パトリックの元同僚が語ること 後編
元同僚「俺の語り長くてほんとごめんねえ!」
パトリックの元同僚が語ること 後編
『パトリックさんがこの先ずっと人から愛されず嫌われ憎まれ邪魔にされ、惨めに他人の愛にすがりますように。そして一生独りの恥ずかしい人生を送りますように。そう願いを込めました。私は屈辱を受けたんですから、それくらいしてもいいと思います』
取り調べの時に呪いの内容について問われ、娘は脹れた顔でそう答えたという。
うっわぁ。言いそう。
認めたくないが、呪いの効果には思い当たることがある。
娘が俺達の前から姿を消してまもなく、パトリックが変に惚れっぽくなったり、あいつの身の回りで小さな諍いがおこるようになった。
それは娘が供述した呪いをかけた時期に、ちょうど重なるのだ。
さて娘に対する今後の取り扱いは然るべき機関が決めるとして、俺たちが気になるのはパトリックにかけられた呪いの現在の状況だ。
パトリックに一度目の呪いをかけてから数年後。
娘は、望まない縁談が決まった日に、
『学園で爪弾きにされたのも、退学しなければならなかったのも、傷心で婚期が遅れたのも、年の離れた男の後妻にされるのも、全ては思いあがったパトリックさんが私を拒否したせい』
と逆恨みが再燃し二度目の呪いをかけようとした。
ところがその呪いが跳ね返ってきた。
―――ここで辞めずに何度も呪いをかけたことで、身代わりの使用人達がどんどん発狂して事態が発覚したんだが………。
つまり二度目の呪いはパトリックにかかってない。
とはいえ魔導士団長によると、娘の呪いは発動したのが奇跡なくらいに我流すぎて王都の魔導士でもまだ解除法を見つけられておらず、娘本人も呪う方法は編み出したが解除方法は全く考えていなかったとのこと。どうしょもねえな。
てことは一度目の呪いはまだかかったままの可能性は高い。
誰かに指摘されたり自分で気づいたりなどして、どこか旅先の国や街の施設で祓ったっていう可能性は低い。
もし依頼していたら、担当した施設から王都に緊急事案として報告があがってくるはずだからだ。
ただ、もしかしたらパトリックの状況は落ち着いているかもしれないとも、魔導士団長は言っていた。
二度目以降の呪いが跳ね返ってくるという事は、パトリックがそんじょそこらの防具屋では扱ってないバカ強い効き目の御守か護符を身に着けているか、バカ強い魔法使いがパトリックを守護している可能性が高いそうだ。
通常の防具屋で買える御守は持ち主の身を数回護る程度で、跳ね返しまでの効力は無い。
呪いを跳ね返すほど強い力だから、すでにかけられている呪いも抑えつけているかもしれない。
魔力の強い誰かが個人的にパトリックにそういった防具を拵えた可能性もある。
どれであれ、良い方向であってほしい。
身のまわりがゴタゴタしていた頃、あいつは自分に戸惑い落ち込み、隊に迷惑がかかると退団願を出した。
団長はひとまず届けを机にしまい、困った時に使えと隊員の証しである紋章を持たせた。
そして、本人に内緒でいつでも戻れるように退団ではなく休職扱いにした。
それは当時の全団員が、パトリックの変化に納得していなかったからだ。
パトリックは俺たちの主戦力で、誰からも好かれる気持ちのよい奴だった。
あいつの恋愛趣向は俺たちとは少し違ったけど、ただそれだけのことで、人に対しても仕事に対しても忠実だった。
一部の性格が悪い人間が、このタイプの人達を『同性愛者は身の回りの同性を手当たり次第に性愛の対象にする』と揶揄して嘲笑や毛嫌いをするが、けしてそんなことはない。
手当たり次第にだらしがないのは性別ではなくそいつの人間性ってことだ。
パトリックを見ていたらわかる。
あいつは、人にすがりたくなる呪いの中にいても、そうならないために俺達とこの王都から離れていったのだ。
野外市場に、もうパトリックはいなかった。
だけど市場で店を出している女性に詳しい話を聞いた。
あいつは元気だって。
すごく元気そうだって。
あと、一人じゃないって。俺、聞き直しちゃった。一人じゃないんだって。
なぜか剣士の格好をした、かなり腕のいい魔法使いの女の子と一緒に旅をしていたって。
すごくすごく仲が良さそうだって。
ゴタゴタしていなくて険悪にもなってなくて、楽しそうだったって。
ありがとう、知らない魔法使いの人!
めっちゃありがとう!ありがとう!
たぶんきっと、あなたがパトリックを守っているんだな。
あなたがパトリックとどういう間柄なのかはわからないけど、本当に、全力でありがとう。
俺は急いで団長と仲間達宛てに手紙を書いた。
『パトリックとは行き違いとなり会うことができず。
当時居合せた市場の者より、スカーレットと名乗る魔法使いの女性と共に行動している情報を入手。
市場の者達の推測ではおそらく上級の魔法使いであるとのこと。
行き先は不明であるが、二人が秋の古城島方向への道を進んだとの目撃情報多数。
引き続き情報を入手次第連絡いたします』
「嬉しそうね。よかったわね。お客さんが二人に会えますよう、幸運がありますように!」
情報をくれた市場の姐さんが明るく言った。
俺は笑顔で頷き、進む先を見た。
常秋の赤い森。
古城が浮かぶ深い秋色に囲まれた湖の街に。
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