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ぶっちぎれ!人生っ  作者: 子子夏
一年生!春っ
2/23

ぶっちぎれ!出会いのその一っ

 入学式の翌日。またも校門の前で、ある一方を見つめて期待に胸を膨らませる、栗毛色の髪の少女が一人。

「二日目……だね!」

 さくちゃんが見ている方向は、確か学食がある方向かな? 咲ちゃんは学食が今度こそ食べられると、そんな期待をしているわけだ。

 それを悟った幼馴染くんが、あきれ果てて彼女に言った。

「そうだけど……今日は学食行けないぞ? 時間がねーから」

「えー、でも……」

 幼馴染くんの言葉に憮然となる咲ちゃん。しかし、幼馴染くんの言葉は意地悪ではなく、本当のことなのだ。

「まあまあ……。学校案内も楽しいだろうよ」

 今日は、学校の一大行事、学校案内。新入生が「ここに入らなければ良かった」もしくは「入って良かった」と思う、分かれ道の日。

 桜庭おうわ高校は、新しい校舎を別の土地に建てたので、旧校舎も別に存在する。そこと、新校舎がある敷地を合わせると、それはもう広大な校地なのである。そこを一日で回ろう、っていう行事なんだよね。もちろん、ただ見学しに回るわけじゃあないけども。

 好きな人と自由に回れるから、学食も時間を作れば行ける。先輩たちの殺気を無視できれば、だけど……。

 幼馴染くんに、宥めるように撫でられた咲ちゃんは、彼の手をパシッと払って、ニヤリ。

「そうだね、学校案内も楽しいよね……。二百人もの新入生がみーんな学校を回るんだもの……」

 その笑みを見て、私は戦慄した。たぶん、幼馴染くんもだろう。咲ちゃんは何かやらかすに違いない。不安を感じる私と幼馴染くんは、カラスの鳴き声を聞いてびくりと体を震わせた。


 咲ちゃんと幼馴染くんが教室に入ると、女の子たちがちょっとざわめく。嬉しい悲鳴ってやつだろうな、幼馴染くんを見れて嬉しいのだろう。でも、君たち、これから毎日見られるんだよ?そんなに注目しなくても。

 ゲームは「日常系」が売りだったから、学校のイケメンさんが入学していきなり人に囲まれたりはしない。ちょっと例外もいるけれど。人間中身も大事だって、大体の生徒はよく分かっている。

 咲ちゃんに気付いた子が一人、話しかけてきた。

「おはよう、江上さん」

「……! おはよう内田うちださん! 私の名前覚えてたの!?」

「そりゃあ、あの自己紹介聞いたらねえ。江上さんも私の名前覚えてくれたのね、ありがとう」

 ふわり、と微笑むこの天使は、内田美子(みこ)さん。出席番号七番、咲ちゃんの席と近い子だ。ちょっとぽっちゃりとしているけども、白い制服を着て優しく笑う彼女は、まるで白衣の天使! ぜひともこういう看護師さんに見られたい……。

 咲ちゃんはにこにこと笑いながら、内田さんと談笑し始めた。

「江上さんは、お菓子作るので何が得意なの?」

「なんでも作るんだけどね……。そうだなあ、よく作るのはフィナンシェかな」

「フィナンシェ?」

「うん。マドレーヌみたいなのなんだけど、アーモンド入れるから、風味がこう……」

「あ、店で見たことあるよ。四角いの」

「そうそう、それ。内田さんは、何か好きなお菓子はある? 今度作ってあげる」

「本当? ありがとう!」

 フィナンシェをよく作る理由は、幼馴染くん含め、咲ちゃんの周りの人たちがみんな、それが大好きだからだったりする。一か月に一回はせがまれるんだよね。おかげで卵黄が余って困ってたっけ。

