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剣と魔法  作者: 珈琲(こひ)
14/20

14 常秋の古城 常秋の聖が語ること

ゆっくりと書いてゆきたいと思います。


よろしくお付き合いください。

 最近この国においてとある魔物の報告があがっております。

 どうやらそれは一匹で、今のところ他に仲間はいないようでした。

 古城の高い位置にある執務室から今日も見事な赤い葉の森を眺め、私は己の役職である常秋の聖を務めるために一日を始めます。

 自分の魔法と魔力が今日も淀みなく流れるか確認した後、王都からの知らせや、常秋の聖堂が受け持っている地域での出来事に目を通し………。

 あとは、そうですね。ほかの大聖堂の聖達への連絡事項などですね。

 我々聖達の中で一番の話題は、先に述べたとある魔物のことでしょうか。

 この国には大聖堂は五つあります。

 ここ、一年を通して秋のように赤い葉をつける木々の森が広がる、常秋(とこあき)の大聖堂。

 海から青い小花の原が小高い丘まで続く場所にある、花海原(はなのうなばら)の大聖堂。

 稲穂の広がる金色の丘にある、蜜朝(みつのあした)の大聖堂。

 一年中深い雪に包まれる、霧雪(きりゆき)の大聖堂。

 深い谷の底にあり一日のほとんどが夜のような、星音(ほしのね)の大聖堂。

 その魔物はここ数カ月のあいだに常秋と星音以外の場所で目撃されていました。

 はっきりとした姿を見たものはなく、どれも『翼のようなものが生えた人影が、空を飛んでいる姿を遠目に見た』というものでした。


『つっても飛んでるだけなんだよなあ』

『あら、蜜の。緊張感がないわね。王都から預かっている大事な民達がソイツに食い殺されでもしたらどうするつもり』

『花姉さま。物騒………』

『僕がいる谷底には魔物も嫌がって来ないのかね。ははは。みんな頑張ってね』


 まだ実態がつかめなさ過ぎて、簡単な会話ができる通信魔法を使っての情報交換でも、どの聖も雑談程度しかできません。

 ひとまず新たな情報が入り次第また連絡しあうと決めて通信を終えると、もう昼です。

 軽食を取り終えてから、私は一般公開されている聖堂の一階エリアへと降りました。

 これが、私の一日のだいたいの流れです。

 普通の衣服をまとい人々の中に紛れてしまえば、私はただのオジサンです。

 聖として一般の人々の前に姿を現す事はほとんどありません。

 式典で正装する日でも建物の奥で儀式を執り行うので、職員以外は私が聖であることは知りません。

 普通のオジサンの顔をした私は聖堂や商店街を歩き、様々な声を直に聞くのです。特に今日の議題にもなった魔物についての噂話も聞くことができるかもしれません。


 一階はここら一帯の土地神に祈りをささげる祭壇と、出入口付近には聖堂の公式な売店、案内係をしている職員達の詰所があります。

 その出入口から、一人の女性が足早に入ってきました、振り向き振り向きして外を気にしています。

 こわばった顔は少し青ざめていました。

「失礼。お嬢さん、どうなさいました」

声をかけると、剣士らしいその女性は私を見て一瞬ためらった後、

「案内係………ではなさそうな方にずっと声をかけられまして。今、連れが代わりに相手をしてくれているのです」

彼女の話を聞いて私はすぐにピンときました。

 地元の人間で、聖堂側の許可なく自主的に案内係を買って出ている者がいるのですが、きっとその人物でしょう。

 人への接し方や態度が悪く、止めるよう注意しても話が通じず、我々も少々手を焼いているのです。

 馴れ馴れしすぎではあるけれど、あれでも聖堂側の役に立とうとしてくれているので、目こぼししていたのですが………。

 女性は退魔の効果がある材料を抱えていました。

 どれも良い品です。なるほど。ベテランの魔法使い向きな材料を若い女性剣士が使おうとしていた事について、おおかた彼がしつこく口を出したのでしょう。

 全く思い上がりも良いところです。

 私はその女性に頼んで、彼がいる場所に連れて行ってもらいました。

 案の定、そこにいたのは自称案内係の彼です。彼は男性の剣士に何やら問い詰められていましたが、急にニヤッと笑って剣士の首からお守りを引きちぎりました。

「あっ」

女性が小さく悲鳴を上げます。

