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Beyond the Record  作者: しおん
『サル=ヴァリド』
17/29

14.

――静寂の中、何かが揺れていた。


夢を見ていた。いや、それは夢ではない。記憶だ。

誰にも語ったことのない、誰にも知られていない、彼自身の“前”の物語。


名前は、リュド・ヴァルク。

スキルを持たず、ただ拳と刃と銃だけで生き抜いた男。


育ったのは、サル=ヴァリド。

砂漠のオアシスに作られた元は古代遺跡の調査のキャンプが徐々に大きくなり、街になったらしい。今では交易の中継地点として賑わっている。

リュドは、そこで一人の少年と出会った。


「アキラって言うんだ。よろしくな、リュド!」


黒髪で、快活で、どこか無鉄砲な少年。

リュドとは正反対の性格だったが、なぜか気が合った。

二人はいつも一緒にいた。砂漠を駆け、獣を狩り、焚き火を囲んで未来を語った。


16歳。二人はギルドに入った。

最初は下級依頼ばかり。荷物運び、素材集め、雑用。

だが、リュドは黙々とこなした。スキルがない分、動きで補った。

拳の打ち方、ナイフの投げ方、銃の構え方――すべてを磨いた。


アキラは早くからスキルを発現した。

《ファイアスターター》。視界の届くところに炎を生み出し、爆発的な攻撃力を持つ。

ギルドでも注目される存在になった。


それでも、彼は言った。


「リュド、お前は本物だ。スキルなんかなくても、誰より強い」


その言葉が、リュドの支えだった。


---


リュドとアキラが20になる頃、2人は順調に依頼をこなし、サル=ヴァリドを離れ各地を転々としていた。

サル=ヴァリドの近くに依頼できた2人は久々に故郷へ帰ってきていた。


「久しぶりだな、リュド」

「あぁ、このクソッタレな日差しで嫌でも帰ってきたことを実感する。」


アキラが笑いながら歩いてきた。

その隣には、まだ幼さの残る少年がいた。黒髪で、無表情。だが、目だけは鋭かった。


「弟。名前はカイ。あんま喋らないけど、頭はいい。俺よりずっと冷静」


リュドは黙って頷いた。

少年は一歩前に出て、軽く頭を下げる。


「……兄さんにリュドさんの話、よく聞いてます」


その声は静かだったが、どこか重みがあった。

篝火の火が揺れ、風が吹いた。


リュドは、少年の瞳を見た。

その奥に、何かを見透かすような光があった。


「そうか。よろしくな」


それだけ言って、拳を軽く握った。

少年も、同じように拳を握り返した。


---


時は流れ、二人は中堅上位の依頼をこなすようになった。

パーティは流動的だったが、リュドとアキラだけは常に一緒だった。


そして、運命の依頼が舞い込んだ。


「セルカ=ミル大森林の中部。魔力異常の調査と、モンスターの排除」


その日、5人のパーティが森を進んでいた。

誰もが中堅以上の実力者。だが、中心にいたのは、スキルを持たない一人の男だった。

拳、ナイフ、銃――近距離から中距離までを自在にこなす、無骨な戦術屋。


彼の隣には、黒髪の青年がいた。

快活で、炎を操るスキルを持つ。


「気をつけろ。来るぞ!」


リュドの勘は鋭かった。だが、遅かった。


霧の中から、黒い影が跳ねた。

巨大な虎――いや、それは虎ではない。

全身に魔力の紋様が走り、目は赤く、牙は異常に長い。


「黒いグリムファング……!ニグリスか!クソッタレ!」


誰かが叫んだ。ネームドモンスター。

記録に残る限り、撃退例はない。


戦闘が始まった。


アキラの炎が霧を焼き、リュドの銃が牙を狙う。

仲間たちも必死に応戦した。だが、グリムファングは異常だった。


跳躍。咆哮。再生。

攻撃が通らない。傷が塞がる。動きが止まらない。


一人、また一人と倒れていく。


「リュド、下がれ!」


アキラが叫ぶ。だが、リュドは前に出た。

爆弾叩き込み、ナイフを刺し、銃をから魔導弾を撃つ。

そのすべてが、グリムファングの皮膚と再生力の前には無駄だった。


そして――


「アキラ!!」


グリムファングが跳び、アキラを噛みちぎり一飲みににした。

炎が霧散し、声が消えた。


リュドは、見ていた。

叫ぶこともできず、ただ拳を握っていた。


次の瞬間、牙が彼の胸を貫いた。


痛み。血。視界の揺れ。謎の声。


「ニグリス、よくやったぞ。ヤルダバオートへの贄が増えた……」


そして――闇。


スキル--転生--


---


その闇の中で、何かが割れた。


空間が歪み、光でも闇でもない場所に落ちていく。

声が聞こえた。


「まだ終わってない」


誰の声かはわからなかった。

だが、確かにそう言った。



「……アキラ…カイ…」


彼は、誰にも聞こえないように呟いた。


記憶は戻ったわけではない。


そして、彼は拳を握った。


「今度は……守る」


夜明けの空に、青いラケシスが浮かんでいた。

運命の流れは、静かに動き始めていた。

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