 咲ちゃんはさっそく、内田さんにお菓子を作ってあげるみたい。仲良くなれそうで、良かった良かった。

 ああ、そうだ、内田さんは乙女ゲームでよくある「親友ポジ」ではない。というか、親友としてそばにいて、情報を与えてくれる便利な役はいなかった。

 もしや主人公の「咲」は、友達いなかったのか?とも思うけど、彼女は優しさのかたまりだったからなあ。きっと友達はいたでしょう、ゲーム内で描写がなかっただけで。

 一方、幼馴染くんもちょっと軽そうな男子に声を掛けられていた。

「よぉっす、菊地くん」

「あ、おはよう、風野かざのくん」

「お堅いな~、もっと緩くいこうぜ? あ、俺、敬語使えねえ人だから」

 からから笑う彼は風野幹久(みきひさ)くん。悪い人ではなさそうだよね。彼はサッカー部に入るそうな。

 二人はすぐに打ち解けたみたい。

「しょーやは、どこ入んの?」

「俺は、陸上部、かな。もともと入ろうと思ってたし、顧問もいい人そうだし」

「いずみんかあ、睡眠学習させてくれそうにないよねえ」

 いきなり亜田えいだ先生を「いずみん」呼びか。私が大きく突っ込みを入れるも、彼は気付かず話し続ける。……やっぱり、見られないって寂しいなあ。

「幹久、お前最初(はな)っから寝るつもりかよ」

「えー、だってば、昨日の入学式も寝ちゃったし。しょーや、よくいずみんの名前知ってたよね」

「……うん、危なかった。自信なかったし」

 風野くん、なんだか咲ちゃんと相通ずるものがあるね。入学式で寝るのは一緒だし、あと、彼は咲ちゃんと同じく「先生の名前を知っている」と手を上げていた人物だ。これから幼馴染くんは、風野くんと咲ちゃんのタッグで苦しめられるね。これは私の予言(たぶん当たる)。


「SHR始めるぞー。つっても、やることはないけどな。ほら、席座れ」

 時間になったので亜田(えいだ)先生が教室に来た。机に座っていた風野くんが、先生のげんこつを頭にくらう。

「痛え……。いずみん、酷くね?」

「おい風野、いきなり『いずみん』呼びとは、度胸があるな? よし表へ出ろ」

「すみませんでしたー!」

 亜田先生はパシ、と右拳を左手にあてていうけど、冗談みたい。顔が笑ってるしね。風野くんはすぐさま床で土下座した。ノリがいいな、彼。クラスのみんなでひとしきり笑ってから、亜田先生が話しだした。

「みんな、おはよう。今日は学校案内だ。楽しめ、そして気を付けろ(、、、、、)

 先生の言葉を聞いて、みんな困惑してる。まあ、いきなり「気を付けろ」って言われたら、そうなるよね。それが、この学校の案内行事が、変だって言われる理由なんだけど。私はちょっと楽しみだ。見ているだけの側としては充分楽しめるからね。当事者だったら嫌だけど……。

「では、九時に校門前で集合。それまで、一緒に学校内を回る人を四人くらい、決めておいてくれよ」

 そう言って、亜田先生はいなくなってしまった。先生が教室を出た途端、風野くんがくるっと振り向き、

「しょーや、一緒回ろうぜ」

「いいよ。……あとさ、咲も入れていいか」

「江上サン? なして?」

「私がどうしたの?」

 話題に出たことに気付いたのか、咲ちゃんが話に混ざった。咲ちゃん、内田さんと一緒に回る約束してたけど、どうするのかな?

「内田さんも一緒でいいから、この四人で回ろう」

 ただのグループになろうというお誘いなのに、幼馴染くんは真剣な顔。一体、どうしたんだろう。

 咲ちゃんを誘うのは、ゲームだと風野くん。なんでって、ゲームの幼馴染くんは照れ屋さんだからです。惚れてる子を軽く誘えないんだよね。

 でも、今はただ、幼馴染の咲ちゃんを誘っているだけなのだ。下心なしに。なんで、これから戦場に向かうような顔なのか……。

「内田さん一緒なら、いいかな。内田さん、どうする?」

「江上さんがいいなら、私もいいよ。……他の子がどう思うか、ちょっと不安だけど」

 不安げな内田さんの視線の先には、こちらをじっと見てくるクラスメートたち。厳密に言えば、咲ちゃん、風野くん、幼馴染くんを見てきている。きっと、彼らを誘おうとか考えているんだろうな。内田さんは、その中に一人入って、他の子がねたまないか悩んでいるのだ。案の定、一人の女の子が話しかけてきた。

