かたおもいの相手。
繋がらない想い、重ならない影。ぼんやりと見つめていた私の好きな人……。
小学校六年生。あどけない子供達がはしゃぐ教室。
話す事も余りなく、接点もない男の子をただ見ていた。
”好き”の意味さえ分からずに、ただ毎日見つめていた。
仲良しでもなく、嫌われる事もなく。
近くも遠くもないクラスメイト。ただの同級生。
でも、目が合う度に胸が熱くなり、たまに話す事があれば声が震えた。
あどけない笑顔を向けて欲しい。欲張りな想いはつのるばかりで、苛立ちさえ覚えた。
素直な気持ち。純粋な想い。受け入れられない私の気持ち。
手をのばしても届かない。でもただ近くに居たいと思った、幼い私の幼い願い。
前から二列目、後ろから三番目の貴方の席を、ただ見つめていた。
「好き」と言う言葉さえ言えない。
私の一方的な想い。
かたおもい。
大人になり、そんな想いも忘れた二十五歳。
私は同じ会社の人と結婚した。
あのかたおもいから二十年。
秋野ふゆ。現在シングルマザー。二児の母。
小学生の息子と幼稚園年長の娘を育てている。
「お母さん、 あのね。 今日ね……」
可愛い子供達との平凡な日常。
あの頃の想い等、忘却の彼方……。
「ほら、 早く学校行って! あっ。 今日はお母さん仕事で遅くなるから、 おばあちゃんの言う事聞いてね」
現在実家暮らしの私達。
数年前に父は他界し、母と一緒に暮らしている。
別れた夫とは、月に二回。子供達だけの面会。
それさえも嫌だった。自分勝手な夫は、数年前に出て行った。
そして離婚が成立。養育費は殆ど貰っていない。まあ仕方ない。
ありきたりの毎日を、平凡に過ごしていた。
そんなある日。
小学校の同窓会のハガキが届いた。
『六年二組。同窓会通知』
「うわっ! 懐かしい。 小学校かぁ……」
蘇るあの頃の私。
ひたすらに好きだった同級生。
私は迷わず『出席』に丸を付け、返送した。
「あの子来るかな?」
卒業から二十年が過ぎたが、今も覚えてる。
あの男の子。
私のかたおもい。
名前は……。葉野紘斗君。
「月ちゃんも来るかな?」
唯一小学校から連絡を取り合っている友人にメールした。
『小学校の同窓会あるみたいね。行く?』
暫くして返信が来た。
『行くよ。 葉野君も来るかな?』
皆知っていたらしい。私のかたおもいの相手が彼だと言う事を。
「本当、 懐かしいなぁ」
夕飯の支度をしながら、私は思い出の中にいた。
ただ好きだった同級生。
淡いと言えるか分からないけど、彼が居るだけで良かった。
小学校六年生の私が顔を出す。