私の願い。
葉野君は優しい人だ。それに明るく前向きに物事を考える。
そんな人と一緒に人生を歩めたらどんなにいいか……。
だけど、そんな優しさが時にはあだになるんだよ?分かるかな。
私は友達になれればそれでいい。それ以上は望ましい。
密かにそう決めたけど。好きな気持ちはそのままに、胸の奥にしまう。
葉野君の離婚はやはり進まない……。
奥さんだってやり直したいのだろう。
けれど時折くる電話で、私の事を想っていると言ってくれる。
それが切なく悲しい。
私の叶わぬ片想い。それ以上望まないと決めた。
『葉野君さ。 家族を大事にしなよ。 私達は同級生で友達。 それ以上になったらいけないんだよ……。 葉野君と友達でいられるだけで、 私は十分だよ』
『……それでいいの? 本当にいいの?』
『欲張りになったらいけないよ。 だから……。 ね?』
好きだからこそ、それ以上を望まない。
大切だからこそ、傷つけたくない。
二十年後の私の片想い。私の好きな人。
幸せでいてほしい。
それが願いだ。
『離婚しても、 一緒になれない?』
『奥さんは望んでないよ?』
『オレの気持ちは?』
『家庭を大切にして』
『とにかく……。 まだ結論出さないでよ……』
無駄だよ。きっと。離婚はしない。
今ならまだ大丈夫だから。
ねっとりとした暑い夏の始まり。
あんまりドロドロしたくはないな。
『葉野君の気持ちは嬉しいよ? だけど私は友達になれればいいだけだから。 だから……』
これ以上何かを期待したくない。
私の気持ち揺らぎたくないから。
『話し合いしてるから。 待っててよ』
葉野君の気持ち……。嬉しいけど、誰かを傷付けてまで、何かを犠牲にしてまで離婚する意味があるのだろうか。
ぼんやり窓の外に目を見やる。
白い雲がモクモクしていて、隙間から太陽の陽射しが差し込んでいた。




