ。 うーん。 本気かな? 大原さんと本気で付き合いたいとおもってるよ。 まだ問題ありだけど」
「……。 よくまあ……。 問題あり過ぎだし、 そういうのは色々クリアしてから言うべきじゃない? いきなり過ぎるし」
「や……。 まあ。 うん……。 でもタイミングも必要かと」
「バットタイミングだね。 まさに」
「月ちゃんには敵わないなぁ。 でもさ、 大原さんが他の人と出会ったら? 今日だって大原さんが好きだった奴来るみたいだし?」
「はぁ? 小学生発言やめてよ。 あり得ない」
「それはさて置き、 大原さん。 返事まだなんだけど?」
柱の後ろにいた私に、葉野君が声をかけてきた。
「信じられないし、 返事できない」
スパっと言った。
「信用ないなぁ。 当たり前か……。 でも離婚の方向で話し合いしてるよ? 今はまだクリアしてないけど信じてよ」
「だから! 色々問題解決してから言いなさい!」
「月ちゃん怖いよ……」
久しぶりの同窓会は、こんな幕開けだった。
それでも懐かしい友達や先生と楽しい時間を過ごせて満足。お酒も美味しい。
まるであの頃に戻った様に時間が過ぎていった。
「今日の日直! 挨拶しなさい」
中野先生の号令のもと、日直称する幹事が締めの挨拶をする。
「えー。 では……。 起立! 気をつけ!」
幹事の声で皆が立ち上がる。
「先生さようなら。 皆さんさようなら。 礼!」
笑い声の中皆が礼をした。
「皆、 今日はありがとう! 楽しかったです。 それに懐かしかった。 元気で過ごして下さい」
先生の言葉にシーンとなる。
本当に本当に懐かしい先生の声。話し方。
何だか涙出そう……。
六年二組万歳だ。
「大原! 送るよ」
月ちゃんと帰り支度をしていた私に、葉野君が話しかけてきた。
「二次会行かないの?」
「大原帰るんだろ? オレも帰る」
「えーっ 。 盛り上げ役じゃん」
「真面目ですが。 オレ……」
「皆悲しむよ?」
「いいから帰ろう」
何だかペース掴まれてしまった私。
結局葉野君と二人、帰る事になった。
「二人になりたくなかった?」
駅までの帰り道、そんな事を聞いてきた。
「うん。 ちょっとね」
「冷たいなぁ」
「嘘付けません」
それでも。 ほんの少しだけ嬉しい私。
昔の私と代わりたい……。
「あのさ……。 マジ離婚するから。 まだ無理だけど予約だけできない?」
突然言われビックリした。
「何それ。 予約?」
「そう。 ゴタゴタしたくないから、 離婚成立するまで大人しくしてるよ。 でも予約だけしておきたい」
「困ったね……。 予約言われても」
「ダメ?」
不意に覗きこまれ、ドクンとした。
「私、 子供二人いるよ? 大変だよ?」
「問題無いよ。 全部受け止める」
「途中放棄しないでよ?」
「大丈夫」
「考える……」
「何だよ……」
今すぐには結論出せない。やっぱり一度失敗すると臆病になるし、まして既婚者なんて。
「離婚成立したら、 もう一度言って」
「了解」
簡単に離婚なんか成立しない。色んな決め事や慰謝料などもあるし。
これでいいのかな? 信じてもいいのかな……。
季節は春から夏になる。
暑い夏がやってくる。ドロドロしなきゃいけど。
最寄りの駅まで送ってもらい 「じゃあね」
と言った。
「家まで送るよ」
「大丈夫。 またね」
葉野君と別れ、コンビニでバニラアイスを購入。
「アイスみたいに溶けなきゃいいけど」
アイスを食べながら一人呟く。
人の気持ちなど分からない。コロコロ変わるかも知れないし。
今はまだ行ったり来たりの私の気持ち。
信じてもいいのかな?って思ってみたり。
アイスをパクッと食べ、生ぬるい夜気漂う道をそんな思いで歩いて帰った。