「江上さん、こっちに入らない?」

「内田さんも入れるなら」

 即答する咲ちゃんは、今の状況をちゃんと理解している。朝、内田さんは咲ちゃんとずっと話していたのだ。すでに他の子たちは四、五人で固まってるし、これから内田さんが一人で入るのは大変なはず。

「風野くん! 君をスカウトしたい!」

「すまないが俺は契約済みだ!」

 こっちは、本気で誘っているのか、それとも冗談なのか微妙。風野くんは、幼馴染くんと一緒に行きたいのか、ふざけながらも断った。……そこはふざけないでほしい。

 幼馴染くんが不思議そうに、風野くんに聞いた。

「いいのか? 入らなくて」

「しょーやと回れなくなるしー。……それに、できればこの四人で回りたい。華があっていいじゃあないか」

 と、風野くんは咲ちゃんと内田さんを、若干鼻を伸ばして見ている。ちくしょう、二人に手を出したら許さないぞ、風野くん。幽霊として呪ってやる!

 いろいろな人から勧誘があったものの――内田さんを誘う子もいた。内田さんも可愛いからね!――、結局四人で回ることになったみたい。あれだけお誘いがあると、逆にこの四人で固まったのはいいことかもしれない。禍根は残らないしね。

 ところで、幼馴染くんは決意を固めたような顔をしている。さっきから本当にどうしたんだ?


 校門では新入生がみんな集まって、すごい混雑。一度人ごみに混じれば、もう抜け出せないだろうな。

 私はさっきから車酔いみたいになっている。これだけ人がいると、みんなが私のことをすり抜けていくのだ。ぶつからないから何も起こらない、と思うでしょう? ところがどっこい、人が私のいるところを通り抜けていくと、気分が悪くなるのだ。ずっとそれを繰り返すと、今みたいに……。

 うう、吐きそう。幽霊だから吐けないけど。

「これよりい、学校案内を始めるうううう!」

 校長先生が叫ぶ。マイク使ってるんだから、そんなに叫ばないで!生徒たちも耳を塞いでる。

 あ、亜田先生も、大声に顔をしかめてた。

 わわーん、とハウリングが収まった後、校長先生は咳払いをして、さっきより小さな声で話し始めた。

「今日は学校案内、高校生活で初の行事である! 大いに楽しんでもらいたい! 以上!」

 校長はそう一言告げて、「あと面倒だからよろしく」と言って逃げ出した。一同、唖然。マイクを持たされた亜田先生はしばらくフリーズしていたものの、おもむろに口を開いた。

「……では説明を始める。手元に地図はあるか?」

 みんなが、制服の内ポケットから地図を取り出した。私は、近くの生徒のを脇から覗いた。今、私は咲ちゃんたちがどこにいるのか分からない。車酔い……じゃないんだよな、すり抜け酔い?のせいで、見失ってしまったのだ。

「まず、今日は一年が通れない場所がある。まずは……」

 亜田先生が示した場所の中には、学食もあった。咲ちゃん、今ごろ肩を落としているだろうな。様子を想像して、クスリと笑ってしまった。

「次に、注意点だ。旧校舎は危ないところもあるから、懐中電灯を持っていくこと。あとは、誘拐されないように」

 一年生がざわめいた。誘拐ってなんだ、と隣同士でささやき合っている。別に不審者は出ないし、大丈夫だけどね。まあ、これが学校案内の変なところだ。

「それでは、これより学校案内を開始する」

 亜田先生の一言で、みんな散り散りになった。どこに行くか相談している。これ、先生とか先輩が案内してくれるわけでもないんだよね。「学校探検」って言った方が合っていると思う。

 そこらの生徒を観察していてもいいんだけど、やっぱ咲ちゃんの班が見たいな。私は四人を探しだした。


[見つからないなあ]

