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Beyond the Record  作者: しおん
『サル=ヴァリド』
8/29

夕暮れの空に、二つの月が浮かんでいた。

 赤く滲む方が少しだけ低く、青白い方がじっと見下ろしているように見える。


 「ここが転移者の集会所だ。この時間なら誰かいるだろう。」


 カリムが指差したのは、街の外れにある石造りの建物だった。

 見た目は地味だが、扉の上には“for offspring of star”と刻まれたプレートが掲げられている。


 「集会所って、なんかもっと……これこじんまりした宿みたいだなー。あ、英語だ!んー…わからん。」


「星の落とし子へって書いてんだよ。実際あの星なんなんですかね?カリムさん」


 「ここはあくまで“居場所”だ。転移者が集まって情報交換したり、飯食ったり、仕事の相談したりする場所。お前も顔を出しておけ。仲間がいるってのは、心強いもんだ。

あと陸翔、あの星についてはわかってないことが多い、わかっているのは送られてきた者達は例外なくスキルを使えることくらいだな。」


 悠真は頷き、扉を押した。


 中は広めのホールになっていて、木製のテーブルがいくつも並んでいた。

 夕食の時間らしく、数人の男女が食事を囲んで談笑している。

 年齢も服装もバラバラ。中には異世界の装備を着こなしている者もいれば、ジャージ姿のままの者もいる。


 「お、カリムさん?こないだの星の子ですか?」


 「あぁ、オレから教えるより同じ転移者からの説明の方がわかることも多いと思ってな。レイ、悪いが時間作ってやってくれ。」


「もちろん!みんなもいいだろ?

 声をかけてきたのは、金髪ドレッドの青年だった。

 片耳にピアス、異世界風のジャケットをラフに羽織っている。

 テーブルには彼を含めて3人が座っていた。男女2人ずつ。どこか“パーティ”っぽい雰囲気がある。


 「俺はレイ。転移者歴、半年。んでこいつらは中国人がウンランで女の子がミナ。パーティ組んで、ギルドの依頼とか古代遺跡の探索とかしてる。お前、昨日落ちてきたってやつか?」


 「うん。おれ蒼月悠真。よろしくっす」

 「神原陸翔です。よろしく。」


 「よし、じゃあまずは飯食いながら話そうぜ。腹減ってるだろ?」


 「めちゃくちゃ」


 レイが厨房に声をかけると、すぐに焼き餅とスープが運ばれてきた。

 悠真は席に着き、湯気の立つ料理に目を輝かせる。


 「あれ?この焼き餅?さっきも食ったけど……やっぱうまいな。ビールはこっちにはないんすか??」


 「年も変わらないだろうしこっちでは敬語なんてよほどの格上じゃなきゃ平気だから普通に話せよ。

スルク獣の肩肉な。タンパク質多めで、冒険者向けって感じだな。ビールもあるけど話し終わった後な。」


 「うーっす。冒険者か……かっこいいな」



 「とりあえず書きながら説明するか。」


 そういってレイはどこからかホワイトボードのようなものを取り出す。


 「これ魔導板な。ホワイトボードみたいなもんだ。俺らはギルドに登録してて、依頼受けて生活してる。遺跡探索、魔物討伐、護衛任務、いろいろあるぞ」


 「ギルドって、誰でも入れるの?」


 「転移者は歓迎される。特に複合色持ちはな。悠真、まだスキルはないの?」


 「ない。っていうか、どうやって使えるの?」


 「うーん、こうやるとっていうのはあんまないんだよな。強いて言えばスキル鑑定のスキル使えば固定されるみたいだけど。そのスキル自体がレアだしバカ高い。しかも一般的に自然に発現した方が強いって言われてるからなー。ちなみに人にしか発現しない。亜人も人に近いけど出ないらしい。ウンランは確か初めてモンスター見て、めちゃビビって発現したよな?そのスキルが発現すると、体のどこかに紋章が浮かぶ。色で系統がわかるんだ」


 「先輩の威厳なくなるようなこと言わないでくれよー。」


 「わりぃ、つい、な。感情の発露って言われてるけど、どんな感情で発現するのかオレらはわからねぇな。ウンラン は怖いだとかそんな感じだからわかりやすいけどな。まぁウンランに限らずやっぱ異世界来たらどんな形であれ感情の波は普段より上がるから早いうちに目覚める奴が多いよ、実際。」


