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DREAM LOW  作者: 六野薫
始まり
1/13

プロローグ

大幅に改善しました!

楽しんで、読んで頂けると幸いです。

 

 二〇十四年四月。

 近年、多々見られた世界の終末を暗示する大予言から少し月日が経った頃。

 人類は新たなる大予言に直面していた。

 全ての事の始まりは、ある一人のイギリス人考古学者が次の世界の命運を示す予言を発見した、と発表したことだった。

 イギリスのとある民家にそれは一冊の書物として置かれていた。

 その予言は今までのどんな予言とも違い、どこか異彩を放ち、こう記してあった。


「二〇二〇年 人類は長き眠りにつく」と。



 






「……はあ……はあ……」


 乱れた息とともに、暗い夜道を一人の少年が駆け抜ける。

 まだ幼く、どことなくあどけなさが残った少年は目に好奇心などが輝くことなく、代わりに恐怖を浮かべながら重い足を懸命に動かす。


 空は曇り、月は隠れ、時折通り過ぎる電灯はチカチカと点滅している。そのせいか、少年が走るこの道は普段に比べより一層闇に包まれているように見える。

 昼は賑やかなこの住宅街も、今はひっそりと息をひそめ、得も知れない不気味さを醸し出していた。


 その中で一人、少年は後ろから追ってくる男に対し、逃げ続ける。

 懸命に走り続ける少年の足は、既に泥だらけとなり、膝小僧からは、泥と混じり合った赤黒い血がこびりついていた。

 その足はとうに限界を超え、少年は今、気力だけで走っているといっても過言ではない。


──絶対に捕まるもんか!


 少年はその言葉を自身の中で再確認するかのように、はっきりとした意思を持ち、呟いた。

 それは、少年が母親と交わした最後の約束だった。故にあの男から少年は全力で逃げ続けていた。


 しかし、少年の背後から迫りくる、ゆったりとした足取りはまるで少年の反応を楽しむかのように余裕を持ち、それは一つのサインのようだった──いつでも捕まえられるという。


 現にその効果は少年にとって絶大なものだった。見事にそれは少年の恐怖を助長し、その心を狂わせ、支配する。

 闇の中を駆け抜けながら、少年は必死にここにはいない誰かに願った。


「……誰か……助けてよ」


 しかしそんな思いとは裏腹に、その悲痛な呟きに応じ、助けに来てくれる正義の味方などいないことぐらい、数分前に少年は重々とわかっていた。


──正義の味方なんて、ヒーローなんていない。もしいるのなら、母親があの男に殺されてしまう前に助けに来てくれるはずなのだから。


 ついこの間まで、正義の味方に憧れを感じていた自分自身に、少年は少なからず嫌悪感を覚える。


…………僕が弱くなければ……こんなことには……

 

 悔しさを噛みしめながら、少年は顔を歪ませた。

 無論自分の力だけで何とか出来たはずもない、ということを少年は理解していた──だからこそ、少年はそう思わずにはいられなかった。

 やがて、走り続ける少年の目がT字路を前方に捉えると、ほとんど直観で右へと曲がる──が、不幸にも右へと曲がった少年の目の前には、大きく壁が立ちはだかっていた。


──しまった。


 と、少年は胸の内で叫ぶがその時はもうすでに遅かった。

 後ろからあの男の足音が徐々に大きく聞こえてくる。


 引き返す時間などない。

 そう一瞬で判断した少年は、咄嗟に近くへ捨ててあった段ボール箱の中へと入り込んだ。

 小学校三年生の子供が入るにはちょうどぴったりであったその段ボール箱に、膝を抱えて入ると、そっと息をひそめ、ギュッと両眼をつむった。

 静けさをより増した夜道に反響するあの男の足音を、まるで視覚を補うかのようにはっきりと少年の耳が捉える。


 不意にその足音が消えた。


──近くにいる。


 そう感じた少年は、口を両手で覆い、ギュっとその身を縮ませた。心臓の音すら止めてしまいたい、とさえ思うほど心臓が今までにないぐらい高鳴り始める。

 一秒一秒がまるで何倍にも引き伸ばされ、時間の感覚を狂わせる。

 一分、十分、あるいは永遠にも等しい時間が流れたと感じた頃。

 我慢できなくなった少年は、外の様子を確認するべく、段ボール箱に開いた小さな穴から、ほんの少しの月明かりを頼りに、おそるおそる外を覗いた。


 だが。


「……ッ!」


 少年は目の前の光景に、思わず叫び声を上げそうになるのを堪え、唇が切れてしまうかというほど思い切り噛みしめた。

 少年の視界に入ってきたのはあの男の顔。

 眼は血走り、顔は狂気に歪み、まっすぐとこちらを見ていた。

 それは、少年の目の前で母親が殺した時の恍惚した表情そのもの。

 その殺人鬼は、にやりと背筋が凍るような顔で笑うと、小さな声で、しかしその少年には、はっきりと聞こえる声で呟いた。




「……君は何を望む?」




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