 あれから探しだして、もう昼になった。つい、声がもれてしまう。どうせみんな聞こえていないんだから、と、幽霊になってから一年くらいで声を出すのを辞めたのだけど、あまりにも暇だったりすると口が開いてしまう。やっぱり、咲ちゃん観察がないから、暇だなあ……。

 周りは決して「暇」な状況ではないけども。

「ぜひ、陸部へ!」

「あ、いや……」

「いやいや、美術部入ろうよ!」

「え……その」

「青春がキミを待っているぅ! つーわけで、サッカー部入らん?」

「私は……」

「マネージャーも大歓迎だよー」

「バスケ部でもマネージャー大歓迎っ! ね、こっち来ようよ!」

 それはもう、戦争。各部活がプラカード片手に、ひたすら勧誘をしている。校地は一日で回るのも大変なくらいなのに、新入生と在校生でいっぱいだ。パフォーマンスとかもしているから、道はすごく狭い。もちろん、またすり抜け酔いが起きるわけで……。うう、つらい。

 ときおり、肩に担がれて連行される新入生もいる。ラグビー部の勧誘は強引なんだよね。亜田先生の言った「誘拐」っていうのは、このこと。

 すごく賑やかな様子にビックリする「江上咲」、それをからかう「風野」、それを見て不機嫌になる「菊地将也」っていうのがゲームだった。

 ゲームと違う様子(内田さんとか)見たかったのに!みんなのほんわかした学校巡り(おもに内田さんの笑顔)を見たかったのにい!

 泣きそうになりつつ、ふわふわと浮いて廊下を抜けていく。うう、やっぱりすり抜け酔いが……。人がいすぎるよう。

[……待てよ]

 私はもっと浮いてみた。ふわふわ。さらに浮いてみた。ふわり。

 この体、幽霊なんだから浮けるじゃない。高所恐怖症さえなければ、鳥みたいに空飛べるかも?空は無理としても、天井近くまでなら……。

 見下ろすと、勧誘合戦が視界にすっぽりと入る。うう、ちょっと怖いけど、これなら人に当たらない。すり抜け酔いが収まったので、私は意気揚々と飛びだした。

 しばらく飛んでいると、咲ちゃんが目に入った。やっと見つけた!しかし、内田さんたちが見えない。はぐれちゃったのか?

 咲ちゃんは周りを見渡しながら、全力ダッシュ。先輩たちの勧誘も全て無視。なんでここまで……。

 近寄って見ると、咲ちゃんは小さくぶつぶつと呟いている。

「ばれなければいい……ばれなければ……」

 何が!?私が戦々恐々としていると、咲ちゃんはにやり、と笑った。

「学食は入っていけないだけで、つまり開いている! 今行ける!」

 ……えぇ!?私は、浮いているというのに、こけそうになった。咲ちゃんが今日、にやりと悪大官のように笑っていたのは、学食に行こうと画策していたからなのか。こうなることを予想して、幼馴染くんは覚悟を決めていたんだ。

 咲ちゃんを、止めてやる……と!

 しかし、咲ちゃんは彼の包囲網を抜けてしまった。今、彼女を止める者はいない。万事休した……!

 私が、意味不明な無力感に包まれていたとき、しかし救世主は現れたのだ。

 それは、咲ちゃんが恐ろしき吠え声を上げたとき。

「学食ぅううう!」

「ん? キミ、声でっかいねー! 一年生?」

「止めないでください、私は学食を……!」

「ちょうど今、放送かけようとしてたんだけどさ。正直、こんなうるさいと聞こえないじゃん? キミの声で放送かけてくんない?」

 その救世主は、軽ぅい調子でそう言うと、小さい咲ちゃんを抱え上げ、放送室に連れ込んでしまった。ん、連れ込むって、文だけだといやらしい感じが……。でも、そんな糖分は一切ない。糖分ゼロパーセントだ。

