16 霧子郷 剣士崩れが語ること
【注意】
霧子郷編は暴力描写のほか、直接ではありませんが性暴力やいじめの描写があります。
苦手な方はご注意ください。次の編まで飛ばしてもそんなに支障はありません。
『なんか新しい魔物がちらっと出てきた』という感じで憶えていただければ大丈夫だと思います。
人生はなかなか思い描いたとおりにいかない。
俺は子供の頃から強い剣士になるのを夢見ていた。
でもその剣士になるというハードルがまず高かった。
自分で剣士と名乗ってしまえばその日から剣士だ、と現役の奴から言われたことがあったが、そんな不確かなものより俺はちゃんとした肩書が欲しかった。
だからそう名乗れそうな職業に就こうとしたが、いくつ受けても何年たっても、どこの土地に行っても何故か全部不採用だった。
そんなことが続いてずっと仕事が得られず、俺は乞食のようになっていった。
王都からも遠く離れた土地でいよいよ盗賊にでもなるべきかと真剣に考えていた時に、魔物討伐の募集があると聞いたのだ。
討伐隊にはすぐ採用された。
王都から派遣された隊長と名乗る人に参加の意思を伝えると、その場で入隊が決定した。
剣士学校を卒業してからこっち、騎士団や警備兵、自警団の採用試験を受けてはすべて落とされていた俺は躍りあがった。
今まで俺を落としてきた試験管達の目は節穴で、剣士を辞めて他の職を探せと言ってきた奴らも結局親切心などではなく俺を蹴落としたかっただけだったと確信できた。
身だしなみだとか礼儀だとか性根だとか、あいつらは最もらしい理由をつけて俺を不採用にしてきたが、結局俺の背がちっと低いってだけで見下したかっただけなんだ。
分かる人はちゃんと分かってくれる。
こんな俺にすぐに入隊許可を出したんだから。
隊長だという男は『自分が王都から任命された証だ』と言って印が押された書類を見せてきたが良く解らない。でも立派そうな印だった。
彼は俺が今まで試験会場で見てきたきびきびと気取った雰囲気の奴らとは違い、大雑把な感じの男だった。
採用された隊員には俺のように職にあぶれてぼろぼろに汚れた奴や、ならず者や元犯罪者のような奴らが多くいたが、隊長はみんなを上手くまとめた。
「俺はお奇麗な王都でこそ変わり者扱いされてたが、そのおかげでお偉いさんたちが嫌がる土地での仕事を任された。のびのびと生きるこっちのほうが性に合っているというもんだ。お前らといるほうが気が楽でいい」
とか、毎日言っている。
俺がこの隊に入ったのは運命だったんだ。
今はまだ下っ端の使い走りだが、毎日が楽しい。
多少羽目をはずしたって誰にもとがめられない。
女に悪戯するのだって日々戦う俺達の精神を静めるのに必要なことだ。
そうそう、女といえば、この隊に入ってから俺は女魔法使いとバディを組んだ。
こいつは隊の紅一点だが、誰も手を出そうとはしない。
仲間意識っていうより、手を出したい気分にならない。
たぶんほかの奴らも同じ気持ちだろう。
言い方が雑でいちいち偉そうだから正直相性は悪いと感じているが、意外な共通点があって暇な時の話題は尽きない。
俺には剣士の専学時代に気に入らない同級生がいた。
女魔法使いも、魔法学校時代に気に入らない同級生がいた。
そいつがどうやら同じ人物らしいのだ。
まったく傑作だ。
魔物討伐の骨休めにある温泉郷に宿をとってやってるのだが、時々村人たちが身の程をわきまえない時がある。
まあ、主に宿泊代や食事代や娯楽代についてだ。
討伐が終わったら王都から一括で払うと体長が説明しているのに、それを疑ったり拒否したりする輩がいる。
俺たちがいる宿の主人も疑ってこっそり王都に確認の手紙を出そうとしたものだから、そこの一人娘を使って思い知らせてやった。
ーーーあんとき俺は初めて女を抱いたんだ。しかも処女だぜ。いや、隊の上の奴らがヤッたあとのお下がりだから正確にはもう穴開きだったが、その女の初めての時に便乗したからギリまだ処女の範囲さ。ありゃたまんなかったね。
ちょっとした仕置きなのに娘は大げさに死にやがったが、宿の亭主は抜け殻みてえにいう事を聞くようになった。
それを見た村の他の奴らは表立って逆らわなくなった。
逆らわないってことは、嫌じゃないってことさ。
だから女将や、この村にいる娼婦や男娼や、たまに堅気の子でも誰でも、連れてきては遊んでやっていたんだ。
そんな逗留の日々を過ごす中、さっき仲間が逃げ帰ってきた。
目をつけていた蝶々を連れに行ったら他所から入ってきた旅人に邪魔されたらしい。
久しぶりの仕置きタイムってやつだ。仲間が隊長に報告している間に、俺と相棒は相手が逃げないよう足止め役としてその宿へ向かった。
そして。
「あれ?あんたスカーレットじゃねーのお?」
相棒の大きなダミ声に、俺は二人いる剣士の小さい方を見た。
ちょっと大人びた顔にはなっていたが、そいつはまさに俺たちの共通の話題、スカーレットだった。
相変わらず化粧けもない、愛想無しの生意気な顔だった………化粧けが無いのは相棒の魔法使いもそうだが。
「へ?どゆこと?マジで剣士で生きてるわけ?コイツが剣専で一緒だったって聞いたけど、そこじゃギリギリ卒業の底辺だったんだろ?」
相棒が俺を話題に巻き込みながら、盛大に鼻で笑った。
「あ。その男に守ってもらって一丁前に剣士ヅラしてるパターンかよ。しっかし、あんたでも自分のオンナ使うんだねー。っていうかよく使う気になるよな。はずくね?年取ったら通用しなくなるヤツだし、その作戦」
驚いたことにスカーレットはぐっと口を結んで俺達をきつく睨んだ。
学生時代は暴言を浴びせようが壁に押し付けて触ろうが、こんな反抗的な顔はしなかった。
相棒も同じことを感じたらしい。
はあ〜あ、とため息をついて呆れ笑を受かべる。
「ちょいちょいちょい、悪いように取らないでよね。本当のことだし、あんたのために言ってるし。久々に再会したよしみで忠告してんだぜ。まあ昔はあんたとは良い関係じゃなかったけど、魔学で秀才ってもてはやされてたコがそんな風になってんの見ちゃったら私でも驚くし。心配して言ってんのにその顔なわけ?っは。性格悪くなったんじゃねーの?」
久々に相棒は饒舌だ。懐かしい苛め相手に再会したんだからな。
日頃自分から「私はその辺のきゅるきゅるした女とかじゃねえから。よく男っぽいって言われるね」と得意げに言っているが、この攻撃的な物の言い方は典型的な意地悪女じゃねえか、と思うけど言わない。後で面倒だから。
男の剣士が鋭い目つきになって口をひらいた時、それを制したスカーレットがそいつの隣まで出てきて言った。
「どういう事か聞きたいのはこっちです。まさかお二人とも、あのならず者達の仲間なのですか?お二人の出身校はそれぞれ別ですが、どちらも魔法使いとして、剣士としての校訓と精神を学んだ筈ではありませんか」
校訓と精神!
