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Beyond the Record  作者: しおん
『サル=ヴァリド』
28/29

25.

砂漠の風が張り詰めた空気を運んでくる。

地平線の向こうで、ざわめきのような低い唸りが重なり合っていた。無数の足音。牙の擦れ合う音。

それがやがて、黒い影となって揺らめき始める。


「……来るぞ」


誰かがつぶやいた瞬間、張り詰めた空気が爆ぜた。


最初に地を蹴ったのは、牙をむき出しにしたロックハウンドの群れだった。乾いた砂を蹴散らしながら、獲物を求めるように一直線に突っ込んでくる。その背後には、筋肉の塊のようなスレイヴ・モール、鎧をまとった巨獣ヴォルグレム――そしてさらに遠く、夜明け前の闇を背負った巨大な影がいくつも蠢いていた。


「……デカいのも混ざってやがるな」


レイが顔をしかめる。悠真と陸翔もその輪郭を目にして、思わず息を飲んだ。正確な数などもう分からない。ただ”多すぎる”という現実だけが目の前にあった。


バリケードの上、ウンランが青白い顔で魔力を込め続けている。彼の作り出した地陣の隙間を埋めるように並べられたレンガ状の壁は、決して完璧ではない。だが、そのひび割れ一つひとつに仲間たちの必死の努力が刻まれていた。


「……魔道砲、準備完了!」


報告の声に、全員の視線が空へと向く。


轟音。

地を揺らす重低音とともに、魔道砲の砲身から閃光が迸った。

光の矢は一直線に、群れの奥に潜む巨影を貫く。


次の瞬間、爆炎が巻き上がった。砂と肉片が混じった嵐が広がり、半径十メートルにいた魔物たちがまとめて吹き飛ばされる。轟きが夜空を震わせ、その威力に異世界組の誰もが言葉を失った。