 私はぱたりと閉じられたドアをすり抜け、放送室に入る。そういえば、ただの物を通る時は酔わないな。

「じゃ、この文読んでくれる? よろしく~」

「……今から放送部会があるので、部員は会議室に集まってくださいいい! また、職員の方は職員会議が開かれておりますうう! さっさと職員室行けえええ!」

「うおっ……。最後勝手に変えないで! 怒られるのオレだから!」

 のけぞって言う彼に、咲ちゃんは放送の電源をぶちっと切って、

「知るかああああ!」

 と一言。その直後、

「ピーンポーンパーンポーン♪ 新入生の自由時間を終了いたします。これより説明の部に移行しますので、新入生は校門前に集まってください。在校生へ。勧誘を終了してください。繰り返します……」

 そんな校内放送が流れた。咲ちゃんはがくり、と両手を床に付け、暗い声を出した。

「学食……。食べたかったのに……」

 そう言った彼女に、放送部員らしき彼が声をかけた。

「え、キミ、学食は今日行けないよ? 学食そんなに食べたかったの? ならパンあげる。放送手伝ってもらったし」

 そう言って、差し出されたパンを目にして、咲ちゃんはぽろぽろと涙をこぼした。泣くほどか、咲ちゃんや。

「恩に着ます……。ありがとう、(なにがし)先輩」

「どーいたしましてー。ちなみにオレ、『某』じゃないからね? 五十公野(いずみの)三月(みつき)っていうの。よろしくー」

「ありがとうございます、五十公野先輩。名前は忘れますが、この恩は絶対忘れません」

「名前忘れちゃうんだ? まあいいや、一年生なら、急いで校門に向かった方がいいよ」

「了解です。ではさようなら」

 彼は笑って手を振った。咲ちゃんも手を振るけど、すぐにパンに夢中になりつつ、走り去る。

「あの子、面白いなあ……。名前、何だろ」

 悪戯好きそうな笑みを浮かべて呟いた彼は、そのままどこかへ立ち去った。


 ……五十公野三月ぃいいい!?

 五十公野三月。二年生にして放送部の部長さん。泣きぼくろがあって女性に大人気である。ついでに、口が上手くてよく女子を口説いている。

 攻略対象さんです。つまり今のは、主人公(ヒロイン)との出会いイベントのはず。でも、イベントが終わるまで気付かなかったよ。

 ゲームだと、新入生の勧誘でごった返すところ、幼馴染くんたちからはぐれてしまって、執拗にラグビー部の勧誘を受けていたところで声をかけられたはずだ。

 主人公ヒロインはきっぱり断る、ってことができなくて(相手が先輩だからなおさらだよね)、すごく困っていたんだけれど、そこでさらっと助けてくれた先輩がいた。それが五十公野三月。

――ごめんね、このコ、もうウチの部活に誘ったんだ。

 口からでまかせを本当に見せるようにするために、放送部長は咲ちゃんに代わりの放送を頼む、という訳。五十公野ルートを進めていくと分かるんだけど、彼はその時、放送をしてくれているヒロインの横顔と、声の涼やかさに惹かれてしまうんだ。


 実際。

 学食という吠え声をあげるヒロイン。その声を買って放送を頼むイケメン。

 ヒロインが立ち去った後。あの子、可愛いな。ではなく。あの子、面白いな。


 違う! なんか、甘さが欠片もないよ!

 私はがっくりと手を付き、絶望のポーズをとった。咲ちゃんは一つ目の出会いをぶっちぎりました。

 きっと、五十公野三月は咲ちゃんにからんでくるだろう。しかし、それは断じて恋じゃない。「面白い」とか呟いたあいつの目は、おもちゃを見つけたみたいだったもんね。幼馴染くんと同じく、ゲームとは全く違うからみ方になるのだ! そんな私の、予言(絶対当たる)!

 五十公野三月って、呼ぶの面倒だなあ。放送部の部長だから「放送さん」でいいや。

 そこまで考えつつ校門まで戻った私が見たのは、パンをくわえている咲ちゃんと、体育座りをして地面に丸を描く幼馴染くん。そしてそんな彼を必死に慰める、風野くんと内田さんの姿だった。

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