表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

17/54

17. 会いたかった人

エドガーが、流音の髪をかき分けて首の横を見ると、赤く腫れた部分があった。


そこはあの腕の手術の際に、彼が噛みつき、吸血した箇所だった。


彼はそこに口をあて、血を吸い、洗面所に行って吐き出した。

それを三度、繰り返した。


ああ、この赤黒い血は、自分の臭いがする。


あの手術の時、噛みついたことで自分の血が混じり、彼女が吸血鬼化してしまったのかもしれない。


「かわいそうなことをしてしまった。すぐに治してやるから」


エドガーは炎症部分を消毒し、そこに手を重ねた。


「ぼくの血がルネに黒ミサを選ばせてしまったのだとしたら、なんて悪いことをしてしまったんだろう」


彼は流音の額に手を当てた。

「ぼくのせいで、きみに狂乱の体験をさせてしまったのか。燃え尽きるほどの演奏をさせてしまったのか。ああ、なんてかわいそうなことをしてしまったのだ……」


ううっと、彼が嗚咽した。


彼が涙を流したのは、生まれて初めてだった。

泣くと声が出るということも、そのとき初めて知った。


「ルネ、目を覚ますんだ」


しばらくすると、流音が目をあけた。

肌に色が戻り、きょとんとした瞳をしている。


「あ、エドガーさんがいる」


「気がついたのかい。よかった」


「ここはどこ?」

「プラハのピアノコンクールの会場だよ。ルネの二次の演奏が終わったところだよ」


「エドガーさんが本当に来てくれたのですね。ありがとうございます」

「遅れてしまって、申し訳ない」


「私、うまく弾けていましたか?」

「とてもうまく弾けたよ。ショパンのはずが黒ミサに変更になっていたから、驚いた」


「そうなの。変えたのよね、私。でも、不思議なのだけれど、よく覚えていないの」

「ルネはこれ以上できないほどがんばった。よくやったね」


エドガーが流音を愛しそうに抱きしめた。


「ありがとう。エドガーさんに会えたからかしら。なにか、とても気分がいいの。ずっと首が痛かったのだけれど、もう痛くない」

と流音が首を振って、肩を上下した。


「エドガーさん、あなたが治してくれたのですか?」

「そうだよ」


「さすが神の手をもつお医者さまです。また助けられて、私って、なんてラッキーなの。私ね、エドガーさんにとても会いたかったのよ。どのくらい会いたかったか、想像できないでしょうね」


「ぼくも、会いたかった」


「私、どうしちゃったのかしら。こんなこと言ったのも、言われたのも初めてです」

流音が頬を赤くして、両手で頬を押さえた。


「でも、エドガーさんはいつも言われているのではないかと思いますけど。だって、こんなにすてきですし、人を助けるお医者さまですもの」


「言われてないですよ」


「本当ですか。エドガーさん、ところで、もうひとつ大きな問題があります」


「何ですか」


「私、お腹がぺこぺこです。この二日、食べた記憶がないのよ。ねっ、どこかでおいしいものを食べさせてください」


やれやれ、よかった。

先ほどまで気を失っていた人の言葉とは思えない、とエドガーはほっとして、苦笑を漏らした。


「よいですよ。ここではおいしいレストランを知っていますから、行きましょう」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