俺と相棒は思わず噴き出した。
授業でうんざりするほど聞かされたがそれを守る奴なんかいるわけない。てかそういう事を堂々と言う人間、見てて恥ずかしい。
俺達に笑われているのに、スカーレットはひるまずにまっすぐ俺の相棒を見た。
「あなたが『強い女』であろうとしているのは当時から感じていました。でも、乱暴な男のように振る舞う女が強い女だというのは違います。乱暴な男のように振る舞う女が他の女より格上というのも違います。『男っぽい』にこだわってるあなたは、あなたが一番嫌う『男』に頼るタイプの『女』です。自覚していますか?」
相棒は馬鹿笑いを止めて「あぁ?」と不機嫌に聞き返した。
そこについては、俺は個人的にスカーレットに同意かも。面倒だから言わないけど。
「強い女も強い男も弱い者を弄ぶ奴の仲間にはなりません。ならず者の一味となって弱い者達を蹂躙しません。そうでしょう?卒業してからあなたがどんな風に生きてきたか私には分かりません。でも、私を憂さ晴らしの的にしたり森に置き去りにしてた学生時代の頃のほうが、今よりまだ何倍もマシだったわ!」
優等生の正論をぶつけられて相棒は怒り心頭のようだ。こめかみに青筋が立ってる。
地団太をふんで、てめえええええええ!とスカーレットに掴みかかる。
それをスカーレットはあっさりと後ろ手に押さえつけられた。
へえ、一応体術は上達したようだ。
俺はそれを見ながら、男の剣士に耳打ちした。
見たとこ結構腕利きのようだ。
仲間にできるならそれに越したことはない。
「お兄さん、あんたスカーレットを仲間にしてんのか。ああいや、俺は学生時代の同級生。だから分かるんだけどさ………正直、あれを連れてるのは戦力目的じゃないんだろ?」
剣士は険しい眉をなお寄せた。
まあ表立って言えない理由ならそういう顔にもなるだろう。
「こっちに来ればそれなりに相手には不自由しないぜ。スカーレットじゃ不足だろ?いや知ってる知ってるって。粗末な体だよな。あいつの体結構触ってやったから知ってるの。いやいやヤっちゃいないよ。稽古のさあ。ほらあ、稽古の延長で触っちゃうじゃない。『女剣士』なんだからそういう目にあうのはある程度当たり前だし、嫌なら自衛しないとさ。ま、触ったのは自衛の稽古も含めて仕方なしにってやつ?まあ、ああいう学校では弱肉強食っての?まあ俺たちに味見の最後までをされなかったのは単純に当時のあいつの魅力不足だけど。………で、お兄さんスカーレットどうだった?まだってことないよね。あいつ初めてだった?ま、あの鳥ガラみたいな体じゃあ処女でも逆にヤって損したようなもんだろ」
そこでだ!こっちに来ればもうちっとマシな相手を抱けるぜ。
そう続けようとしたら、次の瞬間俺はぶっ飛ばされてた。
剣士の目がやばいくらい吊り上がってごっつい拳が目の前に迫るとこまではスローモーションで見えたけど、そこから先は一瞬だった。
顔を横からぶん殴られて頭が首からちぎれたような気がしたし、その拳一発で体が宿の外に飛んで地面に転がった。
仰向けに倒れた俺の胸の上に、穴が開くような一撃が撃ち込まれボキボキとあばら骨が折れる音がした。
剣士が俺の胸を踏みつぶしたのだ。
ものすごく怒っているってことは分かった。
なんで?マジでなんで起こってる?鶏ガラ女を抱いた恥を、指摘されたく……なかった…とか………?
最後まで頭の中で疑問がぐるぐると回るが、腹の底から上がってきた大量の血を吐きながら俺の意識は途切れた。
私は下品で性格が悪いので、スカーレットの元クラスメイトの名前イメージは
男剣士はティンカッス・ソティンワラ
女魔法使いはユルゲリータ・モムリデール
です。
この名前を考えるのが一番楽しかった。
女魔法使いの姓の最後をデールにしようかデッタにしようかしばらく迷ってた。
あとがきにこれを書けるとこまで来れて嬉しい。




