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突然。

葉野君の事は勿論好きだ。幾ら何でもこの気持ちを直ぐにどうこうできる訳じゃない。


「二十年……」頭の片隅に追いやっていた片想い。止まっていた気持ちが動き出した。


でも現実は厳しくて……。葉野君の離婚問題と私の子供達、元夫からの申し出と……。私の頭はパンク寸前だった。


けれど子供達の気持ちを尊重したい。確かに未来を夢見たけれど。

母として。子供達を守る為にこの気持ちに蓋をするしかないじゃない。




翌朝、私は子供達を送り出し慌ただしく仕事に出かけた。


「五時には戻るから、仲良く待っててね」


「ママ頑張ってね」


にこやかだが、また不安そうな顔をした士雨が言葉をかけた。


「ありがとう。 じゃあね」



仕事場まで歩き出した。


今日もいい天気だ。布団干してよかった。



何で事を考えながら空を見上げた、


青い空にくっきり白い雲が浮かび、本当に洗濯日よりだ。


爽やかな空気に包まれ歩いていると、後ろから名前を呼ばれた。



「大原‼︎」


その声にビクッとしてそろり振り返る。


「あ……。 葉野君……」


「久しぶりだね。 電話じゃ埒あかないと思って。 色々話したいんだけど今から仕事だろ? 何時に終わる?」


今更何を話すの?自分勝手にあんな事を言ったのは悪いけど、今更何を話すの?



「あの! 子供達待ってるし、何も言ってないから今日は……」


「それならいつ話せる? そうやって逃げるんだ……」


「逃げてなんか!」


「夕飯の後でいいから少し話したい」


「だから……何も話はないよ……」


「電話待ってる」



そう言って去って行った。



今更何を話すと言うの?私の奥底に留まっていた何かが揺らいだ……。




「おはようございます。 今日も宜しくお願いします」


ロッカールムで着替えをし、店の開店準備をした。なるべく何も考えずに。



「おはよう。 大丈夫?」


にこやかに奥さんが話かけてきた。甘い香りが漂っている。


「はい。 ありがとうございます。 もう大丈夫です」


「無理、しないでね?」


笑顔でそう言うと調理場へ消えた。


「よし!」


気合を入れテーブルを拭いたり、店内に飾る花をアレンジしたり、とにかく身体を動かした。


コーヒーの香りが安らぎを与えてくれる。

甘いクッキーやケーキを陳列棚に並べ、慌ただしく時間が過ぎ、四時を回った所で私は店を後にした。


スーパーで食材を選んでいる間、ちらりと葉野君の言葉が頭をかすめる。


「電話した方がいいのかな……」


取り敢えず買い物を済ませ家路につき、夕飯の準備に取り掛かった。


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