 この人が作ったお守りなのでしょう。何という事を。もう目こぼしはできません。

 と、私も思わず「うっ?」と唸りました。

 お守りを取られたとたん、剣士の頭上に黒い靄が浮かんだのです。

 女性は私の反応を見て強い魔力持ちだと知ったのでしょう、慌てて私に言いました。

「あの呪いはお守りで押さえていたのです!」

私は自称案内役の彼がお守りを地面に叩きつける前にお守りを奪い取り、剣士に渡しました。

 靄は未練そうに剣士の頭上を一回りした後、ゆっくりと消えてゆきました。

 私はこちらに気づいて駆けてきた職員に自称案内役を引き渡すと、周りに分からないように地下牢へ入れるよう指示しました。

 ここが城であった頃の名残です。あまり使いたいものではありませんが。

 それにしても、いやはや。この女の子はただの剣士ではありませんね。



 二人は今日のうちにこの古城から旅立つ予定だったそうなのですが、一晩こちらにとどまってもらうことにしました。

 男性のほう、パトリックにかけられた呪いを調べたいからです。それと、スカーレットとも話をしてみたく思いました。

 呪いを姿形として見ることができるのは魔力のレベルがかなり高い証拠です。

 パトリックの頭上に黒い霞が浮かんだあの時、呪いを目視できたのは私とスカーレットだけ。

 彼女ほどなら商店街で選んだ商品を問題なく扱い、効果も十二分に発揮できることでしょう。

 夕食を終えた後、食後のお茶がてら二人を私の執務室に招きます。

「まさかそんなに本格的な『呪い』が俺にかかっていたとは………スカーレットさんのお守りを付けてから色々楽になったとは感じていたんです。でも生来の運の悪さ的なもんを散らしてくれてるんだと思ってました」

パトリックは自分が呪われていた事実に少なからずショックを受けたようで、分かりやすく眉毛を八の字にしておりました。

 スカーレットは申し訳なさそうに頭を下げました。

「ごめんなさい。何かに呪われてますか?とはなかなか聞きづらくて………。戦うことを仕事にされていたから、誰かからそういう恨みを買うこともあるんだろうなと勝手に思ってしまっていました」

「いえ、普通呪われてるかなんて聞けませんよ。スカーレットさんに落ち度は全くありません」

慌ててパトリックが止めます。

 それにしても、とスカーレットは続けました。

「あの呪い、一見解読できそうな感じに見えるのですが、何だかとても絡まっていて………こう、複雑さが歪というか。剣士に進路を変えたとはいえ卒業までは気を抜かずに魔法を勉強していたつもりなのに、悔しいな………」

私も、あの靄を思い出し首を振ります。

「いや、あれはどれだけ勉強しても良く解らないでしょうね。違法な呪いを請け負う闇呪術者達だって、もっとまともでちゃんと形になったモノをかけてくるはずだ。あれはほぼ素人が作った、何万分の一くらいの確率でしか動かないガラクタのような物が最悪にも作動して、さらに最悪になことに暴走している状態、という感じですね」

私の言葉にパトリックがため息をついて顔を覆います。

 呪いの解読が困難な現状では、スカーレットが作るお守りが今のところ一番の手立てでしょう。

「―――大丈夫ですよパトリックさん。私お守りを作ります。ずっと作ります」

スカーレットは微笑み、隣に座るパトリックへ静かな声で落ち着かせるように言いました。

 パトリックは顔を覆ったまま、そのまま少しうつむいていましたが、小さく頷きます。

「―――ありがとう。うん………」

それから少しの間、部屋の中は沈黙に包まれました。

 ふと、私はパトリックが何かを吐きだしたいのではと気がつきました。

 呪いに関することでしょう。

 スカーレットも、なんとなくその空気に気がついたようでした。

 そっと彼の肩に軽く手を置き、私を見て軽く頭を下げました。

「私、今日は眠くなってきましたのでお先に失礼します。聖様、パトリックさん、また明日」

彼女が執務室を出てゆくと、パトリックはやがて顔から手を離しました。

 隠れていた表情は苦しそうでした。

「申し訳ないです。彼女には個人的に聞いてほしくなくて」

それから彼は目を閉じ、ゆっくりと息を吐いたあと続けました。

「………呪いの主について思い当たることがあります。確かにあの娘ならやりそうだ。………ずっと俺に起こっていた出来事は呪いだったのですね。あれが原因で、俺は騎士団を辞めることに」