「……すげぇ……」


「これが……魔道砲……」


誰かがそう漏らす。だが歓声は上がらない。煙の向こう、まだ蠢く巨影が見えたからだ。


一撃で仕留めたのは一体だけ。二発目を撃ち込もうとした瞬間、別の大型が重い身体を揺らして横に飛んだ。

直撃は避けられた。だが爆炎はその胴を抉り、巨体を血に染める。


「当たってねぇ……けど、効いてる!」


最後の一撃は、迷わず群れのど真ん中へと放たれた。

轟音と閃光。巻き込まれた数十の魔物が、断末魔をあげながら砂塵に飲まれて消えていく。


だが、魔道砲は沈黙した。

唸りを止めた砲身は熱を帯び、再装填には時間が必要だ。


「ここからが本番だぞ!」


レイの声が戦場に響いた。


-----


魔道砲の閃光が消えた後、戦場には一瞬だけ静寂が訪れた。

だがそれは嵐の前の静けさに過ぎない。


「来るぞ――ッ!」


レイの叫びと同時に、ロックハウンドの群れが壁に取りついた。


レンガ状に組まれたバリケードの隙間を狙い、牙を突き立てる。獣の咆哮と石の軋む音が重なり、空気が震える。

次の瞬間、罠が発動した。


「――ッ!」


爆ぜる閃光。

牙を突き立てたロックハウンド数匹が一斉に吹き飛び、血と砂を撒き散らしながら地に転がる。

ウンランが歯を食いしばりながら陣を維持し、仕掛けられた爆符が次々と発火していった。


「……さすがウンラン!」


ミナが短く叫ぶ。だが、破壊と爆発を繰り返すごとに彼の魔力は目に見えて削られていく。


バリケードを突破した数匹が内部へと躍り込む。

銃声が連なり、矢が閃光のように飛ぶ。

一体、二体――確実に仕留めていく。


最初は順調だった。

だがヴォルグレムの群れが姿を見せた瞬間、空気が一変する。


分厚い甲殻に銃弾が弾かれ、矢が突き刺さっても致命傷にはならない。

その鈍重な巨体が突進してくるたび、壁が軋み、人々の叫びが重なった。


「止めきれねぇ……!」


「弾が通らない!」


混乱する戦線の中、ミナが跳んだ。

双銃を構え、弾丸の雨を一点に集中させる。


「――バレット・ダンス!」


閃光が一条の線となり、ヴォルグレムの眼窩を貫いた。巨体がのけぞり、砂塵を巻き上げて崩れ落ちる。


「ナイスだ、ミナ!」


レイが叫ぶ。その間にも、灰牙の輪の面々は獣の群れを切り裂き、悠真と陸翔は前線に並んで隙間を埋めた。


レイは遊撃隊を束ねながら、矢継ぎ早に指示を飛ばす。


「左翼!突破されるぞ、回り込め!」


「怪我人は下がれ、援護部隊が引き取る!」


戦線はまだ保たれている。

銃撃で遠距離を削り、接近は刀と魔術で迎え撃ち、怪我人は即座に運ばれ回復される。

リオを含むヒーラーたちが絶え間なく光を放ち、次々と前線に仲間を戻していく。


その中でも、ひときわ異彩を放っていたのがボルガンだった。


巨人族の巨体が振るうモーニングスターは、まさに鉄の暴風。

その一撃は獣の群れをまとめて薙ぎ払い、骨も肉も一瞬で砕き潰す。

あまりの威力に、味方でさえ近寄るのをためらうほどだ。だが彼は一人、笑いもせず黙々と獣を屠り続けていた。


「……あれは絶対領域だな」


陸翔が呟き、悠真は無言で頷く。


夕日が沈み、空は紫から闇へと沈んでいく。

松明と火桶が次々と灯され、夜戦の舞台が形を成した。

昼の魔物たちの咆哮が途切れ、代わりに夜の獣たちの唸りが響き渡る。


その時、依頼に出ていたギルド員と診療所の仕事を終えたヒーラー3人が合流してきた。3人とも実力あるヒーラーで、1人はリオ並の回復力、1人は範囲内を一度に回復させ、もう1人はほんのわずかな時間でしっかり睡眠したほどの体力を回復させる。


「……ここからが、本当の地獄だ」


レイの呟きに、悠真も陸翔も答えなかった。



夜の帳が落ち、街の周りはいつもと違い、視界を確保するために煌々と松明が燃えていた。だが戦場の空気はさらに濃密になっていた。


松明の炎が揺れ、闇の中から次々と姿を現す影。

それらは昼間の群れとは違い、ひとつひとつが脅威そのものだった。


蛇のような巨躯に鎧のような鱗を持つ魔獣ナイトサーペント

闇に溶け込むように動き、鋭い牙を閃かせる虎型の魔獣ダスクタイガー


「ちっ……! 昼間よりも一体ごとの質が跳ね上がってやがる!」


レイが悪態を吐きながら銃を乱射するも、獣たちの動きは速い。遠距離攻撃だけでは封じきれず、前線は激しく押し込まれていった。


怪我人が増え、ヒーラーたちの周囲には光が絶えず瞬いている。

リオの額には大粒の汗。仲間を次々と治癒しながらも、その表情に焦りは隠せなかった。


そんな時だった。

突如として、他の魔獣を押し分けながら姿を現したのは――漆黒の鎧に覆われた巨躯。


「……やべぇな」


悠真が息を呑む。


《ナイトオーガ》。

夜の狩人と呼ばれる強力な亜種。通常のオーガよりもはるかに頑強で、夜になると力が増す。


その巨体がバリケードに迫るたび、地面が揺れる。

巨腕が振り下ろされるたびに、石が粉々に砕け散る。


「このままじゃ壁が持たない!」


レイの声が響く。


灰牙の輪も別の群れを抑えるのに手一杯だ。

悠真と陸翔は視線を交わし、頷き合った。


「行くぞ、陸翔!」


「おう!合わせてやるから自由に動け!」


悠真が銃を撃ち込みながらも、ショックバンクの衝撃だけでは決定打にならない。


対してナイトオーガの一撃は直撃したらもちろん、衝撃に巻き込まれるだけでもただじゃ済まない気配の一撃を羽虫を殺す勢いで放ってくる。


その中で悠真がショックバンクでナイトオーガの足をショックバンクで砕く。


その隣で、陸翔が拳を握りしめた。

だが、いつものように悠真のスキルを模倣しても、劣化している。足りない


――違う。悠真のスキルじゃなきゃ、突破できない。


「陸翔! ……来いっ!!」


悠真の叫びが夜空に響いた。


その瞬間。

陸翔の中で何かが”噛み合った”。

模倣が、ただのコピーではなく本物に変わる。


「……っ!? これは……!」


拳に走る衝撃の蓄積。悠真と同じ、いや――同調する力。


「行くぞ!」


「おう!」


二人が同時に踏み込み、拳を振り抜く。


悠真のショックバンクがナイトオーガの胸を砕き、

陸翔の拳が、まったく同じ衝撃を帯びて顎を吹き飛ばす。


――轟音。

巨体がよろめき、砂煙を巻き上げながら崩れ落ちた。


沈黙の後、戦場にどよめきが広がる。

仲間たちが歓声を上げ、前線の士気が一気に高まった。


陸翔は拳を見つめ、呟く。


「……今のは……劣化してない。なんで……?」


悠真は笑って肩を叩いた。


「わかんねぇけど、助かった! お前がいなきゃ倒せなかった」


陸翔の胸に、言葉にならない熱が広がった。

“必要とされた”――その感覚が、彼を震わせていた。


戦場に束の間の歓声が広がった。

だが、それはまだ長い戦いの中のほんの一幕に過ぎない。


夜は深まり、戦場はさらに苛烈さを増していく。

そして、運命の二日目が静かに近づいていた――

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