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剣と魔法  作者: 珈琲(こひ)
8/10

野外大市場2 市場の姐さんが語ること

ゆっくりと書いてゆきたいと思います。


よろしくお付き合いください。

市場の姐さんが語ること


 ちょっとね。せいせいしたわ。

 この野外市場はできれば真っ当な商人たちの集まりでありたいのよ。

 ここで商売する魔法売り達のほとんどがそう思ってる。

 だから、あの魔法宝石売りは前からちょっと問題だったの。

 違法なことをしているってみんな薄々感じてはいたんだけど、これっていう証拠がなかったのよ。

 どうにかできないかって話し合ってたところだった。

 先週のことよ。

 面白い二人連れがこの市場にやってきたの。

 一見剣士の男女だけど、見る人が見たら解る。女の子の方は強い魔法使いだったわ。

 なんかね。こう……気配があるのよ。

 魔法使いは魔法使いの。剣士は剣士の。

 あの女の子は強い魔法使い。男の人は強い剣士。

 剣士の方が旅慣れている感じで、色々と市場の説明をしていた。

 ここの市場は大きくて怪しい店も幾つかあるから気をつけること、女の子は特に。とか。

 二人は案内所で紹介された宿に入って行って、そして。

 その翌日のこと。

 市場は朝から大賑わいなんだけど、あの女の子が困ったように一人で歩いてた。

 人が多いから、はぐれちゃったのね。

 声をかけようと思ったんだけど、私が店から出た時、その子は例の……そう、あの魔法宝石売りの店に入っていっちゃったの。

 呼び戻そうとその店に入ったら、中には誰もいなかったわ。

 そして、あの魔法宝石売りが慌てて手にもってた石を隠したの。

 一瞬だけど、見えた。

 とても綺麗なピンク色をした石だった。

 昨日までその店にはなかった石よ。

『おはよう。調子はどう?』なんて適当に挨拶してごまかしてきたけど、間違いない。

 あの子、宝石に封じ込められたって確信したわ。


 それからが大忙しだった。

 商売仲間に連絡をまわして剣士の男の人を探し出したり、あいつの店を交代でこっそり見張ったり。

 大変だったけど、でも、結果から言うと悪い奴は片付いた。

 私たちから事情を知ったパトリックという名のあの剣士が、何か少し考えた後、例の店に乗りこんで行った時。

 ちょっと見ものだったわ。

 私も周りの店の仲間も、商売そっちのけで野次馬したわ。


 パトリックは閉店間際に店に入って……たしかこう言った。

「ちょっと見せてもらえるかね」

それがまた落ち着いた顔でね。

 内心でどれほど怒っているかなんて想像もできない、さりげない笑顔。

 事情をしってる私たちには、かえってその表情で怒りの度合いが解ったけど。

「そろそろ店じまいなんだ。長居は遠慮してくれよ」

あいつがそう答える。

 いい宝石が手に入ったから、市場の客にはもう随分ぞんざいな態度だった。

「それはそちらの品揃えによるなあ、店主」

パトリックは、カウンターにゆったりと肘をついてそう言った。

「この店で一番極上の魔法宝石をいただきたい。もったいぶらないでくれよ?代金は、そちらの言い値で払わせていただく」

にこにこ。

 人好きのする笑顔で、パトリックはゆっくり両掌を合わせたわ。

 商談上手な人が本気モードになった時によくする仕草。

 あの人、本気になったらすごい人たらしよ。

 笑顔がね、魅力的なの。性別関係なくスッと人の懐に入れちゃう、いーい笑顔をするの。

「魔法宝石を扱ったらここらでは随一という噂を信じて、カジェラバーラからはるばる見に来たんだよ。あなたの態度とこの店の品ぞろえ次第で、今後の商売がどうなるか……わかるかい?いやいや、まあ気楽に気楽に」

あくまで穏やかに、パトリックはゆっくりと店内を見まわした。

 あいつは……ポカーンとした顔してたわ。

 言われた意味がわからなかったみたい。

 私たちも、まあよくここまで出まかせをって思いながらパトリックを見てた。

 だってカジェラバーラなんて王都じゃない。

 こんな市場でとはいえ、そんな大ボラ吹いて大丈夫なの?って。

 そうしたら、驚いたわ。

 パトリックが、懐から小さな紋章を取りだしたの。

「さては店主、疑ってるな?よろしい。これが証拠だ。カジェラバーラ王国第二騎士団長の紋章。身分を証明するために身につける物だよ。俺は第二騎士団長のパトリック・ラディ。今日はカジェラバーラの姫君の使いでね」

あいつは、ようやくパトリックの言ってる意味を飲み込んだようだった。

 ――私たちも大騒ぎだったけど。

 あいつは口をパクパクさせながら、急いで奥の棚から豪勢な魔法宝石を取り出してきたわ。

 その中に、あのピンクダイヤも入ってた。


 ――そのときね。

 私、ああ!って頭を抱えたわ。

 あの女の子がどの石に封じ込められたかを、パトリックに言うのを忘れていたの!

