41. デリオンはどこに
しかし、その後、世界中に流行病が広がった。エドガーは救急病院から緊急招集を受け、家に帰れない日々が続いていた。
その病は近年まれにみる猛威を振るい、毎日、世界中で何千、何万という人が命を落とした。
ある夜の三時頃、病院に運ばれてきた患者の中に、見覚えのある顔があった。
それは、デリオンの高校の教師だった。
彼はすでに息絶えており、すぐに納体袋に入れられて、霊安室に運ばれることになった。
でも、いやな予感がしたエドガーは、納体袋を開けて、もう一度確認した。衣服の下には、いくつもの殴打の痕が残っていた。
「どうして殴られた痕が……もしかして」
エドガーが急いでアパートに戻ると、デリオンの姿はどこにもなかった。
テレビのニュースは流行病の話題で持ちきりだ。
死亡者は年配者や基礎疾患のある者が多いが、ある私立高校では生徒が八人も死亡したと報じられていた。
「あれは、デリオンの高校だ」
エドガーは教師の死因を詳しく調べるため、資料を取り寄せた。
教師が死んだのはソーホー地区、真夜中だった。
ソーホーはエンターテインメント地区として知られ、オールド・コンプトン・ストリート周辺はLGBTQ+コミュニティの中心地としても有名で、昼は賑やかで楽しいが、夜は危険な印象がある。
数日後、エドガーは現場を確かめるため、ソーホーへ足を運んだ。
細い石畳の路地が迷路のように入り組み、赤や紫のネオンが雨で濡れた石畳に反射している。オールド・コンプトン・ストリートを抜け、わずかな人影しかいない裏通りに足を踏み入れる。酔った男たちがたむろし、誰も信用できない視線を投げかけてくる。近くでガラスが割れる音がして、思わず身をすくめた。
この路地で、あの教師が死んだのだ。現場にはまだ封鎖テープが残っていた。
エドガーは、教師が常連だったという「フレンズ」という店へ向かった。
小さな看板が闇の中でぼんやりと光っていた。扉を押し開けると、古びた木製カウンターと、壁一面に貼られたポスター、薄暗い室内で回るミラーボールが、小さな星々の光を床や天井に散らしていた。
客たちがささやきながらエドガーを見つめる。カウンターに座ると、バーテンダーはすぐにただの飲みに来た客ではないと見抜いた。
「どういう用事でやって来たのか」
「知人が死んだので、調べている」
「三日前のあいつだな。高校の教師か。仲間か」
「仲間ではない。彼はここによく来ていたのか?」
「そうだ。変態的嗜好者だから、あいつが死んでも悲しむ者はいない。犯人の目星はついているが、少年のことを、あんたに教えるつもりはない」
「やったのは、少年なのか」
「知らない」
「ひとつだけ教えてほしい。彼の髪の色は何色だ」
「茶色だ。それが、どうした」
「それが聞けてよかった。何でもいいから、この店で一番高いコニャックをくれ」
「わかりました。お客さん、誰かを捜しているのですか」
エドガーはポケットから、リオンの写真を取り出した。
「美しい子だな。あの教師の好みの顔だ。でも、ここに来たことはない」
「それはよかった」
「お客さんの、あれですか」
「いいや、弟だよ」
「失礼しました。でも、こんな商売をして長いですから、お客さんの表情を見て、ただの弟ではない。何かありそうだとわかります」
「ただの弟ではないですよ。大切な弟です」
「そうでしょう、そうでしょう。今夜のドリンクは、店のおごりです」
「では、こちらもひとつだけ教えよう。私は医師なのだが、流行病の拡大が激しい。もうすぐ営業もできなくなる。準備したほうがいい」
「じゃ、こちらも、もうひとつ。その少年はネルソンと言って、教師がしつこくつきまとっていたが、ネルソンはいやがっていたんだ。羊だって、最後には、狼に噛みつくさ。誰にも、言うなよ」
教師の死がデリオンと関係ないことがわかり、エドガーは胸を撫でおろした。
しかし、デリオンの行方は依然として不明だ。
*
エドガーはデリオンを探すために、仲間に助けを求めるも、現場は混乱しており、誰も手を貸せない状態だった。
父のレタナトスと弟のモルティマがやって来て、ロンドン中を探し回ったけれど、見つけられなかった。心配と不安でレタナトスは体調を崩し、モルティマがプラハに連れ帰った。
その頃、ベルダは法医解剖医リギルガルド・ハイドから話を聞いた。プラハでは流行病での死亡者が増え、先週だけで子供二十人が命を落としていた。
ベルダはエドガーに電話をかけ、ロンドンでは死者が減っているが、プラハでは増えていることを告げた。
「もしかして、デリオンがプラハに戻ったのだろうか。子供たちの死因を詳しく調べてほしい。身体に噛み傷や殴られた痕がないかも」
「わかったわ。リギルガルドに確認してみる」
病院の廊下で、電話を切ったエドガーの目の前を、新たな担架が運び込まれていった。