 「うっさいなー。レイの説明に付け加えると赤は攻撃、青は防御、黄は超能力、白は補助、黒は特殊系。これが基本5色。で、複合色ってのがあって、紫とか銀とか。転移者は複合色持ちが多い。だから色んな国や街も転移者を積極的に集めてるみたいだよ。」


 「複合色って、レアなんだ?」


 「レアだし、デメリットもある。複合色持ちはインプリントって現象が起きやすい。スキル使った時に、周囲の人間に記憶の断片が流れ込む。感情とか映像とか、直接脳に入ってくるんだ」


 「……それ、怖くない?」


 「怖いってゆーか隠したい過去がある奴ならいやだろーな。オレはそんな気にしてないけど。記憶と感情がスキルの柱なんだろーな。あと発現したら紋章は隠した方がいいぞ。見られると、系統がバレるからな」


 「レイさんはその腕のサポーターのとこか。はっ、もしかして! ……平常通りのマイサンしかいなかった。」

 

 「発現したら気づいてるはずだからねー、ないない」

 

 「まだ使ってないマイサンに異変があったらどうしようかと。ウンランさん目覚めた時どんな感じだったん?」


 「紋章が出たところが熱くなって、スキルの使い方が流れ込んできたよ。みんな大体そんな感じみたいだけど。」


 「へぇ、じゃあまだ覚えてないってことかー。そーいやこの世界って国とか街はどうなってるの?」


 「オレらも他に行ったことないからあんま詳しくは知らないけど旅してる転移者から聞いてる感じRPGみたいに街や国の間は道があったり無かったりみたいだな。宗教国家、無法都市、亜人集落、空中都市、記憶研究都市、妖精の里――あぶねーとこもあれば平和なとこもあるみたいだな。サル=ヴァリドは交易都市だし割と平和だよ。なきゃ困る奴いるからな。」


街まで間が空いてるのか、モンスターもいるししょうがないのかな。移動にも足が必要かー。車あるんかね?旅してる転移者もいるって言ってるしどうにかなるか。

情報が多過ぎて整理しないとわからなくなりそう。つーかさっきから陸翔喋ってない?つーかいねーし。


 「あれ?陸翔は?」


 「あれ?さっきまでいなかった?トイレじゃね?」


 「呼んだ?ビールいただきますっ。他にも転移者っている?」


 「おい……よく見つけてきたな。初見であれ冷蔵庫だってわかる奴初めて見たよ…。いるよ。今この街にいるのは十数人。中にはスキル覚醒して、街の守護隊に入ってるやつもいるし、医療施設で働いてるやつもいる」


 「陸翔ー、おれのは??医療施設ってことは僧侶みたいな回復スキルとかあるんだ?」


 「ある。ヒール系な。レアだし優遇されるよ。水色は回復・浄化・精神安定。転移者の中に一人いる。リオって女の子だ。優しいけど、芯が強い」


 「ねぇ、陸翔!おれの「ねーよ!」クソ!やっぱ僧侶いるとパーティの安定感違うもんね。」


 「街にいりゃそのうち会えるさ。お前もスキルが目覚めれば、こっちの世界での立ち位置が変わる。今はまだ星が産んだ卵ってとこだな。もうこんな時間か。明日もはえーし寝るべ。まだ通貨とかはいろいろあるけど明日オレらのギルド依頼連れてってやるからその後な。まだ部屋余ってるしお前らもここに泊まるんだろ?」


 「ですかね?空いてる部屋使っていいの?」

 

 「看板みたろ?星の落とし子達へっ英語で書いてあるやつ。」

 「あー、英語読めなかった……」


 悠真は、窓の外に目を向けた。

 空には、二つの月が浮かんでいる。


 「……陸翔、ビールよこせ。」


 「仕方ねーな。オラ」


 はぁ、1日長かったからやっぱこれだよな。明日はギルドでも行ってみるかなー。マジでRPGだな。皮の鎧とかつけるんかな。


 「部屋どこだろ?陸翔も一緒かよ。」


 「こっちの台詞だ。今日くらいいびきかかずに寝てくれ。」


 この世界で、自分は何者になるのか。

 その答えは、まだ見えない。

 こうして悠真達は長い長い1日目を終えた。

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