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Beyond the Record  作者: しおん
『サル=ヴァリド』
25/29

22.

砂丘の奥で見つけたのは、巨大な石造りの遺構だった。

ほとんどが砂に埋もれているが、その規模は一目で分かる。古代のダンジョンか神殿か――いずれにせよ、この世界の歴史に刻まれた巨大建造物だ。


「これは……」


カリムが息を呑む。その表情は、街の警備隊長としての穏やかさではなく、《灰牙の輪》の長としての鋭さを宿していた。


「古代遺跡ね。でも、こんなところにあったかしら。未発見かも……それに魔力の流れがおかしいわ。中から溢れ出してる」


ノアが弓を構えながら呟く。尖った耳がわずかに動き、魔力の乱れを感知している。


悠真は手甲を締め直しながら近づこうとしたが、カリムに止められた。


「待て。あそこから出てる魔力、尋常じゃない。それに……来るぞ!」


カリムの言葉が出た瞬間、遺構の入り口から黒い影が流れ出た。

一匹、二匹……いや、数十匹。

ロックハウンド、スレイヴ・モール、グラディル=バロス――様々なモンスターが次々と姿を現す。


「スタンピードの前兆……!」


グランが顔を青くする。


「このまま放置したら、街まで押し寄せる!」


ミナが魔導弾を装填しながら叫んだ。


カリムは即座に判断を下す。


「レイ、お前は街に戻って報告だ。ヴァルドとボルガンに緊急事態を伝えろ。俺たちは少しでもモンスターを間引く」


「でも、この数を俺たちだけで……」


「全部倒す必要はない。時間を稼ぐんだ」


レイは頷くと、《ヴォイド・クローゼット》を発動した。

空間に黒い裂け目が生まれる。だが今回は、物を取り出すのではない。


「隠し技ってわけじゃないけどな……」


レイは苦笑いを浮かべ、裂け目に足を踏み入れた。


「え、入れるの?」


悠真が驚くと、レイは振り返って答える。


「3つのクローゼットのうち1つは街の事務所に設置してある。中に入って直接移動できる。……めちゃくちゃ狭いし息苦しいけどな」


そう言って、レイは完全に裂け目の中に消えた。



モンスターたちが波のように押し寄せてくる。

《灰牙の輪》が前衛に出て、悠真たちが後方から援護する布陣だ。


「悠真、左から!」


ミナの声に応じ、悠真が拳を構える。

ロックハウンドが跳びかかってきた瞬間、《ショックバンク》が炸裂。

溜め込んだ衝撃が拳に乗り、硬い鱗を内側から砕く。


「よし!」


だが、次の瞬間――


「《模倣・地陣》、《模倣・バレットダンス》」


陸翔の声が響く。

同時に二つのスキルが発動される。80センチほどの控えめな地陣でモンスターを誘導し、抜けてきたモンスターの急所にバレットダンスでわずかながらの調整をしながら、的確に銃弾を叩き込む。


さらにそのままモンスターの集団に突っ込み、ナイフで硬い皮膚を剥ぎながら、さらにそこに銃を撃ちとどめをさしていく。



「えっ……同時に?」


ウンランが目を丸くする。


「昨日までの動きと違う?!」


ミナも驚愕を隠せない。


しかし悠真だけは、あっさりと答えた。


「いや、陸翔ならこれくらい出来るだろ?」


「え……」


「なんか悩んでるみたいだから、話したくなるまでほっといた」


悠真のあまりにもしれっとした反応に、ミナとウンランは言葉を失った。



戦闘が続く中、陸翔が悠真のスキルを模倣した瞬間――

悠真の脳内に映像が流れ込んだ。


インプリント。


だが、それは陸翔の記憶ではなく、リュド・ヴァルクの記憶だった。


砂漠の街。まだ幼い少年が、兄の後ろを歩いている。

黒髪で無口な少年――カイ。

兄の名はアキラ。快活で、よく笑い、夢を語る青年。


『カイ、お前も冒険者になるのか?』

『……兄さんみたいに』

『俺より強くなれよ』


その映像を見た瞬真は、息を呑んだ。

なんでカイが?と言葉が漏れそうになるものの、戦闘に頭を切り替え1匹ずつ確実に削っていく。


記憶の中のカイは、幼くはあったが確かにあの時遺跡で出会った男と同じ顔をしていた。



戦闘の合間に、悠真は陸翔の横顔を盗み見た。

普段通りの無表情だが、どこか吹っ切れたような清々しさがあった。




モンスターの波が一時的に止まる。

だが、遺構の奥からはまだ唸り声が聞こえてくる。


「きりがないな……」


カリムが呟く。


「でも、少しは数を減らせた。街への被害は軽減できるはず。ここからは撤退戦よ。」


ノアが弓を構えながら言う。


「問題は、この遺構の正体よ。なぜ今になってモンスターが溢れ出したのか」



「そうだな。ここに遺跡などなかったはず。引くぞ。」


カリムが全員に指示を出す。


「ただし、完全撤退ではない。街への道のりで、追いかけてくるモンスターを間引きながら帰る」


一行は砂丘を後にした。

だが、悠真の頭には先ほどのインプリントの映像が焼き付いていた。


「さっきのは誰の…スキルのタイミング……陸翔…?」


頭の中を整理しながらみんなの後ろをついていく。


夕陽が砂漠を赤く染める中、彼らは街へと向かう。

背後では、まだ遺構から低い唸り声が響いていた。


嵐の前の静けさは、もうすぐ終わる。

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