 ダイヤに封じられた、ってのは言ったのよ。

 でもピンクダイヤとは言わなかった。

 並べられた宝石には、ダイヤは六つか七つはあったわ。

 色とりどりの、どれもこれも、遠目に見てもうっとりしてしまうダイヤばかりだったわ。

 パトリックはその時ばっかりは笑顔を消して、ほんの一瞬とても真剣な表情になった。

 パトリック、そのピンクのよ!って、私はもういっそ乗り込んで言おうとした。

 そうしたらね。

 私が動く前に、パトリックは笑顔に戻ったの。

「いや―――これは素晴らしい。どれも甲乙つけがたいが……」

そう言って、一つの石をそっと手に取った。

「これが一番素晴らしい。まさに姫様が望む色と輝きだ」

あのピンクダイヤだった。

「お目が高い。それはこの中でも最高級品です。素晴らしい力を秘めていますよ。私でもその力は計り知れない」

あいつが笑って言うと、パトリックは何度も頷いた。

「そうだろうとも。俺も騎士団で様々な魔法石を使ったが、これは」

――素晴らしいよ。

 溜息をついて何度も繰り返したその言葉は、ちょっと本気なのかもしれなかったわね。

 パトリックはダイヤを両手で大事に包んで―――心なし安堵したような………笑顔で、あいつに『これを丁重に包装してくれ』と頼んだ。

 手土産として、姫様に真っ先に一つお渡ししたいから。そう言った。

 それから他のダイヤも幾つか選んで、それは直々にあいつに城に届けるよう言いつけたの。

「本人が持ってゆけば一回で顔が売れる。きっと姫お抱えの魔法宝石商になれるだろう」

そう吹き込んで。

 持ち金はこれだけだが……と言ってパトリックが出したお金の額にも驚いた。

 ピンクダイヤの言い値には少し足りなかったけど、それでもあの店の石を半分以上は買い占められる額だった。

 パトリックは何かスラスラと手紙を書くと封筒に入れて蝋で封をし、あいつに渡した。

 たしか……残りの金額と後の宝石代金は、これを見せればスムーズに受け取れる。そう言ってたわね。



 騎士団の紋章がものをいって、あいつは大喜びだった。

 ピンクダイヤをしっかり手に持って出てきたパトリックは、これまた魅力的な、それ以上に嬉しそうな笑顔を私たちに向けた。


 ここからが種明かし。

 面白かったわ。

 騎士団の話は、半分は本当だったんですって。

 昔は騎士団にいたけれど、偉い人と折り合いが悪くて、今は騎士団を辞めて旅人をしているって。

 紋章は仲間たちと上司が万一の時にと持たせてくれたもの。

 ――今回がその万一だったわけね。

 あいつに渡した手紙には『その男が持ってる宝石はみな魔法使いが閉じ込められているものだから、どうか救出してほしい』という内容が書いてあるんですって。

 勿論、手紙を渡した時点であいつも逮捕というわけ。

 そこらの街の役所に捕まるより、王国の騎士団に捕まった方がどれほども薬になる、ですって。


「あいつのよこしまな魔法では、スカーレットさんを封印なんかできませんよ」

パトリックはそう言った。

 ならんだ宝石を見た時、石から声が聞こえた気がしたんだって。

 ピンクのダイヤから、スカーレットさんの声が。

「俺はダイヤから解き放つ方法を知らないけれど、ここまできたらもう、スカーレットさんはやがて自力で出てこれます。なんたって……石の中から魔法を使ってあいつをだましたんですから」

しっかり確信してる声で言って、パトリックは私たちに微笑んだ。

 最初は意味がわからなかった。

 聞いてみたらね、あいつに渡した札束。

 スカーレットさんが石の中からかけた魔法で一定時間見た目が変わった、領収書の束なんですって。

 領収書をお金に変えました、そう声が聞こえた気がしたんですって。

 ほんと、凄い魔法使いだし、信じて実行した凄い剣士だし。

 いいコンビだわよね。

 そしてパトリックが言った通り。二日くらいしたら、本当にスカーレットは自力で封印を破って出てきた。

 先日はどうも、なんて二人で挨拶にきたんだから。

 ほんと、おもしろいなぁ。

 おもしろい二人組だなぁ、って。


 あ、そうそう。

 あいつはまんまとパトリックの策略にはまって、監獄入りですって。

 まあもう、私たちには関係ないけど。

 二人はまた、どこともなく旅立って行った。

 そういえば、彼らと入れ違いにカジェラバーラの騎士団の人がパトリックを探しに来たの。

 久々に会えると思ったのに!ってガッカリしてたわ。

 仲間に好かれていたのね。

 うん。なんだかわかるわ。


 ああ、今頃二人はどこの空の下にいるのかしら。

 今日もすべての旅人達と、そして私達に幸運がありますように。

 


お読みいただきありがとうございます。

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