23.
書き溜めて更新サボってました…
ギルドの緊急会議室に、重苦しい空気が漂っていた。
石造りの机を囲むのは、ボルガンとヴァルド。そして、息を切らしたレイが立っていた。
「……つまり、未発見のダンジョン化した遺跡からモンスターが大量発生。スタンピードの前兆が確認された、ということか」
ヴァルドが指を鳴らしながら確認する。その表情は、いつもの皮肉めいた冷たさではなく、真剣そのものだった。
「ああ。スタンピードがどんな感じか知らないけど、入り口にすでにモンスターが溢れかえってた。カリムたちが時間を稼いでくれてるが、このままじゃ街まで押し寄せる」
レイが汗を拭いながら答える。
「数は?」
「正確には分からない。でも、入り口のところだけでグラディル=バロスクラスが複数。ロックハウンドやスレイヴ・モールは数十匹単位。どれほどの規模のダンジョンなのかわからないからなんとも言えないがすごい数かと……」
ボルガンが腕を組み、低く唸った。
「……分かった。ギルド員は全員強制参加だ。参加しない者には4000ゼルの罰金を科す」
「4000ゼル……」
レイが息を呑む。一般的な冒険者の月収に匹敵する額だった。
「それだけ事態が深刻だということだ」
ボルガンは立ち上がり、窓の外を見つめる。
「ヴァルド、ヒーラーの手配を頼む。できる限り集めてくれ」
「それについては……難しい」
ヴァルドが眉をひそめる。
「ヒーラーは各診療所に所属している。領主代理の権限でも、強制参加させることはできん。有志を募ることしか……」
「それでも構わない。一人でも多く」
レイが前に出る。
「リオたちに声をかけてみます。あの子なら……」
ヴァルドは頷く。
「分かった。私からも正式に要請しよう。ただし、強制はできない。それが我々にできる精一杯だ」
「街の警備兵は?」
「全て動員する。食糧庫、武器庫も開放だ。できる限りのことはする」
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街の中央広場に、鐘の音が響いた。
緊急事態を知らせる、重く低い音。
人々が集まってくる中、ヴァルドが高台に立つ。
「市民諸君。緊急事態だ。街の北西でモンスターの大量発生が確認された。スタンピード発生の可能性が高い」
ざわめきが広がる。
「ギルド員は全員出撃。街の警備兵も総動員する。そして……」
ヴァルドの声が一段と大きくなる。
「ヒーラーの諸君にお願いがある。この戦いに、力を貸してほしい。強制ではない。だが、多くの命がかかっている」
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診療所の奥で、リオは包帯を巻く手を止めていた。
広場からの声が、石造りの壁を通して聞こえてくる。
「リオ、どうするんだ?」
診療所の代表が険しい顔で問いかける。中年の男性で、いつも温厚だが、今日は違った。
「もちろん、行きます」
リオの答えは迷いがなかった。
「馬鹿を言うな。お前が怪我をしたらどうする?それに、放っておいても怪我人は運び込まれてくる。ここにいろ」
「でも……」
「行くなら、もう知らん。好きにしろ」
代表は背を向けた。
リオは小さく息をつき、立ち上がる。
「運び込まれるまでに間に合わない人も出ます。それに、防衛戦が突破されたら、危ないのはここも変わりません」
振り返った代表に向かって、リオは真っ直ぐに言った。
「私は、私を必要としてくれる人がいるところに行きたいんです。今まで、ありがとうございました。何もわからかった私を置いてくれて感謝してます。」
深く頭を下げるリオ。
代表は何も言わず、ただ拳を握っていた。
「……私たちも行くよ」
別の部屋から、若い女性スタッフが現れた。
「リオほどのスキルじゃないけど、少しでも役に立てるなら」
「私も」
「俺も行く」
次々とスタッフが意思表示する。
リオの決意が、みんなを動かしていた。
「他の診療所にも知り合いのヒーラーいるから声をかけてみる」
リオが言うと、スタッフたちも頷いた。
「ありったけの傷薬と包帯を買ってこよう」