「―――お辛いことでしたね」

「知った今は、とても腹立たしい。………でも、手立てがお守りだけと聞いて、これからもスカーレットさんといられる理由ができたと思ってしまった自分もいるのです」

私は、はて?と思いました。

「二人は望んで一緒にいるのではないのですか?」

パトリックは少し困惑したように微笑みました。

 そうして、彼は少し迷った後、丁寧に言葉を選び選び、自分と自分たちのことを話し始めました。


 自分はどちらかというと同性に恋する体質であること。

 スカーレットと共に人探しの協力をしながら一緒に旅をしていること。

 でも本当は、もうお互いの探し人の見当はついていること。

 ―――自分の体質がこうでありながら、スカーレットと共に歩く罪悪感のこと。

 先日訪れた常秋の街できちんとした身なりになったスカーレットを見て、一人の女性の人生を縛っているのではと改めて思ったこと。


「だけど、俺はこれからも一緒にいたいのです。それは八つも下の女性の人生を縛ることになるのに。俺と離れれば別の誰かと出会って結婚して、子をなすこともできると分かっているのに………俺はスカーレットさんと一緒にいたいのです」

パトリックの言葉の最後は、少しだけ震えていました。

 想っているのならもうそれで良いのでは、と私は思うのですが、彼がこれまで歩んできた人生を知らない私が簡単に口にしていい言葉なのか………。

 普通に聞いていればこんなにも真っ正直に愛の告白をしているだけなのに、この言葉を絞り出す彼の苦悩はどれほどなのでしょう。

「忘れてはいけないのは、あなたの憶測で彼女の気持ちを決めてはならないということです。彼女はあなたに縛られていると感じているのでしょうか。家庭を持ち子供を産みたいと思っているのでしょうか。女性だからきっとそう思うはず、と型にはめてはいけない」

私の言葉にパトリックは頷きましたが、彼のなかでの葛藤はまだまだ続くのでしょう。

「蜜朝の大聖堂に行ったことは?」

そう尋ねると、パトリックは首を振りました。

「いいえ。そちらに足を延ばしたことはまだ………魔法医療院や魔力の調整所などの施設があると聞いたことはありますが」

「ええ。大聖堂周辺には魔法に特化した施設が多く建てられています。もし寄る予定があるのなら、蜜朝の聖を訪ねてみると良いでしょう。………彼は聖になる前は医療院で、心の内面に関わる医師をしていたのです。いえ、貴方の心や体質をどうこうするという話ではありません。彼なら私より専門的に、様々な方向からの助言ができることでしょう」

私は蜜朝の聖への紹介状を書き、パトリックに持たせました。


 翌朝、スカーレットから新しいお守りを受け取ったパトリックは明るい顔に戻っておりました。

 本当はまだ深い悩みの中にいるのでしょうが、彼女の前ではそんな表情を見せたくないのでしょう。

 呪いについて王都に報告する文書の作成に協力してくれたあと、二人は古城を旅立ってゆきました。

 この先彼らがそれぞれどんな旅の道を選ぶのかは分かりません。

 私は………私としては、二人が並んでゆくその姿をずっと見ていたいと、そう思いました。

 

元同僚「どもども俺俺、パトリックの元同僚だよ。知り合いだった双子の旅人(弟)から常秋の街でパトリックに会ったって手紙が届いたのでこれから常秋の街に戻る予定。古城にはめんどくさい案内役がいてクッソうざかったので素通りするつもり。じゃあまたー」


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


お読みいただきありがとうございます。

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