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Beyond the Record  作者: しおん
『サル=ヴァリド』
23/29

20.

朝の空気は、どこか重たかった。

街の広場に集まった調査隊は、言葉少なに準備を進めていた。

悠真は手甲を締め直し、陸翔も新たなブーツの感触を確かめるように地面を踏みしめていた。。

レイ、ミナも銃火器の整備をし、ウンランも落ち着かなげにそれぞれの装備を整えていた。


そこへ、静かに現れた一団。

亜人だけで構成された精鋭部隊――《灰牙の輪》。


先頭に立つのは、獣人のカリム・ヴェルナ。

街の警備隊長としての穏やかな顔ではなく、いまは鋭い眼光と隙のない動き。彼の纏う雰囲気だけで、並の冒険者が息を呑むほどの圧があった。


「助けた時以来か。まだ少ししか経ってない気がするが、2人とも変わったのがわかるぞ。」


カリムの一言に、悠真たちは頷いた。


「紹介しよう。エルフのノア、ドワーフのグラン、鳥人のシェル、最後に蛇人のミルカ。戦闘スタイルは見たほうが早いな。」


亜人たちは無言で隊列を組み、調査区域へと歩を進める。


その後ろを歩く悠真が陸翔に呟く


「エルフ初めて見た。めっちゃ美人。」

「少しは緊張感持てよ……」


陸翔が悠真の頭を呆れながら引っ叩くのを灰牙の輪の面々はにこやかに見ていた。



魔力の空白地帯。


カリムが全員に短く号令をかける。


「やはり魔力の流れがおかしい。何が起こるかわからないから油断するな。」


砂丘の端に差し掛かった瞬間、地面が揺れた。


――グゥゥゥゥ……


砂煙が巻き上がり、巨体が姿を現す。

岩のような表皮、鈍重な動き、そして咆哮。


「グラディル=バロス……!」


ミナが息を呑む。


「ヴォルグレムより格上よ。こんな場所に出るなんてやっぱり変よ……」


レイが銃を構えようとした瞬間、カリムが手を上げた。


「下がってろ。これは、俺たちだけでやる」


灰牙の輪が一斉に動く。

魔術と体術が交錯し、表皮を剥がす連携が始まる。

ノアの魔力矢が表皮を裂き、グランの大盾が咆哮を受け止める。

シェルが空中から風刃を浴びせ、ミルカが地を這って拘束魔術を展開。

カリムが大槍を硬い頭部を刺突であっさり貫く。


悠真たちは、ただ見守るしかなかった。

その戦闘は、異次元だった。



グラディル=バロスの巨体が砂に沈み、風が静かに吹き抜ける。

悠真は拳を下ろしながら、亜人たちの動きを目で追った。


「……あれが、上級の冒険者か……」


陸翔が隣で呟く。


「やばいな。次元が違う。合わせられるタイミングが少ししか見つからなかった」


レイが腕を組みながら言った。


「少しでも合わせるタイミングがわかるならすげーよ。まぁ、俺らには俺らのやり方がある。比べる必要はない」


ミナが指をさす。


「カリムさんの槍いつ見てもすごいね。あんた達も助けられたなら多分見てるでしょ?本職はこっち。槍と体術、あと魔力感知のスペシャリスト」


「シェルは鳥人の戦闘スタイルの定番ね。空から風刃飛ばして撹乱、並のモンスターや冒険者じゃ捉えるのも難しいわ。偵察と索敵担当。あの子、悠真にちょっと興味あるっぽいよ?」


「……え?」


「ノアは逆に結構無口ね。魔力矢使うの。魔導弾の弓版ね!あと精霊魔法も強力よ。契約した精霊を体に宿して使うの。魔力の流れを読むのが得意で、調査任務も彼女が中心になるんじゃないかな?」


「グランは盾役ね。盾で咆哮受け止めてたから見たらわかると思うけど。防御魔術と近接武器の使い手。ガルドさんと昔からの知り合いらしい」


「地面這ってたのが……ナーガ族のミルカ・ナーヴ。毒魔術と拘束術の使い手。静かだけど、あれが一番怖いかも」


悠真は目を細めた。


「…どれもオレには真似できないかな……けどもう少しで合わせられそうなんだよなー。」


レイが笑う。


「できなくて当たり前だ。まだこっち来てそんな経ってないんだから。お前らの成長は、ここからだ」




夜の砂丘に、風が静かに吹いていた。

悠真は拳を見つめ、陸翔は黙って拳を握る。


「次は、俺の番だ」


その数分後。

その言葉通り、次に現れたのは同じくグラディル=バロスの個体。

今度は灰牙の輪が一歩引き、悠真たちに任せる。


「いくぞ」

レイがXM7を構える。


「了解。魔導弾装填」

ミナが同じくXM7をセット。


銃声が轟き、魔力を帯びた弾丸が表皮を削る。

しかし硬質な外皮は容易には砕けず、ダメージにならない。


「……仕方ないわね。赤字覚悟でいくわよ」

ミナの指フルオートで引き金も引き続ける。


《バレットダンス》


あらゆるところに放たれた銃弾が意思を持ったかのように跳ね返り同一点に着弾。

硬質な表皮が砕け、柔らかい部分を穿つ。

グラディル=バロスが鳴き声を上げながら身を捩り、


「これ、使うたびに財布が軽くなるのよ……!」



陸翔は悠真の動きを見ながら、スキルをコピーしようとする。


《模倣・ショックバンク》


大きく踏み込み、砂を散らし肘を入れる。

だが、衝撃の溜まりが明らかに遅く出力が足りない。


「……劣化してる。あの時は使えたのに、今は違う。何が……」


彼は初めて、自分の戦いが「借り物」でしかないことを痛感した。



一方、悠真は拳を握り、銃を構える。


「喰らえっ……!」


ハンドガンの反動が腕に伝わる。

その衝撃を、《ショックバンク》が吸収する。


「すげー反動……スキルなきゃまともに当てられないかも。これならすぐ溜まりそう。」


そう言って、衝撃が吸収され照準がブレないため、連射しまくる悠真


悠真が拳を振るう。


《ショックバンク》


溜まった反動を拳に乗せ、打撃として放つ。

直撃した拳から衝撃が波のように走り、硬い外皮を大きく砕き内部まで衝撃が貫通する。


「よっしゃっ!手応えあったぞ!どーだっ?」


大きく身を捩り、もがくグラディル=バロスにミナとレイが頭部に連射でトドメをさす。


カリムが遠くから見て、静かに呟いた。


「……なるほどな。何故かは知らんが…話してみるか。」




戦闘が終わり、砂煙が静まる。

悠真は拳を見つめ、陸翔は下を向き黙って拳を握る。


「まだまだ、だけど……少しは見せられたかな」


「……」


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