12.
朝の空気は澄んでいた。
焚き火の跡がまだ地面に残り、昨日の戦闘の余韻が静かに漂っている。
三つの衛星はすでに沈み、空は淡い青に染まり始めていた。
「片付け終わったよー。こういう時ほんとにレイのスキル便利だよね!」
ミナが寝袋を畳みながら声を上げる。
レイは無言で銃を磨いていたが、口元がわずかに緩んだ。
「まあな。掃除だけは得意だ」
ウンランは地図を広げ、魔力濃度の分布を確認している。
リオは少し離れた場所で静かに空を見ていた。
彼女の顔色も戻り、回復しているようだったが、目の奥にはまだ痛みが残っていた。
悠真は拳を握りながら、昨日の戦いを思い返していた。
リオのスキル、仲間の連携、そして自分の拳に蓄積された衝撃の感覚。
あの瞬間、自分は誰かを守れた。それが、確かに胸に残っていた。
「リオ、大丈夫?」
「はい。痛みは残ってますけど……動けます。」
彼女の声は静かだったが、揺るぎなかった。
その言葉に、ミナがそっと肩を叩いた。
「無理しないで。あんたが倒れたら誰か死ぬかもしれない。」
リオは小さく微笑んだ。
廃村の奥へ進むと、空気が一段と重くなった。
地面には赤黒い紋様が浮かび、魔力の濃度が肌にまとわりつく。
建物はさらに朽ち、軋む音が風に混じって響いていた。
「ここ、魔力濃すぎるな……誰かいる。気をつけろ」
レイが銃を構えながら呟く。
悠真は拳を握り、陸翔はナイフを手に取った。
ミナは跳弾の軌道を確認し、ウンランは地陣の準備を始めていた。
リオは後方で静かに周囲を見渡していた。まだ回復は使っていない。
その時、建物の影から黒い霧が漏れ出した。
霧の中から、二体の獣型の魔物が姿を現す。
“記憶の残骸”――通常個体。
四足で、体格は中型。紋様が体に走り、目は赤く光っている。
「来たな……!」
ミナが跳弾を放つ。弾は壁を跳ね、魔物の側頭部をかすめる。
ウンランが地陣を魔物の目の前に展開準備をし、飛び出した瞬間に発動する。
一体が足を取られ、動きが鈍る。
「今!」
レイが狙撃。魔物の肩を撃ち抜く。
だが、もう一体が跳びかかってくる。
前に出た悠真の拳が魔物の腹部にめり込み、衝撃が弾ける。
だが、まだ足りない。衝撃は蓄積されていく。
「悠真、右!」
陸翔が叫びながら大きく踏み込み、肘が魔物の脇腹を叩く。
動きが止まった瞬間、悠真が再び拳を叩き込む。
「《ショックバンク》、まだ溜まる……!」
魔物が咆哮を上げる。
だが、連携は崩れない。
ミナが跳弾で牽制し、ウンランが地陣を再展開。
レイが狙撃で削り、陸翔が銃を取り出し援護。
悠真の拳が唸る。
衝撃が一瞬で解放され、魔物の胸部が内側から砕ける。
霧が弾け、魔力が散る。
「やっと溜まったか」
レイが呟く。
悠真は肩で息をしながら、拳を見つめた。
もう一体も、陸翔の銃とミナの跳弾で仕留められた。
戦闘は終わった。
リオが一歩前に出る。
「血が出てます!スティグ…」
悠真は首を振った。
「ホントだ、これくらいなら平気。温存しといて」
リオは頷き、拳を握った。
その時、空気が変わった。
奥の台座の前に、ローブ姿の人物が現れた。
深くフードを被り、顔は見えない。
だが、前回の遺跡で見た人物とは違う。背格好も異なる。
「動くな。少しでも妙な動きしたら撃つ」
レイの声は低く、銃口はすでに相手を捉えていた。
ローブの人物は、ゆっくりと顔を上げた。
だが、フードの影で表情は見えない。
「またか。よほどこの実験が気になるらしいな。面倒だが……冥土の土産に何か聞きたいことあるか?」
その声は、異様に滑らかだった。
感情がなく、ただ言葉だけが空気を震わせる。
その言葉に、陸翔が一歩前に出る。
ナイフをしまい、銃を構える。
「お前、何者だ?」
「名乗るほどの者ではない。だが、強いていうならヤルダバオートの使徒とでも言っておくか。神が去ったからな」
その瞬間、陸翔の目が揺れた。
そして、何の前触れもなく引き金を引いた。
銃声が響く。だが、弾は何かに阻まれた。
空間が歪み、弾道が逸れる。
「おっと、知ってる者がいるのか。そろそろレコード機関が動き出してるようだ。来る前に消えてもらうが」
ローブの人物は、わずかに首を傾けた。
その仕草に、悠真の背筋が冷えた。
「そろそろこの地も潮時だ。私はそろそろお暇するとしよう」
その言葉と同時に、台座が赤く光り始める。
地面が震え、空気が軋む。
「記憶の残骸よ、目覚めよ」
地面が裂け、黒い霧が噴き出す。
そこから現れたのは、異常個体の“記憶の残骸”だった。
四足の獣型。
だが、通常個体とは違い、体は巨大で、紋様が全身に走っている。
目は赤く、口からは黒い霧が漏れていた。
皮膚は半透明で、内側に脈打つ魔力が見える。
「来るぞ!」




