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28. エドガーと第三王子

白い布がぱらりと落ち、埃が空を漂い、幸せそうな国王一家の肖像画が現れた。

国王、王妃、長男、次男、そして王妃が抱く銀髪の美しい赤ん坊。


「誰だか分かるかい」

エドガーが赤ん坊を指さした。


「その髪は、もしかして……弟のデリオンさん?」


「そうだよ。十二年前、生まれたばかりのデリオンだよ」

「デリオンはプリンスだと言っていたけれど、本当なのね」


「そうなんだ。ぼくは父が重傷を負ったと知らされた時、ロンドンにいたんだけど、知らせを聞いて飛んできた。第二王子によるこの惨事は外部には極秘とされ、国王一家の亡骸は、内部の者だけで弔われた」


「デリオンさんも、殺されたの?」

「そうなんだ。死んで埋葬されたんだ」


しかし、その夜、エドガーが墓場を歩いていると、地下から赤ん坊の泣き声が聞こえた。


彼はすぐに土を掘り起こし、小さな石棺の鉄の封印を叩き割ると、中には月光に照らされた真っ白な裸の赤ちゃんがいた。


彼は死んではおらず、石棺の中で目を覚ましていた。

石棺の中は暑すぎたのか、衣服を脱ぎ、汗をかきながら泣き叫んでいたのだった。


「デリオンはお腹を空かせて泣いていたから、すぐにぼくは自分の血を吸わせて、シャツを脱いで着せ、この胸にしっかりと抱いて家に連れて帰った。その時から、ぼくたちの間には特別な絆が生まれたんだ」


父親は危篤状態にあったが、デリオンが奇跡的に生きていたことを知ると、生き返った。

王家を継ぐ王子が生きていたことに歓喜し、彼をフィルモア家で引き取り、成人になるまでは大切に育てようと考えた。


父の願いは、デリオンが正常に成長し、ドルハースラフナ王国の新王となり、王国を復活させることだった。


しかし、デリオンが十歳を過ぎてから見せる突拍子もない奇行には、不吉な兆候を感じざるを得なかった。


王家の莫大な財産は王国財産管理委員会が管理しており、父がその委員長を務めている。

委員会予算のほとんどは血液や遺伝の研究に使われ、デリオンを正常に戻す努力が続けられていた。ベルダもその研究者のひとりだ。


「普段のデリオンはあんなにいい子なのに、あの血のせいで、本人も周囲も苦しまなければならないんだ」


「研究は進んでいるの?」

「時間がないから、急いでミュンヘンに先端血液学の特別研究所を建設中なんだ。だからベルダは、その打ち合わせでここによく来るんだ」


「ベルダさんが、私の血がほしいとおっしゃったけど、お役に立つなら、いくらでも差し上げます」

「あれは冗談だよ」


「エドガーさん、『神の手』で、どうにかならないんですか」

「ぼくは外科医だからDNAは変えられない。でも研究は続けている。弟のため、自分のために、なにかできるかもしれないから」

「がんばってください」


「うん。それでは、ランチにでも行こうか」

「私、全く食べる気がしません」


「ルネはいつもお腹を空かせているのに、今日は違うんだね」

「こんな話を聞いた後ですもの。私だって……」


「私だって、人間です」と言いかけて、それはここでは言うべきではないと、言葉を止めた。


「そうだけどね。でも食べなくてどうする? 戦わずに試合をギブアップするようなものだよ。こんな時こそ平常心でいるべきなんだ。さぁ、まずランチだ」


ルネが立ち上がり、スカートの裾についた埃を払った。

「はい、そうですね。では、おいしいところへ連れて行ってください」

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