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Beyond the Record  作者: しおん
プロローグ
3/29

プロローグ3

天渡市の夜は、今日も静かだった。

高層ビルのネオンが遠くに滲み、街の喧騒はここまで届かない。

展望台の空気は澄んでいて、風が静かに吹いていた。

この街は、昼間は騒がしい。人も車も、情報も音も、すべてがせわしなく流れていく。

けれど夜になると、まるで誰かが音量を絞ったように、静けさが街を包み込む。


蒼月悠真と神原陸翔は、仕事を終えて展望台に向かっていた。

昨日、一昨日と続けて見た“異常な光”が、今日も現れるかもしれない。

ふたりは言葉少なに歩いていた。

街灯の下を通るたびに、影が伸びては縮んだ。

足音だけが、夜の空気を切っていた。


「なあ、陸翔。俺たち、なんか変じゃないか?」


「……昨日から、空が違う」


「だよな。星が、こっち見てる気がする」


「見られてる、というより……選ばれてるのかもな」


「え?」


陸翔の言葉に、悠真は眉をひそめた。

彼は冗談を言うタイプではない。だからこそ、その言葉が妙に引っかかった。


展望台には、数人の人影があった。

誰もが空を見上げていたが、ふたりのような違和感を抱いている者はいないようだった。

カップル、年配の男性、スマホを構える若者。

それぞれが、それぞれの理由で星を見ていた。


悠真はベンチに腰を下ろし、空を見上げた。

星が、静かに瞬いている。

その中に、昨日と同じ“まっすぐな光”が現れた。


「……来た」


陸翔が呟いた。


光は、流れ星のように見えた。

けれど、軌道が違う。

それは、地上に向かって一直線に降りてくる。


「なあ、陸翔。俺、昨日の夢の続き見たんだ」


「空に飲まれるやつか」


「そう。今度は、お前もいた」


「……俺もか」


「で、俺たち、星の中にいた。意味わかんねえけど、なんか懐かしかった」


陸翔は何も言わず、空を見上げ続けた。

彼の瞳は、星の光を反射していた。


光が、ふたりの頭上に差し掛かった瞬間――

空気が、変わった。


風が止み、音が消えた。

展望台の周囲が、まるで時間を止められたように静まり返る。

スマホのシャッター音も、話し声も、すべてが消えた。


悠真の胸が、強く脈打った。

陸翔も、眉をひそめていた。


「……これ、ヤバいな」


「逃げられない」


「俺、バカだけど、こういうのはわかる。これ、運命ってやつだ」


「……ああ、ようやくだ」


「え?」


光が、ふたりを包み込んだ。

視界が白く染まり、重力が消えたような感覚が襲う。


悠真は、陸翔の姿を探した。

隣にいるはずの彼が、ぼやけていく。


「陸翔……!」


「大丈夫だ。俺もいく」


その声を最後に、世界が――反転した。


---


空が、裏返った。

星々が軌道を変え、光が螺旋を描く。

ふたりは、空の中にいた。


悠真は、足元がないことに気づいた。

浮いている。けれど、落ちているようでもあった。


陸翔は、悠真の隣にいた。

彼は何も言わず、ただ拳を握っていた。


「ここ……どこだよ」


「知るか、バカ」


「だよな。なんで空飛んでんだ?」


「星って人攫いするらしいぞ」


「んなわけあるかよ…」


陸翔は、悠真の方を見た。


「これが行方不明者が多い理由みたいだな?」


「……わかんねえ。でも、そうなんだろうな…」


ふたりの周囲に、光の粒が集まってきた。

それは星の欠片のようで、記憶の断片のようでもあった。


悠真は、その光に触れた。

一瞬、誰かの声が聞こえた。


「……まだ終わってない」


「誰だ……?」


陸翔も、同じ声を聞いていた。

だが、彼はその声に覚えがあった。


「……アキラ……?」


その名前が、空気を震わせた。


悠真は、陸翔の顔を見た。

彼の瞳が、揺れていた。


「陸翔……お前、何か知ってるのか?」


「いや……なんでもない」


「もしかして隠してた彼女とかかっ!?」


「いねーよ。でも今はそれより――」


周りの音が大きくなり、虚空に陸翔の言葉が溶ける。


「うるせぇ……なんか言った?」


陸翔は彼の言葉に何も返さなかった。

ただ、隣に立った。


光が収束し、空が閉じていく。

ふたりの体が、再び重力に引かれ始める。


「え?なに?元に戻るの!?」


「うるせぇ、黙ってみとけ」


「……何が起こってるんだろ?」


「わからない。でも、俺たちは選ばれたみたいだ」


「選ばれたって、何に?」


「多分…この世界に」


視界が白から青に変わる。

風が戻り、音が戻る。


ふたりは、別の場所に立っていた。


空は広く、地面は異質だった。

天渡市ではない。

ここは、砂漠だった……



そして、天渡市にまた2人の行方不明者が追加された。


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