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剣と魔法  作者: 珈琲(こひ)
3/10

続く旅路

ゆっくりと書いてゆきたいと思います。


よろしくお付き合いください。

続く旅路


 春の終わりの時期だった。

 この地域はまだ夜になると肌寒い。

 森の中で、二人の旅人が焚火を作っていた。

 男女の旅人だ。

 二人とも旅の剣士の姿をしている。

 男のほうは二十代後半で、旅慣れた貫録を感じさせる。

 よく見れば目元は甘く優しい形で、草色の瞳は亜麻色の髪にもよく生える、美形という範囲に入れても何ら問題ない、所謂色男という種類だった。

 女のほうは十代後半か二十代始めに見える。

 ショートヘアの黒髪と同じ深い黒の瞳。

 日に焼ける体質ではないのか、白い肌。

 過去に負った傷跡を隠すため額当てを巻いているが、丸みを帯びた可愛らしい目尻や優し気な雰囲気から、そのいで立ちを見なければ剣士だとは思えない。

 二人は一年ほど前から組んだ旅の仲間だ。

 仲間集めの酒場にふらりと足を踏み入れた、新米剣士のスカーレット・ルミナベリー。

 彼女が酒場をぐるりと見まわした時、その店の奥で安酒をちびちびやっていたのが男のほうの剣士、パトリック・ラディだった。

 スカーレットと目が合った瞬間、パトリックは一瞬止まってグラスを落としそうになった。

 出会いの縁はそんなところから始まって、なんとなく話をするうちに打ち解けて、旅の仲間になった。

 お互いの人探しを協力しあうという契約でだ。


 スカーレットは、魔法使いから剣士に進路を変えるきっかけを作った憧れの人を探す旅。

 パトリックは、一目ぼれしてしまった当時少年だった魔法使いを探す旅。


「星が奇麗ですね、パトリックさん」

御守の紐を直す手を止め、スカーレットは木々の隙間から煌めく星空を見上げた。

 心地よさそうに時々目を閉じる。

「本当だ」

パトリックがつられて見上げ、のんびりと微笑む。

 二人はしばらくそのまま星を眺めていて、その内またどちらからともなく、火に目を戻した。

「この旅の道は、どこまで続くんでしょうねえ」

スカーレットがまた呟く。


 気づいている。

 本当は気づいている。

 酒場で喋った時から、お互いになんとなく、ものすごい事実に気がついている。

 森の中で剣士に助けられた過去を持つ、少年のようななりをした黒髪黒目の元魔法使いだった女性剣士と。

 森の中で助けた黒髪黒目の魔法学校の生徒に一目惚れした手練れの剣士と。

 本当は、かなりの勢いでお互いの正体に気が付いている。


「旅の道は」

パトリックも火を見ながら呟く。

「この旅の道はどこまでも、どこまででも。―――どっちかの探し人が見つかるまで、でしょう」

「―――そうですねえ」

ぱちぱち爆ぜる美しい熱を見つめながら、スカーレットは頷き微笑んだ。

 気がついているが、言ってはいけないと互いに感じている。

 求めていた人は目の前にいるけれど「あなただ」と言葉にしてしまえば、探してきたものは消えてしまう。

 もし気がついたら、この旅は終わってしまう。


 自分が憧れ恋した剣士が、同性を好きになる人だったこと。

 自分が一目惚れした少年が、実は女性だったこと。

 言ってはいけない。気がついてはいけない。

 性格が合うのか、ある意味気負わないからか、二人で続ける旅は不思議と居心地がよかった。

 もう少しだけこの状態でいたいから、今はまだ口にしてはいけない事なのだ。

 そして、並んで歩くために二人して何も言わないまま探し人の旅を続けてゆく。


 明日も明後日も。

 きっと来年も。

お読みいただきありがとうございます。

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