「準備を急がないと」
診療所が慌ただしくなる中、代表だけが窓際に立っていた。
その目には、複雑な光が宿っていた。
結果として集まったのは、街のヒーラーの半数。10人ほどだった。
最も強力なスキルを持つリオを筆頭に、それぞれが薬品と包帯を抱えて広場に集まる。
他の強力なヒーリングスキルを持つ者たちは、様々な理由で参加できなかった。
それでも、これだけの数が集まったのは奇跡に近かった。
「思ったより集まったな」
ボルガンが感心したように呟く。
「リオの呼びかけがあったからです」
レイが答える。
リオは薬品の入った袋を背負い、静かに空を見上げていた。
夕陽が街を染め、戦いの時が近づいていることを告げている。
「みんな、無事に帰ってきてください」
小さく呟いた言葉は、風に乗って消えていった。
だが、その決意は確かに胸に宿っていた。
誰かのために、自分ができることをする。
それだけで十分だった。
街に、戦いの鐘が響き続けていた。
その頃、砂丘では別の戦いが続いていた。
「弾が尽きた……!」
悠真がハンドガンのスライドを引くが、空撃ちの音が虚しく響く。陸翔も同様に弾切れ。二人は拳とナイフだけの戦いを強いられていた。
ミナだけがレイの置き土産の魔導弾で援護を続けるが、それも底を突きかけている。
「バレットダンス……!」
跳弾が複数のロックハウンドを同時に貫く。だが、次の瞬間にはまた新しいモンスターが現れる。
「きりがない……」
ウンランが地陣を展開するが、疲労で精度が落ちている。小さく不安定な壁しか作れず、モンスターに簡単に破られてしまう。体力に自信のない彼は、すでに疲労困憊だった。
「ウンラン、下がってて!」
ミナが前に出て、彼をかばう。
カリムとグランが前衛を支えるが、二人にも疲労の色が濃い。ノアの魔力矢とシェルの風刃も威力が落ち、決定打に欠ける。全員が大なり小なり傷を負い、無傷の者は誰一人いなかった。
それでも、悠真と陸翔だけは時間を追うごとに動きが良くなっていった。
悠真の拳が唸る。反射神経と動体視力が研ぎ澄まされ、モンスターの動きが以前より鮮明に見える。完全に紙一重で避けながらショックバンク無しでロックハウンドを殴り倒していた。この世界に来てから培った戦闘経験が、ようやく彼の並外れた身体能力と噛み合い始めていた。
陸翔は感覚を取り戻すように流れるような連携を見せる。二つのスキルを同時に操り、地陣で誘導しながらナイフで削り、近接で衝撃を溜めショックバンクで止めを刺す。ナイフワークも冴え渡り、硬い皮膚を正確に裂いていく。
「……すげぇな、あの二人」
グランが呟く。
「成長してる。戦いながら」
ノアも感心したように言う。
だが、それでも数の差は埋まらない。足の速いスレイヴ・モールの群れが追いついてき、一行を囲むように配置する。
「まずい……!」
カリムが槍を構える。だが、全方向からの攻撃は防ぎきれない。
「このままじゃどうにもならん」
グランが大盾を構え、前に出る。
「足の遅いオレに合わせてじゃ追いつかれる。オレが止めるから全力で引け」
「グラン!」
仲間たちが止めようとした瞬間、シェルが羽を広げた。
「バカグラン、そういう自己犠牲いらないのよ。残りの魔力、全部使う……!」
残された魔力を全て注ぎ込み、小さな竜巻を作り出す。
「ネイラ、あの竜巻と一緒に踊って!」
ノアがすぐさま精霊魔法でそれを強化。竜巻は瞬く間に巨大化し、モンスターたちを巻き込んでいく。
「今だ!」
カリムが魔力の尽きたシェルを抱え上げ、全力で駆け出す。他の仲間も続いた。
混乱から立ち直ったモンスターたちが追いかけてくるが、悠真と陸翔が殿を務める。
悠真の《ショックバンク》が炸裂し、陸翔の模倣スキルが援護する。二人の連携で、追いつかれそうになる度にモンスターを蹴散らしていく。
やがて、夕陽に照らされた街の輪郭が見えてきた。
石造りの城壁、見慣れた建物の屋根、街の灯り。
「見えた……!」
ミナが声を上げる。
だが、背後からはまだモンスターの咆哮が響いている。追跡は続いていた。
街まで、あと少し。




