十二話
「──ッ!」
ユウトの微睡みを打ち破ったのは、鈍い痛みだった。
頭を押さえて、音にならない声を漏らす。
全身が重く、身体を満足に動かすこともままならない。
「……ここはどこだ?」
言いながら、ユウトは首をまわしてあたりを見渡した。
木造の部屋のようでで、あちこちぼろぼろになっている。
ほのかに焦げ臭さが残っており、今にも壊れてしまいそうだ。
当然、ユウトはこんな部屋は知らない。
と、そこで初めてユウトはベットの上にいることを気付いた。
周りの凄惨さに反比例するように、ベットだけはきちんと清潔なものに整えられている。
そして、ユウトの足元。
なぜかそこに、リーシャがすやすやと寝息をたてながらベットにもたれ掛っていた。
ここ見る限りでは、リーシャに外傷はない。
それを確認すると、ユウトは大きく息を吐き出した。
良かった。
やっと、助けることができたのだ。
今まで誰も助けることができなかった自分が。
ようやく、その力を持ったのだ。
と、
悪戯心が湧いてきたユウトは、そっと音をたてずに右手を動かすと、リーシャの鼻をつまんだ。
数秒後、
リーシャはふごふごと女の子にあるまじき音をたてると、かばっと飛び起きた。
気のせいか、漆黒の双貌が恨みがましき視線を宿しているような気がする。
「何するのよ!」
叫び、リーシャはジトっとした視線に切り替えながらも相変わらず睨み付ける。
が、リーシャは直ぐに表情を一転させた。
泣きそうな、自身の中で葛藤しているような顔。
続けて、発せられた言葉はユウトにとって予想外のものだった。
「……何で、来たの?」
地獄の底から聞こえるような冷えた声が聴覚に届く。
その圧倒的プレッシャーに、ユウトはしどろもどろに答える。
「そ、それはリーシャを助けようと──」
「あなたは、私が勝てない相手に勝てると思い込んでいたの? 魔法も戦い方も知らないあ、な、た、が?」
答えに窮するユウトに、更にリーシャは言葉を重ねる。
「いったいどういうつもりだったの? 馬鹿なの? それとも死にたいの? それなら、今からここで殺してあげようか?」
さすがに、ユウトはその暴言は見過ごせなかった。
「なんで、そこまで言われなきゃいけないんだよ! オレはただリーシャが心配だったから──」
「そんなの、私だってそうよ!!」
ユウトの叫びを遮って、リーシャが叫び返す。
「私だって心配だったのよ! 何のために、何のために私が一人で戦ったと思っているのよ!」
リーシャの瞳から銀色の滴が零れ落ちる。
「心配だったんだから……」
最後の一言をぽつりと漏らす。
ようやくわかった。
結局は同じだったのだ。
どちらもお互いのこと思って行動して、ただすれ違っていただけ。
お互いが一度手に入れた大切な存在を失いたくなかっただけ。
なぜなら、二人とも一度なくしているからだ。
大切な存在を。
だからこそ、より敏感になってしまう。
大切な人の存在に。
と、その時。
聞こえるか聞こえないかの小さな声が、ユウトの聴覚に触れた。
──ありがとう。
「え、何リーシャ?」
聞き返すユウトに、
リーシャは頬を染める。
「何でもない!」
顔をぷいと背け、リーシャはユウトに小さな背中を見せるように向こうに視線を動かす。
その小さな背中を守れるほど、優斗は強くなれたかは確信ははっきりとは持てない。
自分の身さえ守れれるかどうかなどわからないのだ。
だけど、二人なら、きっと──
リーシャが不意にこちらを向く。
満面の笑みを浮かべて。
そして、凛とした声音で空気を震わした。
「さあ、行きましょう」
──強さの果てにあるものを目指して。
第十二話をもって、DREAMLOWは完結します。
と、いうのも同じ設定で別の作品が書きたくなってしまったからです。
今まで、見ていただいた方には勝手ながらも、六月九日の土曜日から新作品を掲載する予定なのでぜひ、足を運んで頂けたらな、と思っている次第です。
作品名は「神の黙示録」です。
よろしくお願いします。




