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Beyond the Record  作者: しおん
『サル=ヴァリド』
15/29

12.

朝の空気は澄んでいた。

焚き火の跡がまだ地面に残り、昨日の戦闘の余韻が静かに漂っている。

三つの衛星はすでに沈み、空は淡い青に染まり始めていた。


「片付け終わったよー。こういう時ほんとにレイのスキル便利だよね!」


ミナが寝袋を畳みながら声を上げる。

レイは無言で銃を磨いていたが、口元がわずかに緩んだ。


「まあな。掃除だけは得意だ」


ウンランは地図を広げ、魔力濃度の分布を確認している。

リオは少し離れた場所で静かに空を見ていた。

彼女の顔色も戻り、回復しているようだったが、目の奥にはまだ痛みが残っていた。


悠真は拳を握りながら、昨日の戦いを思い返していた。

リオのスキル、仲間の連携、そして自分の拳に蓄積された衝撃の感覚。

あの瞬間、自分は誰かを守れた。それが、確かに胸に残っていた。


「リオ、大丈夫?」


「はい。痛みは残ってますけど……動けます。」


彼女の声は静かだったが、揺るぎなかった。

その言葉に、ミナがそっと肩を叩いた。


「無理しないで。あんたが倒れたら誰か死ぬかもしれない。」


リオは小さく微笑んだ。



廃村の奥へ進むと、空気が一段と重くなった。

地面には赤黒い紋様が浮かび、魔力の濃度が肌にまとわりつく。

建物はさらに朽ち、軋む音が風に混じって響いていた。


「ここ、魔力濃すぎるな……誰かいる。気をつけろ」


レイが銃を構えながら呟く。

悠真は拳を握り、陸翔はナイフを手に取った。

ミナは跳弾の軌道を確認し、ウンランは地陣の準備を始めていた。

リオは後方で静かに周囲を見渡していた。まだ回復は使っていない。


その時、建物の影から黒い霧が漏れ出した。

霧の中から、二体の獣型の魔物が姿を現す。

“記憶の残骸”――通常個体。

四足で、体格は中型。紋様が体に走り、目は赤く光っている。


「来たな……!」


ミナが跳弾を放つ。弾は壁を跳ね、魔物の側頭部をかすめる。

ウンランが地陣を魔物の目の前に展開準備をし、飛び出した瞬間に発動する。

一体が足を取られ、動きが鈍る。


「今!」


レイが狙撃。魔物の肩を撃ち抜く。

だが、もう一体が跳びかかってくる。


前に出た悠真の拳が魔物の腹部にめり込み、衝撃が弾ける。

だが、まだ足りない。衝撃は蓄積されていく。


「悠真、右!」


陸翔が叫びながら大きく踏み込み、肘が魔物の脇腹を叩く。

動きが止まった瞬間、悠真が再び拳を叩き込む。


「《ショックバンク》、まだ溜まる……!」


魔物が咆哮を上げる。

だが、連携は崩れない。


ミナが跳弾で牽制し、ウンランが地陣を再展開。

レイが狙撃で削り、陸翔が銃を取り出し援護。


悠真の拳が唸る。

衝撃が一瞬で解放され、魔物の胸部が内側から砕ける。

霧が弾け、魔力が散る。


「やっと溜まったか」


レイが呟く。

悠真は肩で息をしながら、拳を見つめた。


もう一体も、陸翔の銃とミナの跳弾で仕留められた。

戦闘は終わった。


リオが一歩前に出る。


「血が出てます!スティグ…」


悠真は首を振った。


「ホントだ、これくらいなら平気。温存しといて」


リオは頷き、拳を握った。



その時、空気が変わった。


奥の台座の前に、ローブ姿の人物が現れた。

深くフードを被り、顔は見えない。

だが、前回の遺跡で見た人物とは違う。背格好も異なる。


「動くな。少しでも妙な動きしたら撃つ」


レイの声は低く、銃口はすでに相手を捉えていた。


ローブの人物は、ゆっくりと顔を上げた。

だが、フードの影で表情は見えない。


「またか。よほどこの実験が気になるらしいな。面倒だが……冥土の土産に何か聞きたいことあるか?」


その声は、異様に滑らかだった。

感情がなく、ただ言葉だけが空気を震わせる。


その言葉に、陸翔が一歩前に出る。

ナイフをしまい、銃を構える。


「お前、何者だ?」


「名乗るほどの者ではない。だが、強いていうならヤルダバオートの使徒とでも言っておくか。神が去ったからな」


その瞬間、陸翔の目が揺れた。

そして、何の前触れもなく引き金を引いた。


銃声が響く。だが、弾は何かに阻まれた。

空間が歪み、弾道が逸れる。


「おっと、知ってる者がいるのか。そろそろレコード機関が動き出してるようだ。来る前に消えてもらうが」


ローブの人物は、わずかに首を傾けた。

その仕草に、悠真の背筋が冷えた。


「そろそろこの地も潮時だ。私はそろそろお暇するとしよう」


その言葉と同時に、台座が赤く光り始める。

地面が震え、空気が軋む。


「記憶の残骸よ、目覚めよ」


地面が裂け、黒い霧が噴き出す。

そこから現れたのは、異常個体の“記憶の残骸”だった。


四足の獣型。

だが、通常個体とは違い、体は巨大で、紋様が全身に走っている。

目は赤く、口からは黒い霧が漏れていた。

皮膚は半透明で、内側に脈打つ魔力が見える。


「来るぞ!」


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